■ 拍手ログ14


「そりゃあ、一年なんかあっという間のはずだよね」
青島は椅子の背もたれにだらしなく寄り掛かりぼやいた。
誰に向かって言ったわけでもない激しい独り言だったが、背後のすみれが振り返って怪訝そうな声で聞き返してきた。
「なんの話?」
青島は首だけですみれを振り返った。
「もう街の中クリスマス一色、まだひと月もあんだよ?」
聞き込みから帰ったばかりの青島は、いつの間にか街の中がクリスマスのディスプレイ一色になっていることに気付いて、もうそんな季節なのかと驚いた。
そして、げんなりした。
まだ11月も半ばを過ぎた辺りなのに、クリスマスの存在感たるや大き過ぎる。
クリスマスといえばもう年末であり、一年が終わってしまう。
「クリスマス終わったら、正月でしょ?年が明けたらバレンタイン…それが過ぎたらもう春だ」
「ちょっと、やめてよ。なんか早く歳を取りそうだわ」
「だよね、気忙しいって言うかさー」
嫌な顔をするすみれに同意し、青島は不意に真顔になった。
「なんか本当に焦ってきた。年内にやり残したことないかなあ」
「出世とか結婚とか?」
「後一カ月で出来ることにしてくれる?」
「ボーナスで同僚にご飯ご馳走するとか」
うふっと笑って図々しいことを言うすみれに呆れた視線を返し、青島は内ポケットから携帯電話を取り出した。
震える携帯のディスプレイを見て席を立つ。
「宝くじ買った方が有意義かも」
べーっと舌を出すすみれに手を振って、喫煙室に向かった。

『室井だが、今大丈夫か?』
電話の相手は室井だった。
青島は椅子に腰を下ろし煙草を咥え、ついでに一服することにした。
「休憩中だから大丈夫ですよ、なんかありました?」
『すまない、今日は行けなくなった』
青島はやっぱりなと思った。
今夜青島の部屋で会うことになっていたが、室井から連絡が来たことでその約束が流れるような予感はしていた。
正直に言えばガッカリだが、こればかりはわがままも言えない。
「了解です」
『すまない』
「仕事でしょ?気にしないでいいですよー」
『埋め合わせは近いうちに』
お互い様なんだから気にしないでいいのにと思いつつ、ふざけた返事をする。
「わがまま聞いてくれんですか?何してもらおっかなー」
沈黙が返ってくるから、眉間に皺を寄せた室井の顔が頭に浮かび、思わず笑ってしまった。
青島が冗談ですよと言う前に、室井が言った。
『誕生日に奮発してやる』
そういえば、来月は青島の誕生日だった。
誕生日が嬉しい歳でもないが、室井に祝ってもらえること自体は嬉しく思う。
「まじですか?」
『何か欲しいものあるか?』
「えーとえーと、どうしようかなー…」
欲しいものがないこともない。
目をつけている発売したばかりの腕時計があるし、使い古された財布もそろそろ新調しようと思っていた。
そういやブーツの踵が磨り減ってるなーと、自分の足下を見下ろした。
どれも欲しいと思うし、必要なものだ。
だがそれよりも、室井から貰うならば、嬉しいものがある気もする。
付き合いたてのカップルでもあるまいし、と若干照れを覚えるが、長い付き合いの恋人に願ってはいけないということもないだろう。
青島は微かに照れ笑いを浮かべた。
「ま、一緒にいられれば、プレゼントは別に無くても」
また沈黙が返ってくる。
気恥ずかしさが増して、青島は笑って誤魔化した。
「本当は旅行とか行けたらいいんですけどね、年明けに室井さんの誕生日祝いも兼ねてとかさ」
難しいのは分かっているが、希望するくらいは自由だろう。
そんな軽い気持ちで口にした、半ば冗談のつもりの提案だったが、室井からは肯定の返事が返ってきた。
『年末年始は無理かもしれないが、一月中には何とかしよう』
肯定されて、青島の方が慌てた。
思い付きの提案であって、真剣に考えていたわけではない。
それこそ、本当に一緒にいられるならそれで良くて、旅行にこだわりがあるわけではなかった。
「あっ、と…大丈夫ですか?無理しなくていいんですよ?」
『君こそ大丈夫か?』
「俺はまあ、早めに希望出せば一日くらい…大きな事件でも起きなきゃですけど」
『なら、後で日程調整しよう』
ドタキャンの電話から思わぬ旅行の約束に発展してしまった。
室井が無理してないだろうかと少し心配になる。
「室井さん、本当に大丈夫?」
『青島』
「はい?」
『一緒にいたいのは君ばかりじゃないぞ』
青島は目を丸くしたが、なるほどと納得した。
目からウロコと言っては大袈裟だが、そんな気分だった。
今夜だって、室井は青島に会いたいと思っていてくれたに違いない。
こんなに想い合っているのだから、仕事を休んで一泊旅行くらいしたって罰は当たらないだろう。
良く分からない納得の仕方で、青島はすっきりと落ち着いた。
「楽しみにしてます」
『俺もだ』
また連絡すると言って切れた電話をしまい、青島は少し短くなった煙草を咥えた。
年明け早々楽しみが出来たなと思い、苦笑した。
来年のことを考えて焦っていたのはついさっきのことである。
今は楽しみで仕方ない。
現金なものだと、笑うよりなかった。










END

2014.2.24





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