■ Darling!


「ごめんってば」
何度目かの言葉を繰り返すが、青島に背を向けて新聞を読んでいる室井は振り返らない。
その背を眺めて、青島はひっそりと溜息を吐いた。
折角室井が泊まりに来てくれたのに、くだらないことでケンカをした。
あまり派手なケンカはしないが、時々は言葉や気遣いが足りず、ボタンの掛け違い程度の擦れ違いで、些細なケンカをすることはあった。
長い付き合いだから、機嫌が悪い日もあれば、気が乗らない日もないわけではない。
そんな時は、青島も室井も頑固だから、二人とも意地を張って中々歩み寄れない時もある。
だが、どちらかといえば室井の方が大人になって、一歩譲ってくれることが多い。
仲直りしようと水を向けてくれたりもする。
その室井が今日はへそを曲げているらしく、さっきから一言も発しない。
リビングの床に胡坐を掻き、ずっと新聞を読んでいる。
でもページが進んでいないから、読んでもいないんだろうなと青島は思っていた。
珍しい室井のあからさまな不機嫌アピールに、いつの間にか青島の機嫌は納まっていた。
むしろ、今日は自分の方が悪かったなと今は反省もしている。
だからさっきから謝ってみているのだが、室井の背中は一向に振り返らない。
「室井さん、ごめん」
「ごめんなさい」
「俺が悪かったってば」
「ごめんなさい、室井さん」
「室井さーん、ごめんってばー」
だめだこりゃと、頑なな背中にまた溜息を吐いた。
だからといって諦めるつもりはない。
こんなにへそを曲げているのに、青島の部屋から帰ろうとしない室井が、仲直りしたがっていないとは到底思えない。
それが分かるから、青島は許してもらえていない今も、腹を立ててはいないし落ち込んでもいなかった。
言葉で許してもらえないのなら、次の手段はスキンシップだ。
膝をついたまま這って室井の背後に忍び寄り、その背中に抱きついてみる。
「ごめんなさい」
ぎゅっと抱きついて謝ってみるが、室井はやっぱり振り返らない。
でも、振り払いもしないから、青島は遠慮なくぎゅうぎゅうと室井を抱きしめた。
「室井さんてばー」
ごめんなさいごめんなさいと謝りながら、額を首筋に押しつけぐりぐりと甘えた。
室井が小さく息を吐いたのを感じた。
少しは怒りが軟化したようだと、青島は内心でほくそ笑みながら、もうひと押しとばかりに謝った。
「ごめんなさい、室井さん」
「君が悪い」
青島を責める言葉だったが、ようやく室井が言葉を発した。
「うんうん、俺が悪かったです」
「本気で思っているのか」
「思ってますって、じゃなきゃ謝りません」
青島の性格を良く知る室井は、その言葉には納得したようでそれ以上疑いはしなかった。
「…青島」
「ごめんなさい」
「それはもういい」
「うん?」
「他に言うことあるだろ」
ぶっきら棒に言われて考えるが、特に思い当たらない。
しかし、何のことだと問い返せば、またヘソが曲がるのではないかと思うと、聞き返し辛い。
折角声を聞かせてくれたのに、それは避けたい。
久しぶりの逢瀬で話したいことがいっぱいあったし、やりたいことも多くは無いがあったのだ。
さてどうしようか、これ以上無駄な時間は費やしたくない。
そう思っていたのは、青島だけではないようだった。
「前言撤回しろ」
室井が怒ったように言うから、青島はどの言葉をだろうかと首を捻った。
口げんかの間に随分と室井を罵倒した気がするが、どの言葉がそこまで室井の気に障ったのか、青島には分からなかった。
思いつくまま、言ってみるしかない。
「室井さんはバカじゃないです。とっても賢いです」
「まだバカにされている気がするが、それじゃない」
「室井さんの眉間はひび割れてなんかないです」
「違う、それでもない」
「なまはげを悪く言ってすみませんでした…?」
「どうでもいい」
「ええーと、後は…」
「好きだと言え」
「はい?」
突拍子もない室井の要求に間の抜けた声で聞き返すと、室井が新聞を放りだしようやく振り返った。
眉間がひび割れている。
「嫌いだと言ったろ」
物凄く拗ねた声で言われて、青島は目を丸くした。
言ったかな、言ったかもしれないな、そういえば。
その程度にしか青島は覚えていなかったが、どうやら青島は口げんかの最中に室井に向かって「嫌いだ」と言ったらしい。
それを撤回しろと言われているのだ。
青島は呆けてしまったが、怒った顔で青島を睨みつける室井を見れば笑いがこみあげてきた。
ここで笑えばまた背中を向けられることが目に見えているので、根性で耐える。
可愛い人だなあと思いつつ、青島はできる限り真顔を作って室井を見つめた。
「好きですよ、決まってるでしょ」
険しかった室井の表情がひくりと動き、少しだけ和らいだ気がした。
「嫌いなんて嘘です」
青島が手を握るが、室井も嫌がらない。
「大好きですよ」
握り返される手に、青島はとうとう笑った。
笑いながら身を寄せると、そっと唇を奪い、腕を首に回して抱きつく。
「ごめんね、室井さん」
「許さない」
そう言いながらぎゅうぎゅう抱き締められて、青島は声をあげて笑った。
珍しく、本当に室井が拗ねている。
これはもう満足するまで言ってやろうと、青島は思った。
「大好きですよ、室井さん」










END

2013.12.15


よっ!ばかっぷる!(笑)
他に言いようもありませんが、突発的に書き殴ってしまいました。
たまには拗ねる室井さん。

多分、室井さんは嫌いって言われたことに腹を立てたわけではなく、
他に理由があって怒っていたんだけど、
嫌いと言われたことはそれはそれで聞き捨てならん!みたいな感じだったのでは〜


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