■ 夏の夜


神田や秋山のあからさまなお世辞を聞きながら、青島はひたすら愛想笑いを浮かべていた。
湾岸署御用達の飲み屋の内でもっとも高級なクラブにて、本庁幹部の接待中だった。
普段なら捜査を理由に青島が参加することはないのだが、この日は珍しいことに事件が少なく仕事が暇だった。
定時で上がろうとしていた青島を見つけ、袴田に引っ張られるようにして強制参加させられていた。
湾岸署幹部は、捜査に関しては本庁であろうと官僚であろうと平気で噛み付く青島をあまり信用していないが、事がただの接待となれば元営業マンという経歴をかってか、青島に任せようとする。
そんなところを買われても、ありがた迷惑である。
これで湾岸署の予算が増えるのであればやる気もでるが、そんなわけもない。
これも仕事と割り切って、愛想笑いでヨイショするだけである。
幹部が誰も吸わないため煙草を吸うことがままならないのが、何より辛かった。
何がおかしいのか秋山の甲高い笑い声にうんざりしつつ、青島はひっそりと溜め息を吐いた。
「おかわりどうされますか?」
隣についてくれた女性に声をかけられて顔を向けると、ニコリと微笑まれた。
美人だったから青島の表情も崩れる。
ニコリと笑い返し、ついうっかり視線を下げた。
大きく胸の開いたドレスだったため、白い胸元が露になっていた。
柔らかそうな谷間につい目がいくのは男のサガだ。
しかも、かなりの大きさで、思わずじっと見つめてしまう。
ハッとして彼女の顔に視線を戻すと、彼女はくすりと笑った。
青島がどこを見ていたのか、気付いているのだろう。
一瞬ざわりと腰の辺りが落ち着きを無くした。
明確な欲望を覚え、青島は内心で苦笑した。
俺もまだまだ若いなと思いながら、彼女に笑みを返して腰をあげる。
袴田に手洗いに行くと断り店を出ると、ついでにそのままビルの外まで出て、夜風に当たった。
煙草を咥えて一服しながら、不思議なもんだと思う。
若い女性の谷間にむらっときたにも関わらず、欲しいのはいつも眉間に皺を寄せて難しい顔をしているあの男だというのだ。
我ながら悪趣味というかなんというか。
そう思って、失笑した。
悪趣味度合いなら室井も負けていない。
どう考えてもあの柔らかい身体に勝っているところなど無いのに、青島を抱きたがる室井の方が余程悪趣味だ。
熱心に触れてくる手や唇を思い出し、いかんいかんと首を振る。
頭を冷やすつもりが、かえってまずいことになりそうだった。
考えるなと考えてみても、考えれば考えるほど心も身体も室井を欲しがる。
会いたかった。
時計を見れば、もうすぐ日も変わろうかという時刻だった。
おそらくそろそろ宴会も終わるだろうが、さすがにいきなり会いに行くには非常識な時間だった。
我慢すべきだろう。
なんせ、クラブで隣についた女性の胸に欲情した挙句に、恋人に会いたいというのだ。
さすがに迷惑に違いない。
だが、そんなことは黙っていれば分からないし、会いたくて来ましたといえば、室井が嫌な顔をすることはないと知っている。
夜中に迷惑だろうが、少し強引に誘いをかければ、きっと青島の望みも叶えてくれる。
だからこそ、甘えてしまうのもどうかと思う。
だが、しかし、いや、でも―。
数回思考をループさせて、青島は心を決めた。
酔いのせいにしてしまえ。
悩んだわりにろくでもない答えを弾き出し、煙草を携帯灰皿に投げ捨てた。


翌日の青島は寝不足で眠そうだったにも関わらず、何故かすっきりした顔をしていたとか。










END

2013.9.1


ホステスさんの胸の谷間を見ていて思いついた小話でした(おい)
いや、胸の谷間って、女性だって目がいきますよね(笑)
柔らかそうだなーと思って見ていたら、
青島君だったら鼻の下伸ばして見てそうだなーと。

室井さんが迷惑だったのは一瞬で(夜中に突撃されたらね!)、
すぐに青島君にメロメロにされたことでしょう。
良かったね!(他人事)


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