■ 夜中の電話2


遠くから聞こえてくる話し声で、青島は目を開けた。
ついさっきまで、室井とピロートークめいた会話を楽しんでいたような気がするが、いつの間にか眠っていたらしい。
隣に目を向けると、室井が起き上がろうとしているところだった。
携帯電話を耳に当てて、小声で話していた。
はずし忘れた腕時計を見れば、真夜中をいくらか過ぎた時間だった。
警察庁からの呼び出しかもしれない。
寂しいなあとぼんやり思う。
仕方のないことだから諦めてはいるが、久しぶりのデートくらい何事にも邪魔をされずに二人きりで過ごしたいものである。
もちろん、行くななどと言えるわけはないし言う気もないから、そう思うだけだった。
室井は青島に背中を向けて電話をしながら、脱ぎ散らかしていた衣類を拾っていた。
着替えて寝室を出る気だと分かったから、青島は少し身を起こして手を伸ばし室井の腕を引っ張った。
振り返った室井が驚いたように目を見開いた。
青島が起きているとは思わなかったのだろう。
青島は声には出さずに「ここにいて」と囁いた。
気を遣って寝室の外で電話をしようとしてくれていたのだろうが、もし警察庁からの呼び出しで行ってしまうなら少しだけでもここにいてもらいたかった。
小さなわがままだったが、それくらいで勘弁してやろうというのだから、安上がりだろうと青島は開き直った。
珍しいものを見るように青島を見下ろしていた室井だったが、不意に眼差しを和らげるとベッドに戻り片手で青島を抱き寄せた。
青島は満足げに室井にすり寄り、目を閉じた。
電話の向こうの室井の部下と思しき相手は、まさか官房審議官が男を抱き締めながら電話をしているとは思いもしていないだろう。
そう考えるとおかしかった。
真面目な声で部下とやり取りをしながら、室井の手は愛しげに青島に触れていた。
それが気持ち良くて、青島はうとうとしていたが、通話を終えた室井が携帯電話を放り出して覆い被さって来るから、否が応にも目が覚める。
「室井さん?」
室井が顎を捉えて唇を重ねてきた。
優しい口付けが繰り返されて、とりあえず条件反射で室井の背中を抱いた。
「ん、ん…あの、室井さん、呼び出しじゃなかったの?」
「ああ、大丈夫みたいだ」
「そりゃ、良かった…けど、あのー…」
首筋や鎖骨に軽く吸い付き、身体に手を這わす室井に、青島は半笑いになった。
「何してんすか?室井さん」
室井は少し顔をあげて青島を見下ろした。
「嫌か?」
質問の答えでは無かったが、答えは良く分かった。
青島は苦笑して、室井の頬を撫ぜた。
「珍しいですね、どうしたの?」
若い時ならいざ知らず、最近では何度も繰り返し求め合うようなことは無くなっていた。
体力的に無理もきかないし、無くなってはいないものの欲求も落ち着いている。
一度寝付いてから再度抱き合うことなど、滅多にないことだった。
不思議そうな青島に眉を寄せ、室井が顔を寄せてくるから、青島は素直に瞼を落とした。
柔らかく触れた唇が離れると、目を開ける。
室井の眉間の皺は相変わらずだった。
「お前が珍しいことするからだ」
そう言いながら、再び唇が降ってくる。
徐々に深くなる口付けに応じながら、青島は「俺なんかしたっけな?」と考えていた。
珍しく室井を少しだけでも引き止めるような仕草をした青島に、室井が欲情したことに青島は思い至らなかった。
思い至る前に、室井にその気にされてしまったからだ。
まあ理由なんか何でもいいかと快感に身を任せる青島に、室井がのめり込んでいく。


久しぶりに興が乗ってしまった二人は、その夜睡眠時間を削って、濃密な時間を過ごした。
当然のように、翌朝は二人して年甲斐のない行為について反省することになるが、それもたまには悪くない。
腰を押さえて渋面になった室井に、愛情の成せる技だと青島は笑った。










END

2013.8.4


「夜中の電話」の室井さんに掛ってきたバージョンでした。

室井さんくらい偉くなっちゃうと、
逆に夜中に呼び出しとかあんまりない気がしますけどね(^^;
あれば、絶対に大事なんでしょうね…




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