■ 一緒にお風呂
鼻歌混じりな青島とは対照的に、室井は険しい顔をしていた。
風呂に入っているというのに、全くリラックスできない。
それは青島の自宅のバスタブが狭いからという理由ではなく、青島と一緒に入浴しているせいだ。
青島が帰宅途中の道で入浴剤の試供品をもらったらしく、それを試したいと言い出したのが発端だった。
所謂、泡風呂になる入浴剤だった。
俺はいいから一人で試せとは言ってみたものの、青島に一緒がいいと言われてしまえば室井に断れるはずがない。
青島とは最近恋人になり何度か身体を重ねた間柄ではあったが、一緒に風呂に入るのは初めてだった。
明るい場所で彼の肌を見たことも、ほとんど無かった。
正直、見るに耐えない。
青島に知られたら怒られそうな失礼な話しだが、室井は心の底からそう思っていた。
もちろん不快だからではない、欲に塗れた理由からであるが。
幸いなことに、ぶくぶくと泡だったお湯のおかげで、身体の下半分は隠れている。
それでも上半分は出ているわけで、室井はしこたま目のやり場に困った。
「本当に泡だらけになるんすね」
室井の苦悩などどこ吹く風といった体の青島は、楽しそうに泡を掴んでいた。
「そうだな」
「なんか気持ちいいですね」
「ああ」
「ぬるぬるするけど…これって、また身体洗わないといけないのかな?」
「そうかもな」
短い返事しか返せないのは、室井がそれどころではないからだ。
男性二人で入浴するにはどう考えても狭いバスタブに、二人は向かい合わせになり体育座りで入っていた。
青島の身体のどこにも少しも触れたくないとばかりに身を縮こませている室井に、この現状でリラックスして入浴を楽しむなんて芸当は不可能である。
さっきから微妙に触れ合っている爪先が気になって仕方ないのだ。
離したいが、今で精一杯身を竦めており、これ以上はどうにもならない。
もっと深いところまで触れ合っているというのに、今更爪先が何だというのか。
自分でもそう思うが、青島に触れていると思うだけで堪らなかった。
まるで思春期の少年になった気分で、恋人と一緒に入浴しているわりには中々に最悪な気分だった。
今の自身の状態を青島に知られたらと思うと空恐ろしい。
渋面で泡風呂に浸かっている室井を見て、はしゃいでいた青島が苦笑した。
「寛げないですか?」
室井が不愉快だと感じているように捉えたようだった。
「いや…」
「すいません、付き合わせちゃって。室井さん、元々乗り気じゃなかったもんね」
詫びる青島が少し悲しそうに見えて、室井は内心で焦った。
別に不愉快だったわけではないのだ。
青島と一緒に風呂に入る、そのこと自体が嫌なわけではない。
その風呂が例え妙にぬるぬるする泡風呂であっても、青島と一緒ならば悪くはない。
問題はそこではなく、青島と明るいバスルームで狭いバスタブに浸かり、裸で向き合っていることである。
触りたくなるなという方が無理というもの。
とは、室井の心の声だ。
もちろん、青島には聞こえない。
「湯を張り直して、ゆっくり温まってください。俺、先にあがりますから」
青島が取り繕うように笑って立ち上がった。
思わず、室井は青島の腕を掴んで引き止めた。
「青島、待ってくれ…」
そう言ったきり、二の句が続かない。
目を剥き青島を凝視する。
上気した顔、濡れた身体、泡が流れて落ちる胸元、腹、臍。
無意識に青島の身体を視線が追ってしまう。
室井の我慢の限界だった。
掴んだ腕を強く引っ張る。
「わあっ、危な…っ」
体勢を崩し室井に向かって傾いだ青島の身体を湯の中に引きずり込み抱き締める。
驚いている青島の唇を塞いで、欲求のまま口付けた。
無防備だった唇に舌を押し込み、青島のそれに絡める。
性急な室井に青島は戸惑っていたようだが、やがて自らの唇で室井に応えてくれた。
そうされれば益々堪らない。
青島にキスしながら、手を滑らせ、濡れた背中を撫ぜる。
腰の傷を掌に感じた。
青島の喉から小さな音が漏れた。
喘ぎに近いそれに、室井が唇を離すと、青島はぼんやりとした顔で室井を見下ろしていた。
先ほどよりも高揚した頬を撫ぜると、青島が微かに反応した。
感じてくれていると思った。
もう一度唇を重ねると、青島を抱き締める。
「風呂が嫌なわけではなくて…こういうことなんだが」
我ながら何がこういうこと何だと思うが、欲情して仕方がないとは本人を目の前にして言い辛い。
抱き締めていたから顔は見えないが、青島は声もなく笑ったようだった。
室井の腰を跨ぐように座りなおして腰を落ち着けると、室井の首に腕を回した。
「室井さん、一緒に風呂入んの嫌なのかと思ってました」
首に懐いてくる青島に、これは許されたとみていいのだろうかと悩みつつ、青島の背中から傷跡にかけてを撫で続ける。
「嫌なわけないだろ。だが、しんどい」
「ははっ、素直だなあ、室井さん…もしかして、ずっと我慢してた?」
「…聞くな」
青島は室井にキスをすると、笑いながら手を動かした。
するりと中心に滑らされる手に、室井は目を見開いた。
「青島…」
「さすがに最後までするとのぼせそうだけど」
「いいのか?」
「少しくらいなら、ね」
唇の触れる距離で、青島が囁いた。
「室井さんがあんなキスするから、俺もその気になっちゃった」
小さな笑みには普段の彼にはない色が見えて、更に室井の身体を熱くした。
「俺にも触って…」
室井はすぐに青島の唇を塞ぎ、青島に触れた。
我慢したのが馬鹿みたいだ。
青島の身体に夢中になりながら、ひっそりと思った。
少しくらいで済まなかったのは、室井だったのか青島だったのか。
一時間後には、二人仲良くリビングで行き倒れていた。
END
2013.6.22
先日のチャットで萌えたお風呂ネタでした。
書きたかったのは、つま先が触れるのも嫌な室井さんでした(笑)
本当はエロまで書けたら良かったのでしょうが…!
お粗末様でした!
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