■ 夜中の電話
室井の目を覚ましたのは、携帯の着信音だった。
職業柄、着信音には耳聡くなっている。
だが、鳴っていたのは室井の携帯ではなく、隣で寝ていた青島のそれだった。
青島は布団から裸の腕を伸ばし、酷く煩わしそうな顔で枕元の携帯を掴んだ。
煩わしくても無理はなかった。
時計を見れば、二人が眠りについてから一時間も経っていない。
「うあ…署からだ…」
呻いた青島が、室井に背を向けた。
室井が起きたことには気付いていないようだった。
「はい、青島です…ああ、緒方君?お疲れ…」
相手は湾岸署強行犯係りの青島の部下のようだった。
こんな時間に可哀想にと思うが、事件の呼び出しなら致し方ない。
青島との長い付き合いの間に、こんな夜は何度か経験している。
久しぶりに肌を合わせた夜なだけに寂しさもあるが、引き止められるものでもなかった。
青島の声を聞きながら、見送りくらいしてやろうとぼんやり考えていた。
「なに、事件?現場は…は?湾岸署?署がどうし…ちょ、ちょっと落ち着けよ、緒方」
ところが、青島が困惑した声で携帯に向かって話すから、室井も首を傾げた。
「うん?…うん…それで…?」
興奮している緒方を落ち着かせようとしているのか、青島はうんうんと大人しく話を聞き相槌を打っていたが、やがて深い溜め息を吐いた。
「あのね、緒方君、今何時だと思ってんの、勘弁してよ…」
何やら様子がおかしい。
室井には青島の話しか聞こえないが、事件ではないように思えた。
「いや、だから、いないって、幽霊なんか」
室井は青島の後頭部を見ながら怪訝な顔になった。
「白い影?見間違いだよ、気のせいだって…」
欠伸交じりで呆れたように言い捨てる。
「大丈夫だって、幽霊より生きた人間の方がよっぽど怖いから」
慰めにならない投げやりな言い草を聞いて、室井は思わず笑ってしまった。
その音が届いたのか、青島が携帯を耳に当てたまま室井を振り返った。
視線がぶつかると、青島はちょっと笑った。
「これから?無理、行けないよ。デート中だもん」
電話に向かって言う青島に、室井は僅かに目を見張った。
そのデートの相手が官房審議官とは、緒方には思いもよらないだろうが。
「…ん、じゃあね、頑張れよ」
怖かったら大声で歌っとけとやっぱりちっとも慰めにならないことを言って、青島は電話を切った。
「すいません、起こして」
携帯を放り出すと、室井に身を寄せてくる。
室井は青島の背中に腕を回した。
「事件じゃなかったのか?」
「ええ、緒方は大事件だって騒いでましたけど」
「幽霊を見たと?」
「夜勤して転た寝してたみたいだから寝ぼけたんじゃないの」
欠伸をして、青島は「意外と気が小さいんだよなあ」と小さく溜め息を吐いた。
怖くなった緒方は青島に助けを求めたようだ。
何だかんだと、部下に頼りにされているらしい。
そう言ってみると、青島は照れたのか笑って戯言を吐いた。
「可愛い女の子からのヘルプなら行ってもいいけどねえ」
室井は呆れた顔をしたが、それは面白くないとばかり青島を抱き寄せて軽く唇を合わせた。
「俺を置いてか…?」
大きな目を瞬かせた青島が破顔し、キスを返して寄越す。
「前言撤回しますよ、デート中だもんね」
邪魔されたくないやと笑う青島に満足し、室井は青島を抱き込んだまま目を閉じた。
END
2013.4.14
あまーい!(ふるーい!)
他に言うこともありませんが(笑)
緒方君が好きです。←中身とちっとも関係ないですけど。
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