■ 拍手ログ10


玄関のドアを開けたら室井がいたから、青島は驚いた。
いたこと自体にはそうでもなかったが、室井が恐い顔をしていたものだから驚いた。
それはもう大層不機嫌面である。
理由はさっぱり分からない。
「夜分にすまない」
そろそろ寝ようかと思うくらい深い時間の訪問だった。
「それはいいですけど…どうしたの?」
「会いたかったから来た」
あまりにもはっきりと言うから、なるほどと納得仕掛けたが、そのわりには機嫌が悪そうだ。
もしかしたら自分の知らぬ間に不興を買って怒っているのかと焦るが、室井はいきなり手を伸ばすとわしわしと青島の頭を撫ぜた。
何がなんだか分からずに、青島は目を白黒させた。
「室井さん?」
「元気そうだな」
「は…え、ええ、まあ元気ですよ」
「変わりないようで、良かった」
そういえばしばらく会えていなかった。
「室井さんも元気そうで…も、ない?」
顔を覗き込むようにすると、室井は眉を寄せた。
「…元気だ」
「眉間凄いですよ」
「いつものことだろう」
「それはそうだけど」
認めたら、室井の眉間の皺が更に深くなった。
自分で言ったくせに面白くないらしい。
なんだか、いつもの室井と違って調子が狂う。
さっきから酒の匂いが鼻をつくのも気になった。
もしかしたら自棄酒でもしていたんだろうか。
あまりお目にかかったことがないほどの不機嫌面に、室井のことが心配になる。
「何かあったんですか?」
思わず重ねて尋ねると、室井はジロリと青島を睨むように見つめた。
「部屋にあげてはもらえないか?」
「え?ああ、それはもちろん、どうぞどうぞ」
慌てて身体をずらし室井を促すと、室井は礼を言って部屋に上がった。
とりあえずソファに落ち着き、改めて室井と向き合う。
やっぱりいつもと違う雰囲気の室井が気になった。
だが、青島の心配を余所に、室井は何を思ったかまた青島の頭に手を伸ばしてくる。
多少乱暴に頭を揺すられ、揺れる視界に眉をひそめつつ、青島は戸惑った。
「む、室井さん、ちょっと…」
「君は、」
「はい」
「可愛いな」
「…はい?」
青島は目を丸くして硬直したが、そんなことはお構いなしの室井に抱き締められ、まるで猫の子でも愛でるように頭を撫で回された。
されるがままになりながら、青島は酷く困惑した。
嫌ではない。
恋人にされる抱擁が嫌なわけがない。
だが、恋人の抱擁にしては色気がないのは気のせいか。
どちらかというと、子どもや動物にするそれのようである。
しかも、「可愛い可愛い」と臆面もない褒め言葉つきである。
嫌とは言わないが、40を超えた男が可愛い可愛いと褒められても嬉しくはない。
ここにきて、青島は室井がかなり酔っ払っていることに気が付いた。
いつもと様子が違うのはそのせいか。
そう思ったら安堵したが、ぎゅうぎゅう抱き付いてくる室井の始末に困る。
「ね、室井さん、とりあえず今日はもう寝ましょう」
「可愛いな、君は」
「はいはい、ありがとうございます」
「本気だぞ」
「分かってますよ、続きは明日聞きますから」
「…なんでそんなに可愛いんだ?」
大真面目に頭の悪い疑問を口にする室井に、青島はとうとう笑い出した。
酔っ払って素直になっているだけだとしたら、普段からこんなことを考えているということだ。
日頃の室井は知るだけに、面白すぎる。
ただ、やっぱり嫌な気分はしない。
青島は笑いながら、室井の眉間に唇を押し付けた。
「さあ、室井さんが色惚けしてるからじゃないの」
「俺は惚けてないぞ」
「そうっすか?俺は惚けてるかもね」
室井の首に腕を回して軽く唇を奪った。
「こんなアンタを可愛く思えるくらいですから」
苦笑した青島を室井は不思議そうに見つめていたが、「好きだってことですよ」と付け足してやると、満足げに頷き、再び青島を撫で回し始めた。
変な酔い方だと呆れながらも、青島は笑って室井が寝落ちするまで好きにさせてやった。










END

2013.1.8


読み返してみても、我ながら変な室井さん!(自分で書いたくせに)


template : A Moveable Feast