■ 拍手ログ09
ベッドに入った途端の着信に、室井は顔をしかめた。
夜中の電話などろくな電話でないことが多い。
疲れていたから寝てしまいたかったが、だからといって警察官が電話を無視するわけにもいかない。
ベッドの脇に置いてあった携帯電話を手にし、青島からの着信であることを確かめて、室井は少し表情を和らげた。
仕事ではなかったことと、愛しい人からであることがそうさせた。
『室井さん、起きてるー?』
応じた途端に陽気な声で聞かれて、室井は苦笑した。
「起きてなきゃ、電話に出れないだろ」
『それもそうっすね』
何が楽しいのか、電話の向こうで青島が笑っている。
「どうかしたのか?」
『どうかしないと電話しちゃダメなんすか?』
「そういうわけでは…」
『冷たい!冷たいなー、室井さん、恋人が声聞きたくて電話してんのに、用もないのに電話してくんなって言うんですね』
拗ねた声で怒られて、室井は目を丸くした。
誰もそんなことは言っていないと言ってはみたものの、それを聞いているのかいないのか、青島は延々と『冷たい冷たい』と訴えてくる。
間違いなく室井の声は聞いていないのだろう。
聞きたくて電話してきたんじゃないのかと突っ込みたくなったが、言葉にはしなかった。
酔っ払いには何を言っても無駄である。
青島はどうやら泥酔しているようだった。
「飲み会だったのか?」
さらりと話題を変えてやると、青島は嬉しそうに答えた。
『ええ、久しぶりに高校時代の同級生と飲んでてね』
「そうか、珍しいな」
『集まんの、5年ぶりくらいでしたよ。みんな年食ってました』
ゲラゲラ笑いながら楽しそうに室井の知らない友人たちの話をする青島に相槌を返しながら、室井はベッドに横になった。
青島は極希に、酔っ払うと電話をかけてくる。
それも酷く酔っ払った時に限るから、大抵中身のない電話になる。
夜中に掛かって来る電話にしてはあまり有り難くなかったが、室井はそれを迷惑だとも思っていなかった。
さすがに毎日掛かって来るならいくら相手が青島でも怒るだろうが、忘れた頃に掛かって来る酔っ払いからの電話は嫌いでは無かった。
『…でね、室井さん、聞いてる?』
「ああ、聞いてるぞ」
『優しいなぁ、室井さんは』
ついさっき冷たい冷たいと罵ったばかりなのに、今度は感慨深そうに優しい優しいと褒めてくれる。
酔っ払いの戯言に室井は笑いを堪えつつ、電話に耳を傾けた。
『みんなと飲んで、死ぬほど笑って、凄い楽しくてね』
「良かったな」
『楽しかったんだけど、なんでかなあ?室井さんに会いたいなぁと思ってね』
酔っ払いの癖に嬉しいことを言ってくれる。
真面目に相手をしても、青島はきっと明日にはこの電話の内容を忘れている。
それを分かっていても、応えずにいられなかった。
「俺も会いたい」
なんとも形容し難いくぐもった笑い声が返ってきたが、青島が喜んでいることだけは伝わった。
『室井さん室井さん室井さん』
「なんだ?」
『凄い好きです、大好きですよー』
相変わらず変な笑い声を漏らしながらの告白だったが、それでも可愛く思ってしまうのだから仕方がない。
苦笑した室井が、俺もだと返すと、何故か爆笑が返ってきた。
幸せそうで何よりだと思いながら、室井は青島が寝てしまうまで電話に付き合った。
明日も青島から電話が来るだろう。
冷静になった青島が、過ぎた酒を後悔しながら断片的に残る記憶を辿って、室井に謝罪を寄越すのだ。
その電話すら、室井には楽しみだった。
END
2012.11.21
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