■ 拍手ログ08
「あ、美味そう」
青島はショーケースの中のローストビーフに目を止めた。
「買うか?」
隣を歩いていた室井も一緒に覗き込む。
「室井さんも食べる?」
「少しなら」
「じゃあ、買おうかな」
二人で食べ切れる程度のローストビーフを買うと、青島は手にした買い物袋を見下ろし苦笑した。
「なんか統一感のない夕飯になっちゃいましたね」
ローストビーフの他に、焼き鳥とエビチリ、サラダ、鰆の西京焼きを購入していた。
互いに食べたい物を購入していたら、和洋折衷のメニューになってしまった。
「たまにはいいんじゃないか?」
そう言いつつ、室井も苦笑している。
仕事帰りに室井と待ち合わせて、珍しくデパ地下に来ていた。
夕飯を買い込んで、室井の部屋へ行くことになっている。
「ワインとチーズでも買って行くか」
「あ、いいっすねー」
ワイン売り場に向かい、お互いめぼしいワインを探す。
青島が手頃なワインを眺めていると、室井が一本のボトルを抱えてきた。
「前に一度飲んだことがあるんだが、美味かった気がする」
「へぇ…」
日本酒党の室井が珍しいなと思いつつ、どれどれと銘柄を覗き込んで、青島は目を丸くした。
青島でも知っている有名な銘柄のワインだった。
サラリーマン時代に接待のお零れで一杯だけ飲んだことのあるワインである。
昔のこと過ぎて正直味はもう覚えていなかったが、美味かったと記憶していた。
室井はもちろんお零れで頂いたわけではなく、正真正銘接待か付き合いで食事に行った時に飲んだのだろう。
青島がワインボトルと室井の顔を交互に見ていると、室井は首を傾げた。
「なんだ?」
「いや…こんなところで生活水準の違いを見せつけられるとは…」
そういえばこの人キャリアだったなあと今更ながら思う。
普段一緒に食事をしていても、室井は青島とそう変わらない物を好んで食べるから忘れがちだっだ。
貧富の差って嗜好品に出るんだよなと思いつつ、小さくため息を吐いた青島に、室井は眉を顰めた。
「たまにはいいんじゃないかと思っただけだ、要らないなら…」
「いる、いります、飲みたいです」
折角の機会なのだから、飲ませてもらえるものならもちろん飲みたい。
即答した青島に室井は呆れた顔をした。
「文句があるんじゃなかったのか」
「文句なんかないですよ、俺じゃ買えないなって思っただけで」
「たまには贅沢させてくれ」
「そりゃあ、もちろん…」
室井の稼いだ金の使い道に青島が異議を唱える筋合いではないし、唱える気もない。
室井の好きにしたらいいと思うから、文句はないと慌てて首を振って否定したが、室井はむっつりと続けた。
「君と一緒の時くらいしか、そんな機会がないんだ」
青島は瞬きをして、気まずそうな室井を見つめた。
理由もないのにわざわざ高いワインを買おうとしたのは、ただ青島と飲みたいから、飲ませたいからなのだろう。
それが、たまの室井の贅沢か。
そう思ったら、笑えてくる。
室井の財布を当てにする気はさらさらないが、室井のたまの贅沢のご相伴に預かれるのだから素直に喜んでおけばいい。
「じゃあ、俺はチーズでも買いましょうかね」
青島が嬉しそうに笑って「一番高いのね」と言うと、室井は苦笑して頷いた。
END
2012.11.21
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