■ メール


どこか弛緩した空気のある会議室で、室井もひっそりと吐息を漏らした。
犯人逮捕の知らせをうけ、一つの事件が解決をみたばかりだった。
取り調べや裏付け捜査は残っているが、山を越えて張り詰めた空気が緩むのも無理は無かった。
「室井管理官、どうぞ」
所轄の刑事が机にコーヒーの入った紙コップを置いてくれた。
「ありがとう」
「犯人逮捕、良かったですね」
にっこりと笑う青年は、顔形は似つかないのに、何故か青島を思い出させた。
「そうだな」
室井が頷いてみせると、青年はまた嬉しそうに笑った。
不意に内ポケットで携帯が鳴った。
「失礼」
青年に断り携帯を開くと、メールを受信していた。
青島からメールで緩みそうになる頬を無理やり引き締め、何食わぬ顔でメールを開いた。
開いて、短いメールを読んで、思わず紙コップを握り潰した。
「く…っ」
紙コップを握り潰したことに、その熱さで気付き慌てて手をひく。
「わあっ、大丈夫ですか、室井管理官っ」
驚いた青年が慌ててハンカチを差し出してくれるが、室井はそれに礼を言って断り、自身のハンカチで手を拭った。
さすがに掌がヒリヒリするが、淹れたてのコーヒーだったのだからそれも仕方がない。
「…すまない、折角淹れてくれたのに」
汚れたテーブルをティッシュで拭い後片付けをしてくれる青年に詫びると、逆に恐縮したようにブンブンと首を振った。
「いえいえ、それより手は大丈夫ですか?」
「あ、ああ…」
「良かった、淹れ直してきますね」
室井がいらないと言う間もなく、青年はコーヒーを淹れにその場を離れて行った。
それを見送り、室井は深い溜め息を吐いた。
そしてもう一度メールに視線を落とし、眉を寄せる。

『早く帰って来てくださいね。風呂入って待ってますから』

ご丁寧に、文末にはハートの絵文字が踊っていた。
これはやはりそういう意味なんだろうか、そういう意味なんだろうなと思い、眉間に更に深い皺を作った。
今夜、青島の部屋で会う約束をしていた。
会うのは、実に一月ぶりだった。
青島は数日前まで張り込みでとあるマンションに泊まり込んでおり、自宅に帰っていなかった。
その間、もちろん室井とデートをする隙などあるわけがない。
青島の張り込みがようやく終わり、会いたいと連絡をもらったのが昨日だった。
室井は特捜の最中で予定が立たなかったが、夜中になるかもしれないが必ず会いに行くと連絡してあった。
幸いにも事件が解決し、今日はそれほど遅くならずに帰れそうだった。
そこに送られてきたのが、青島からのお誘いメールである。
誘わなくてもその気の恋人を、更に煽ってどうしようというのかあの男は。
渋面になる室井だが、つい時計を確認し何時頃にあがれるか計算してしまう。
今の室井にとって、青島がその気で待つ部屋ほど、魅力的な部屋は無かった。
室井は携帯に視線を落とし、少し迷ったが返事をせずにポケットに戻した。
室井にはまだ仕事がある。
青島のことを考えていたら仕事になるはずもない。
いっそ脳裏に浮かべば、その愛しい姿が邪魔ですらあった。
早く会いたい。
会いたくてたまらない。
だったら、さっさと仕事を終えるしかない。
新たなコーヒーを運んできてくれた刑事に礼を言って受け取ると、室井は表情を引き締め仕事に戻った。


その夜、青島はふざけたメールを送ったことを少々後悔するはめになる。











END

2012.10.7

あとがき


「(その後電話する約束をしていたので)お風呂入って待ってます」
と友達にメールした時に、これが青島君だったら室井さんたまらんな!って思って、
思ったまま書いた小話です…(日々煩悩まみれです)

本当は後悔するはめになる青島君まで書こうと思ったのですが、
どうにもまとまらなかったので、とりあえずここまでアップです。

青島君が準備万端で待ってると思ったら、仕事にならないと思う!絶対!


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