写真〜こんにちは、赤ちゃん〜












赤ちゃんと、ついでに室井とも一緒に暮らすようになって、三日目。

赤ちゃんの世話などしたことが無かった青島も、少しだけ赤ちゃんに慣れてきた。

「なんとかなるもんだなぁ・・・」

使った哺乳瓶を洗いながら、溜息交じりに呟く。

生き物、それも人間の赤ちゃんを預かるのだから、何が何でもどうにかしなければならなかった

わけだが、それでも不安はいっぱいあった。

室井のおかげによるところは大きいが、無事に三日過ぎ、赤ちゃんも青島や室井に慣れてきてく

れたようで、青島はホッとしていた。

リビングに戻ると、室井が赤ちゃんを抱っこしてあやしている。

食後だからか、赤ちゃんは機嫌良く室井に抱っこされていた。

青島は唐突に思い至って、デジカメを持ち出した。

室井と赤ちゃんの組み合わせなど、早々見られるものではない。

記念に一枚と思ったのだ。

カメラを構えて見て、青島は思わず笑った。

丁度良いタイミングで、赤ちゃんが笑いながら室井のほっぺたを鷲掴みにしたからだ。

室井は難しい顔をしている。

怒っているわけではないだろう。

どうしたら良いものか、困っているといったところか。

少し眉間に皺を寄せたまま真顔で赤ちゃんを見ている室井を見て、青島は笑いが止まらないまま

シャッターを押した。

「おい、青島」

フラッシュでカメラに気付いたようで、咎めるような視線を向けられる。

が、ほっぺたは赤ちゃんに掴まれたままだ。

青島はやっぱり笑いが止まらない。

「ははっ・・・いい写真が撮れましたよ〜」

まだ確認はしていないが、きっと良い写真だ。

赤ちゃんはもちろんだが、室井も可愛いかったのだ。

笑いながら言えばからかっていると思われるので、口には出さない。

「・・・代わろう」

室井が赤ちゃんを抱っこしたまま、近付いてくる。

写真を撮ってくれると言っているのだ。

室井が青島に向って赤ちゃんを差し出そうとすると、赤ちゃんは室井のほっぺたから手を離して、

青島に向って手を伸ばしてきた。

この瞬間は、かなり赤ちゃんにメロメロだ。

本来なら親に向って伸ばされる手だろうが、必要とされて伸ばされる手は、妙に嬉しい。

青島は相好を崩すと、室井にカメラを預け、赤ちゃんを引き取った。

小さい身体は、当たり前だが、ちゃんと温かい。

抱っこしながら、マジマジと眺める。

「本当・・・不思議ですよねぇ」

「何がだ?」

「これで生きてるんだもんなぁ」

青島の目から見ると、見た感じは人形に近い。

動くことも、泣くことも、ミルクを飲み用を足すことも、不思議で仕方が無い。

「ちゃんと爪まで生えてるんだもんなぁ・・・」

妙な感心ばかりしている青島に、室井は苦笑した。

「当たり前だろ、人間なんだから」

「そうなんですけどね。室井さんにもこんな時があったなんて信じられない」

「・・・・・・君にもあったんだぞ」

呆れ顔の室井に、青島は笑みを零した。

「らしいっすね」

他人事のように言ってソファーに座り、赤ちゃんを膝の上に乗せた。

カメラの方に向かせて座らせると、後ろから見る後頭部が可愛らしい。

赤ちゃんの丸っこいフォルムが、好きだった。

思わずまだまだ薄い前髪を掻きあげて、剥き出しの額に唇を押し付ける。

機嫌良さそうに笑っている赤ちゃんと目があって、青島も釣られて笑った。

「室井さん室井さん」

「なんだ?」

「こうすると、室井さんと似てません?」

赤ちゃんの額を全開にしたまま尋ねたら、室井は眉を寄せた。

「ただオールバックなだけじゃないのか」

「このまま、写真撮ってください」

室井の突っ込みを無視して、青島は催促した。

室井がなんと言おうと、オールバックな赤ちゃんは室井に似ている気がした。

ちょっと凛々しい眉毛を書いて黒いコートでも着せたくなるが、相手は人形ではなくて人間なの

でやめておく。

少し変な顔で青島と赤ちゃんを見比べていた室井だったが、やがて諦めたようにカメラを構えた。

「撮るぞ」

そう言って、シャッターを切る。

フラッシュが眩しかったのか驚いたのか、赤ちゃんの動きが止まった。

真顔になっているのが可笑しい。

「いやぁ〜和むなぁ〜」

青島は赤ちゃんを抱っこしながら、室井を見上げた。

「ね、老後は犬でも飼いませんか?」

突然の話題に、室井が目を丸くする。

「室井さんの方が先に退職しますからね、そしたら子犬飼いましょうよ」

現役中は難しいだろうが、退職した後なら犬を飼うことくらいできるはずだ。

子犬から飼って、二人で育てる。

考えると、ちょっと楽しそうだ。

犬種にこだわりはないから雑種で構わないが、室井にちなんで秋田犬も良いかもしれないなどと

思う。

一緒に散歩に行く姿を想像すると、自然と笑みが浮かんできた。

初老の男性二人で、犬の散歩。

シュールな絵面かもしれない。

そんなことを考え、考えている自分を意識してから、青島は苦笑した。

―これじゃあ、一緒に暮らすこと前提だな。

ちょっと図々しかったかなと思ったが、室井も迷惑そうな顔はしていない。

黙って青島を見下ろしていたが、手を伸ばして青島の頭を軽く撫ぜると、室井にしては柔らかい

笑顔をくれた。

「犬を飼えるのは、定年後だな」

その頃には一緒に暮らせているかもしれないし、もっと早くにそうなっているかもしれない。

もちろん、叶わない可能性の方が大きいかもしれない。

まだまだそうなれれば良いなぁと思う程度の願いだ。

そういう願いがあるのも、悪くは無い。

室井の同意が嬉しくて、青島は笑って頷いた。

すると、腕の中で赤ちゃんがぐずりだす。

「お・・・泣くかな」

青島は慌てて立ち上がって、赤ちゃんをあやす。

そうするとまだ不服そうではあったが、何とか泣き出さずに納まった。

室井と視線を合わせて肩を竦める。

「今は未来の子犬より、目前の赤ちゃんですね」

「全くだ」

室井は苦笑しながら、赤ちゃんの頭を撫ぜた。

「三人で、写真撮れないかな」

ふと思い立って、言ってみる。

「誰かに頼まないと難しくないか?」

「う〜ん・・・」

青島と室井と赤ちゃんと。

そんな写真を撮ったら、間違いなく夫婦だとからかわれることだろう。

からかわれるのはごめんだが、

―室井さんと夫婦か。

それも悪くないなと思った。





結局、青島が赤ちゃんを抱っこし、室井が青島の肩に腕を回す形で、一枚だけ写真を撮った。

30年後、子犬と一緒に、懐かしく眺めているかもしれない。
























END


萌えに任せて書いたら、「こんにちは赤ちゃん」との辻褄が合わないことに気が付いて、
慌てて修正しました(笑)

とにかく、赤ちゃんを抱っこする二人が可愛かったので、そんなお話です!
可愛らしさが文字ではぜーんぜん伝わりませんが;
リカさんのイラストと、皆様の妄想でカバーして頂ければ幸い!(おい)

リカさん、素敵なイラストを有り難う御座いましたー!