一倉のご機嫌が優れない。

新聞を広げて読みふけっている男の顔を盗み見ながら、青島はコーヒーを啜った。

折角の休日に朝っぱらから会いに来たというのに・・・と、ひっそり溜息を吐く。

あからさまに不機嫌なわけではない。

話しかけて無視されるわけではないし、冷たくあしらわれるわけでもない。

ただやっぱりどこかいつもの一倉とは違った。

機嫌が悪いというよりは、沈んでるという感じだろうか。

会話はあるが、らしくもなく妙に静かだ。

青島はマグカップをテーブルの上に置くと、一倉を呼んだ。

「一倉さん」

「んー?」

「何かありました?」

気になることははっきりさせないと気がすまない青島らしく、ストレートに尋ねる。

一倉は新聞から顔を上げて青島を見ると、肩を竦めた。

「何がだ?何もないぞ?」

「嘘だ」

「嘘じゃないって」

「本当のこと言わないと、今すぐ帰りますよ」

そう言うと、一倉が目を丸くした。

青島だってまだ帰りたくない。

久しぶりに一日中一緒にいられるのだ。

そんなチャンスを自らふいにするつもりはない。

「じゃあ、帰れ」と言われたらどうしようと思いつつも、青島は強気に胸を張った。

しばし無言で見詰め合う。

と、一倉は静かに溜息を吐いた。

新聞を畳むと、苦笑する。

「・・・・・・怒るなよ」

「事と場合によります」

話す気になってくれたらしい一倉にホッとしつつも、青島は素直に答える。

一倉は苦笑を深めた。

「・・・・・・室井とは良く飲みに行くのか?」

「滅多に無いですよ。昨日も随分前に約束しててやっと・・・」

言いながら、青島は「ん?」と首を傾げる。

昨日は室井と飲みに行った。

一倉と非番が重なると知る前に室井と約束していたので、夕べは一倉の誘いを断って室井と飲んだ。

そのことは一倉の誘いを断った時に説明してあったのだが・・・。

青島は少し考えて、眉間に皺を寄せた。

「一倉さん、怒りますよ?」

思わず仏頂面になる。

室井との事を疑われているのかと思ったのだ。

青島にとって室井は尊敬する上司だ。

上司に対して可笑しな言い草だが、友情に近いものなら感じてはいるが、それ以外の感情は持ち合わせていない。

しかも、室井は一倉の親友でもある。

誰が、そんな相手と浮気をするというのか。

「バカ、違う。お前と室井の中を疑ってるわけじゃない」

思いっきり顰め面をしていた青島は、疑わしげに一倉を見る。

「じゃあ、何だって今更そんな確認するんですか?」

「・・・・・・それは、だから」

「だから?」

珍しくも言葉に詰まる一倉に、青島はまた首を傾げた。

一倉はちらりと青島を見てから、頭を掻いて視線を逸らした。

「ちょっと、はっきり言ってくださいよ。一倉さんらしくもない」

焦れた青島がせっつくと、一倉は「ああっ、もうっ」と投げやりに叫んだ。

目を丸くした青島と視線を合わせると、やっぱり投げやりに言う。

「だからっ、俺はっ」

「はい?」

「妬いてるっつてんだ!」

「・・・・・・は?」

青島は目と一緒に口をぽかんと開けた。

一方、一倉ははっきりと言い切ってスッキリしたのか、何故か強気に青島を睨んでくる。

今度は青島が及び腰になる番だった。

「お前、かなり室井のこと好きだろ」

「は?え?そりゃあ、好きですけど・・・」

「そうだろ。大体俺というものがありながら、室井に懐きすぎなんだよ」

「懐く?い、いやいや、俺は室井さんのことを尊敬してるだけで」

「尊敬・・・・・・お前、俺のこと、尊敬してるか?」

青島は思わず「何を言うんだこのバカは」と言う表情を浮かべた。

それがストレートに一倉に伝わったのか、憤慨したように一倉が眉間に皺を寄せる。

「してないだろう。室井のことはしてるのに」

「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ」

「約束があるんだか知らないが、俺はお前の恋人だぞ」

「分かってますよ、ってそうじゃなくて、人の話も聞・・・」

「お前が室井を熱のこもった目で見てるのが、面白いわけないだろう」

完全に開き直った一倉に、青島は呆気に取られる。

熱のこもった目?

青島にはそんなことをした覚えは無い。

確かに室井が現場の期待に応えてくれたり正義を貫こうとした時には、青島にも力が入っているかもしれない。

熱くなりやすいタイプなのだ。

それが「熱がこもってる」ように見えているならそうなのかもしれないが、一倉がそんなふうに思っていることには

全く気がつかなかった。

思わず愕然としてしまう。

言いたいことを言って少しはスッキリしたのか、一倉はふいに力を抜いた。

「はっきり言えと言ったのは、お前だぞ」

「・・・もしかして、結構前からそんなこと考えてた?」

青島が伺うように一倉を見ると、一倉は困ったように小さい笑みを漏らした。

「お前らの仲は理解してるつもりなんだけどな・・・・・・小さい男で悪かったな」

「そんなことはないですけどね・・・」

肩を竦めて、青島は苦笑した。

思わぬところで、一倉の弱音を聞いてしまった。

まさか室井との付き合いに嫉妬されているとは思いもしなかったので驚いた。

だが、申し訳なく思いつつもちょっと嬉しかったり。いや、かなりか。


なんせ、一倉の口から「妬いてる」なんて台詞が出てきたのだ。

青島は微笑んだ。

「俺、室井さんのこと好きだし、尊敬してるんですけど」

「分かってるよ」

「一倉さんを思うのとは、全然違いますよ?」

「・・・それも、分かってる」

「分かってて、妬いてるんですか?」

恨めしげに一倉に睨まれて、青島は思わず声を漏らして笑った。

「笑うな」

「無理っ」

溜息を吐いた一倉を愛しく思う辺り、自分もそうとうイタイなと青島は思った。

笑いを引っ込めると、青島は一倉に手を伸ばす。

両手で頬を掴むと、額をつき合わせた。

「尊敬と愛情と、どっちが欲しいですか?」

至近距離でそういうと、一倉は目を丸くしてから苦笑した。

「それはどちらかしか、もらえないのか?」

「両方は図々しい」

「そうか・・・」

一倉が青島を抱き寄せた。

逆らわずに寄り添って、青島は一倉の首に腕を絡めた。

肩口に一倉が額を押し付ける。

「・・・・・・愛情をくれれば、それで充分だ」

青島は微笑して、一倉の耳元に唇を寄せた。

「良かった、それならもう既にあげてるから」





尊敬してないわけじゃないんだ。

捜査に関わってる時の一倉さんはカッコイイと思うし、尊敬に値すると思ってるよ。

だけで、絶対言わない。

調子に乗るからね。





青島は心の中で舌を出して、愛しい恋人を抱きしめた。



















END
(2004.11.4)


室井さんに嫉妬する一倉さんが書きたかっただけです(笑)
一倉さんに限らずあのドラマの登場人物が青島君を好きになったら、普通に室井さんに嫉妬すると思います。
「見詰め合ってんじゃねーよ」とか、
「信頼しあってんじゃねーよ」とか(笑)

この話の室井さんは青島君に恋愛感情はありません。
あると可哀想なので、拙宅の一青の時の室井さんは良いお友達(?)です。

久しぶりに書いたのに、一倉さんらしさが無かったかも・・・ジャイアニズムが薄い・・・(一倉さんらしさか?それは)
もっと俺様にして、ギャグにした方が面白かったかもしれません(^^;



不機嫌な理由