青島は恐る恐る尋ねる。

自分に覆い被さっている一倉を見上げながら。

「何・・・・・・してるんですか?」

一倉は青島を見下ろしたまま、にやりと笑った。

「見て分からないか?押し倒してるんだが」

そんな冷静な答えが欲しかったわけじゃない青島は、思わず引きつる。

どうしてこんなことになったのか、青島は未だに良く分かっていない。

一倉が自宅に飲みにくることは珍しくなくなっていたのだが、押し倒されるような関係になった覚えは一つも無い。

「俺が知りたいのは、何で押し倒してるのかってことですよっ」

青島は悲鳴にならなかっただけ、自分を褒めてやりたいと思った。

先程から叫びだしたいのを必死で堪えているのだ。

一倉は場違いなまでに呑気な声で答えてくる。

「押し倒す理由なんてハッキリしてるだろう」

「・・・は?」

「ヤりたいからに決まってる」

一倉の素直だが突拍子もない返答に、青島は絶句してすぐに絶句している場合じゃないと気が付いた。

これで身の危険を感じなかったら、青島は危機管理能力が無いどころかマイナスだろう。

慌てて一倉の身体を押し返す。

が、離れてはくれない。

「お、俺、男っ・・・」

慌てた青島が言わずもがなことを言うと、一倉は声を立てて笑った。

「見れば分かる」

「じゃ、じゃ、なんで・・・っ」

「なら、お前は?」

聞き返された青島が怪訝そうな表情を浮かべると、一倉がニヤリと笑った。

「室井のこと、好きなんだろ?」

青島は目を剥いて一倉を見つめる。

それを平然と受け止める一倉。

しばらくそうしてから、青島は視線を逸らすと溜息を吐いた。

一倉の言っていることは事実だった。

青島と室井の間には理想を共有するという関係以外なにも無かったが、青島が室井に抱いている感情はそれだけではなかった。

伝えるつもりはないし、関係を変えることも望んでいない。

だから青島のひっそりとした片想いだった。

「知ってるなら、尚更です。何で俺を押し倒すんですか」

「何度聞かれても答えは一緒だぞ」

さらりと答えた一倉に、青島はさすがにムッとして一倉の胸倉を掴んでその身体を押し返した。

少しだけ一倉の身体が後に仰け反る。

「俺は男が好きなわけじゃない。ただ、室井さんが好きなだけだ」

「怒るなよ。お前に男と寝る趣味があると思って押し倒してるわけじゃねぇんだ」

青島がムッとした理由はまさにそれで、否定されてもすぐには納得がいかない。

疑わしげに一倉を見る。

「じゃあ、なんでですか。慰めてくれるつもりですか」

「どちらかというと、慰めてもらいたいんだがな」

「・・・・・・意味が、良く分からないんですけど」

首を捻った青島に、一倉が苦笑した。

「お前と一緒だってことだ」

青島はまたも絶句した。

「アンタ・・・室井さんのこと好きなのか?」

信じられないといった表情の青島に、一倉は失笑する。

「だとしたら、俺はお前じゃなくて室井を押し倒しただろうな」

「・・・・・・・・・・・・」

しばしの沈黙の後、いくらか青ざめた青島が恐る恐る口を開いた。

「まさかと思いますけど・・・もしかして」

「お前が好きらしい」

青島の言葉を遮った一倉の告白に、青島は口を閉じることを忘れて阿呆面をさらした。

そんな青島に、一倉は苦笑する。

「だから、押し倒す理由なんてハッキリしてると言ったろう」

「ヤりたいからって・・・」

「惚れてるからヤりたいんだ。誰が好きでもないヤローを押し倒すか。そこまで飢えてない」

一倉の言っていることにも一理あるが、どうせ告白するのならもっと分かりやすくはできないものか。

青島が真っ白になった頭の片隅でそんなことを考えていると、一倉が真剣な表情で見つめてくる。

「お前は、俺のことは嫌いか?」

単刀直入な質問にうろたえつつも、青島は真面目に考える。

「・・・・・・嫌いじゃ、ないですけど」

「好きなのは室井?」

「・・・です」

「俺じゃだめか」

いつになく真剣な一倉に、青島は視線を泳がせた。

こんなふうに迫られるのは、困る。

嫌いじゃないと言ったのは事実で、一倉と一緒に酒を飲んだり話したりするのは楽しいと素直に思う。

嫌いじゃないのではなくて、好きなのだと思う。

室井とは違った意味で。

だから、受け入れられないのだ。

そしてそれをはっきり伝えるのが、一番一倉を傷つけない方法である。

青島は逸らした視線を戻して、一倉を見返した。

「だめです」

拒絶されるのは予想の範疇だったのか、一倉は平然としている。

「言われると思った」

「なら」

「俺は室井の代わりでもいいんだが」

青島がぎょっとして一倉を見上げるが一倉はやはり平然としている。

別に悲観しているわけでも自棄になっているわけでもなさそうだ。

本気でそう思っているのだろう。

随分情けない台詞を一倉に言わせていると青島は思った。

思いながら一倉を睨むように見据えた。

「誰かの代わりに誰かと付き合うなんてマネ、俺に出来ると思いますか」

一倉は黙って青島を見つめて、そっと目を伏せて苦く笑った。

「・・・まぁ、無理だろうな」

そう呟いて、ようやく身体を離してくれたので、青島も起き上がる。

床に座ったまま、短い沈黙。

「なぁ」

「・・・はい?」

一倉の真摯な視線に、青島は何故だか微かな苛立ちを感じる。

いつもの一倉とあまりに違うからかもしれない。

そして、そうさせているのが青島だからだろうか。

「お前の気持ちが変わるのを、待っててもいいか?」

青島は思わず舌打ちをして、頭を掻いた。

「あああ、もう。そんな情けない顔しないでくださいよ!」

一倉は目を丸くして、それから頬を掻いた。

「そんな顔、してるか?」

「してますよ。いつもの厚顔不遜なアンタはどこにいっちゃったんですか」

「・・・お前も大概失礼なヤツだな」

「ええ、そうですよ。失礼だし、生意気だし、礼儀はなってないし・・・・・・・・・趣味悪いよ、一倉さん」

ぼそりと呟くと、一倉は苦笑した。

「全くだな」

これまた失礼な同意だったが、青島は聞き流した。

自分もこんなふうに情けない顔で室井を想っているのだろうか。

青島はふとそんなふうに思った。

室井を想っている時の自分の顔など見ることはないので、知るわけも無い。

でもきっと大差ない。

二人とも手に入れられないと知っているモノを望んでいるのだから。

多分、自分も一倉も大差ないのだ。

青島はそう思うと、ジッと見つめていた一倉に手を伸ばす。

「・・・?あお・・・」

一倉のネクタイを引っ張って、その唇に軽く触れる。

一瞬で離れると、目を見開いている一倉に舌を出して笑った。

「慰めてるつもりです」

一倉は口元に手を当てて絶句した。

「慰めてもらってるのかもしれないですけど」

珍しくも動揺している一倉に、青島は少しだけ気分が良かった。

「・・・・・・・・・どうせなら、もう少し慰めてくれないか?」

彼らしい立ち直りの早さで微笑を寄こす一倉に、青島は苦笑する。

「冗談。慰めはここまでです。それ以上をお望みなら、」

青島が言葉を区切ると、一倉の目に力がこもった。

「頑張って俺を落としてください」

それは一倉の先程の台詞に対する答えだ。

青島の気持ちが変わるのを待ってて欲しいわけではない。

一倉にそんなマネをさせたいわけではない。

だけど、青島も人の気持ちが永遠でないことくらいは知っている。

青島の室井への気持ちが変わらないとは言い切れない。

それと同じように一倉の気持ちが変わる事だってあるだろうし、もしかしたら間違えて室井が青島を好きになってくれることも

あるかもしれない。

だったら、青島が一倉を好きにならないとも限らないだろう。

先のことなんて誰にも分からない。

「言ったな・・・」

「言いましたよ」

無意味に胸を張って答えると、一倉が人の悪い笑みを浮かべる。

「覚悟しろよ」

その凄みのある笑みに少しだけ早まったかなと思ったが、青島は前言を撤回するつもりはなかった。

「望むところです」















END
(2004.9.25)


アンケートでご要望のあった「一青→室」を書こうとした成れの果てです(汗)
「一→青→室」ですよね、これ。申し訳ありません・・・。

この青島君は一倉さんとくっ付きそうですね。
室井さんが出てきていないのでなんとも言えませんが。
これで室井さんが一倉さんのこと好きだったりすると、普通に泥沼ですね(おいおい)

何か続きそうなラストですけど、続きは書きません。
無駄に平和主義者なので、三角関係が書けそうにないです(^^;
これで精一杯とは、何と情けない(笑)
頑張れ、自分・・・。



一方通行