タクシーを降りた一倉は、青島に寄りかかって歩く。

「・・・ほらっ、一倉さん!もうちょっとだから、ちゃんと歩いてくださいよ〜」

「気にするな」

「気にするな、じゃないですよ!重い!」

自分よりもがたいのいい一倉に寄りかかられて歩くのでは、さぞかし歩きにくいのだろう。

青島がぼやきながらも、一倉の身体を支えて歩いてくれる。

珍しくも一倉のほうが酔っ払っているのだ。

湾岸署に立ち寄った一倉が、青島を飲みに誘ったことは初めてじゃない。

たまにこうして二人で飲みに行ったりする。

出会い方は最悪だったと言ってもいいが、間に室井を入れることで、一倉と青島は親しくなっていった。

「鍵、貸してください」

青島に鞄ごと渡すと、嫌な顔をされた。

それでも、溜息を吐くだけに留めて、何も言わずに鍵を探し出す。

酔っ払いに何を言ってもムダだと思ったのかもしれない。

一倉は青島に気付かれない程度に小さく笑った。

本当はそれほど酔ってはいなかった。





部屋に入ると、青島は一倉の身体をソファーに投げ出す。

「大丈夫ですか?」

「・・・水」

「はいはい」

諦めたのか、今度は嫌な顔もせずに台所に行って水を取って来てくれる。

「ベッドまで行けます?ちゃんと布団で寝てくださいよ?」

「・・・・・・お前は?」

一倉が尋ねると、青島は首を傾げた。

「泊まっていけよ」

「いいですよ、俺はそんなに酔ってないから。帰れます」

首を竦めてソファーから離れようとした青島の腕を掴む。

「一倉さん?」

怪訝そうな青島に構わず、一倉はそのまま腕を引いた。

力一杯引き寄せると、あっさり青島の身体が傾いだ。

「ちょっ・・・っ」

胸に倒れこんできた青島を抱きしめて、身体を反転させてソファーに押し倒した。

一倉は見開かれた両目に自分が映っているのを見た。

「何・・・考えるんですか」

呆然としている青島。

それもそうだろう。

青島には一倉に押し倒される理由なんて思いつかないはずだ。

だけど、一倉にはあった。

青島を押し倒したくなる理由が。

酔っている人間とは思えないほどシニカルな笑みを浮かべた。

「何だろうな・・・」

青島の頬を撫ぜながら呟く。

「離してください」

至近距離で見つめると、青島が視線を泳がせた。

だけど、青島が抵抗する気配は無い。

驚いていて硬直しているのか、何をされているのか認識していないのか。

一倉はそう思って、苦笑した。

「青島」

「な、なんすか」

「・・・悪いな」

何が、という青島の呟きは、一倉の口付けが飲み込んだ。

「っ!」

さすがに青島の手が一倉の身体を押し返す。

が、それで解放してやるわけもなく、青島の動きを自分の身体で封じて、口付けを深くする。

舌を噛まれるかなとも思ったが、それならそれで良かった。

舌を絡めて吸い上げても、青島は噛み付いてはこなかった。

一倉が唇を離すと、青島が濡れた瞳で一倉を見ていた。

激しく動揺して戸惑ってはいるようだが、どういうわけか怒りは見えない。

都合のよい自分の視力に、一倉は苦く笑った。

「・・・何で、何を・・・」

「青島」

「っな、何ですか!」

不可解な一倉の行動に焦れたのか、青島が声を荒げた。

「欲しい」

「!」

青島はもう何がとは聞いてこない。

ただ大きく目を見開いて一倉を見つめてくるだけ。

抵抗のない青島に、一倉は初めて悲しそうな視線を向けた。

「悪いな」

もう一度謝ると、一倉は青島の服に手を掛けた。





本当はそれほど酔っていなかった。

酒の勢いがなければこんなことをしたりはしなかったけど。

意識はちゃんとあった。

その上で、欲しくてたまらなかった。

だから、抱いた。

青島を押し倒した理由なんて、一つだけ。

青島に惚れていたからだ。















一倉は隣で眠っている青島を見て、深いため息を付いた。

もうじき夜が明ける。

逃げ出してしまいたいが、それも出来そうにない。

どうしても欲しかった。

例え、最初で最後になるとしてもだ。

そう思って青島を抱いたのに。

朝になって理性が戻ってしまえば、後悔にも似た感情に苛まされる。

青島は二度と自分に笑ってはくれないだろう。

それも承知だったはずなのに・・・。

一倉は額に手を当てて、溜息を吐いた。

「・・・いちくらさん?」

声をかけられて、一倉は慌てて青島を見た。

まだいささか寝ぼけ気味の青島が一倉を見ていた。

一倉らしくもなく、言葉が出てこない。

「・・・一倉さん」

もう一度名前を呼ばれる。

「・・・・・・すまなかった」

一倉がようやく一言だけ漏らすと、青島は眉間に皺を寄せた。

「それはどういう意味ですか」

「・・・酔っ払っていた」

意外と往生際の悪い自分を、一倉は笑う。

通用するとは思っていないが、酔った弾みだと思ってもらいたかった。

それなら、ものすごく虫のいい話だが、もし許して貰えれたとすれば、今まで通りの付き合いが出来る。

それが一倉にとっていいことかどうかなど分からない。

だが、二度と青島が笑ってくれないのかと思うと、それだけは嫌だったのだ。

青島の表情が無くなる。

呆然と一倉を見ていたが、やがて唇を噛むと黙ってベッドから降りた。

「青島」

一倉は青島の腕を掴んだ。

夕べでもなかったほど力強く振り払われる。

「触るな」

低く言われて、一倉は思わず手を引いた。

青島が本気で怒っている。

当然だと、一倉自身思う。

「青島・・・」

「酔った弾みね・・・分かりましたよ」

一倉に背を向けて、青島は落ちていたシャツを拾い上げて服を着る。

身体が痛むのか、ぎこちない動作だ。

痛々しい後姿を見ていられなくて、一倉はもう一度手を伸ばした。

「青島」

肩を掴んで振り返らせる。

また手を振り払われて、キツク睨まれた。

「俺はアンタだから、抱かれたんだ」

一倉の思考が停止する。

何を言われているのか、飲み込めなかったのだ。

何も言えない一倉に構わず、青島が自嘲気味に笑った。

「青島?」

「一倉さん」

真っ直ぐに見つめられる。

「アンタが好きだった」

あまりに自分に都合の良い台詞に、一倉は耳を疑った。

間抜けにも、本当に未だ夢の中なのかと思ったくらいだ。

衝撃に何の反応も示さない一倉に、青島は淡々と続けた。

「忘れてください。・・・俺も、忘れます」

好きだったことも。

小さな声で言われて、一倉はようやく呆けている場合じゃないと気がついた。

「青島」

頬に触れようとして振り払われる。

だから、抵抗されないように、両腕を伸ばして抱きしめた。

腕の中で青島の身体が硬くなったのが、一倉にも伝わる。

「離してください」

「今更だし、自分で言うのもなんだが、ものすごく卑怯なような気もする。言ったら逆に嫌われそうな気もするんだが・・・。

 言わずにいられそうにない。言ってもいいか?」

ヤケに長い前置きに、青島が鼻を啜った。

「・・・何すか、一体」

「好きだ」

青島が目を見開く。

口をポカンと開けた青島に苦笑しながら、一倉は続けた。

「お前の気持ちを聞いてからでずるいと思うが、俺は意外と小心者なんだ」

弁解なのか開き直りなのか微妙な説明に、青島が少しの間の後不満そうな声をあげた。

「・・・小心者がいきなり押し倒しますか」

「振られたら立ち直れない。そう思ったんでね」

「・・・・・・だからって」

「反省はしてる。すまん」

我ながらふてぶてしい謝罪だとは思ったが、ようやくいつものペースに戻りつつあった一倉は強気だった。

挙句、ちょっとどころかかなり浮かれているから、たちが悪い。

憮然としている青島の眉間に口付ける。

「許してれないか?」

「・・・・・・・・・卑怯だ」

先に身体を繋げて、青島に気持ちを先に言わせた。

結果的にそうなってしまったのだが、卑怯だと言われてもしかたがない。

だけど、一倉は両想いだと思って押し倒したわけではなかった―それはそれで充分問題だが。

一倉が浮かれてしまっていても無理はない。

文句を言いつつ腕の中で大人しくしている青島に、たちの悪い男は満面の笑みを浮かべた。

「確かに。卑怯だったな。その償いはしよう」

一倉の満面の笑顔に怪訝そうな表情の青島。

「何・・・」

言いかけた青島の唇を自分の唇で塞ぐ。

「好きだ」

きょとんとした青島に微笑んだまま告げる。

瞼や頬に唇で触れながら、何度も繰り返す。

「好きだ、青島」

耳にキスして直接言葉を吹き込むと、青島が大きく反応した。

「ちょっ!な、なんですかっ・・・」

真っ赤な顔で片手で耳を押さえて、一倉から離れようとする。

当然、一倉は離してやらない。

「償いに、俺の気持ちを精一杯伝えようかと思ってな」

そう答えて、また青島の唇にキスをする。

「好きだぞ」

胡散臭いまでに爽やかな笑顔を浮かべてやると、青島が赤面したまま引きつった。

それを横目で見ながら、唇で耳の裏を掠めて首筋に吸い付いた。

「―っ」

「好きだ・・・」

鬱血した痕を舌でなぞると、青島が小さく声を漏らした。

一倉はニヤリと笑うと、そのまま再びベッドに押し倒した。

呆然とする青島に、また繰り返す。

「好きだ」

「・・・っ!も、もう、分かりましたよ!」

「て、ことは許してくれたってことだな?」

青島が睨みつけてくる。

「この、卑怯者!」

「自分でもそう思う」

あっさり返すと、青島は呆れ顔で一倉を見つめた。

キスをしながら、青島の着かけだった服に手を掛ける。

「・・・しかも、立ち直り早すぎ」

「それが、ウリでね」

「俺は買いませんよ」

「じゃあ、プレゼントしよう」

青島は、もう抵抗はしなかった。

苦笑すると、一倉の首に腕を回した。

「なんで、こんなオヤジに引っかかったかな、俺・・・」

一倉は上機嫌に笑った。




















END
(2004.8.7)


一青祭り協賛、第3弾は一青では最初で最後の(エセ)シリアスです!(笑)
最後の方はギャグっぽいです・・・。
さすが一倉さん・・・(何が)

卑怯者一倉さん。
青島君がとても苦労しそうです。
やめといたほうがいいぞ〜と言ってあげたいです。

一青でシリアスは書けないことが判明・・・(^^;




卑怯者