目が覚めた一倉は、いるはずのない男の顔を見て驚いた。
「鬼の霍乱」
目を丸くしている一倉にそう言い放つと、青島が手を伸ばしてくる。
青島の手が一倉の額にかかり、その冷たさに驚く。
どちらかというと、青島はいつも暖かい手をしている。
「・・・どっか悪いのか、青島」
思わず尋ねると、青島が呆れた顔をした。
「悪いのは、アンタのほうでしょうが」
手が離れていくと、今度は濡れたタオルが乗せられる。
それで、やっと思い出す。
自分が風邪を引いて寝込んでいたことを。
流行のインフルエンザにやられたらしく、朝から妙にだるかった。
「お前に取り付くなんて根性のあるウィルスだな」と日頃のお返しか室井に嫌味を言われたが、
「うつされても困るから、さっさと帰れ」と昼前には早退させてくれたのだ。
そして帰宅してすぐに発熱し、寝込んでしまったというわけだ。
思い出してから、不思議に思って青島を見る。
「お前・・・なんでいるんだ?」
青島は半眼になって一倉を睨んだ。
「どの口がそれを言いますか。呼んだのは一倉さん」
「俺が呼んだ・・・?」
全く覚えていなかった。
それが顔に出ていたのであろう。
青島が溜息を吐く。
「いきなり電話してきて、死にそうだから家まで来いって言ったの、一倉さんでしょう」
どうやら、眠る前に青島に電話をして看病しろとせがんだらしいが、やっぱり覚えていなかった。
首を捻る一倉に、青島は苦笑した。
「まあ、呼んでもらって良かったですけどね・・・」
そう言って、ひんやりした手が一倉の頬を撫ぜた。
思いのほか気持ちがいい。
一倉が目を細めて青島を見ると、青島はそっと手を引いた。
名残惜しくて手を伸ばそうとすると、逆にその手を捕まれて布団に戻される。
「熱あるときくらい、大人しく寝てたらどうですか」
「・・・まだ何もしてないだろう」
「しそうな目だった」
青島はぴしゃりと言うと、一倉の額のタオルを目元までひっぱってきた。
頭がぼうっとしていて思考がまとまらないが、何となく不愉快に思う。
「おい」
看病されている身でありながら、横柄な声を上げる。
「寝てください。おかゆくらい作ってあげます」
「食いたくない」
「薬飲めないから、ダメです」
「いらない」
何故か口をつくのは、駄々を捏ねる子供みたいな台詞。
一倉は目を覆われたまま、口元だけで笑った。
甘えたいのか、すねたいのか、自分でも良く分からない。
ただ、青島に触れたかった。
ふと光が差して、視界が開ける。
青島がタオルをどかしてくれたらしい。
視線を向けると、青島が苦笑していた。
「看病させてくださいよ。そのために呼んだんでしょうが」
「・・・・・・・・・違うな」
「は?」
どうして青島に電話をしたのか覚えてはいないが、その理由は分かっている。
「そばにいて欲しかっただけだ」
正直に言うと、青島が一瞬表情を無くした。
目を剥いて一倉を見ていたが、徐々に頬が赤くなってくるのが一倉からも見て取れる。
「風邪、うつしたか?」
ニヤリと笑ってやると、青島に睨まれる。
「可愛くない」
「俺が可愛かったら気持ち悪いだろう」
「それもそうですね」
照れているのか、つっけんどんな返事が返ってくる。
「青島」
熱のせいか、少し掠れた声で名前を呼ぶ。
少しの間の後、青島がちらりと一倉を見た。
一倉は布団から出した手を青島に向かって伸ばした。
触れるためではない。
触れてもらうためだ。
少しだけ差し出された手に目を丸くしてから、青島は苦笑した。
そして青島から手を伸ばして、軽く一倉の手を握ってくれる。
「飯食って、薬飲んでください。そしたら・・・」
「そしたら・・・?」
青島は握った手を軽く揺すった。
「朝までここにいますから」
「飯を食って、薬を飲もう」
今度はあっさり快諾する。
朝まで傍にいてくれて、こうして触ってくれるのなら、青島に逆らう理由は何もない。
一倉が相好を崩す。
「駄々は捏ねてみるもんだな」
呆れ顔で青島は笑った。
END
(2004.7.31)
一青祭りに協賛中!というわけで、一青第2弾は風邪引き一倉さんでした。
パワーダウンしてますね、一倉さん(笑)
病人相手なので、青島君も優しいです。
子供みたいな一倉さんになってしまいましたが、たまにはどうしょうか・・・。
そういえば、病気の室井さんって書いてなかったですね〜。
一倉さんを先に書いてしまった・・・(苦笑)
鬼の霍乱