『休暇を取って来い』
電話に出た途端に命令されて、青島は眉をしかめた。
こんな傍若無人な電話を寄越す知人は、青島には一人しかいない。
誰かなんて聞き返す必要もなかった。
「無理ですよ」
呆れたように答えると、電話の向こうで一倉が続けた。
『お前の誕生日だぞ?』
「俺の誕生日は祝日じゃありません。無理ですよ」
青島は繰り返すが、一倉は聞いちゃいない。
『俺が祝ってやるって言ってんのにか』
BGMに「お〜れはジャイア〜〜ン♪」という懐かしい曲が聞こえた気がする。
「・・・それはありがたいですけど。年末が忙しいのは知ってるでしょ。休暇なんてくれるわけないってば」
青島がもっともなことを言って聞かせるが、一倉はやっぱり聞いていなかった。
『いいか、青島』
「はい?」
『休暇は人から貰うものじゃなくて、自分で手にいれるものだ』
「・・・それは初耳でした。社会人になってこの方、休暇は上司から貰うもんだとばかり思ってましたよ」
呆れ果てている青島に、一倉は「健闘を祈る」という何の腹の足しにもならないセリフをはいて、一方的に電話を切った。
切れた電話を見つめてしばし呆然とするが、こうなっては諦めるより他は無い。
相手はあの一倉である。
抵抗するだけ無駄というものだ。
諦めてはいるが、この後素直に一倉の言うことを聞いて、休暇を取ろうとするであろう自分に対しては少しだけ腹が立った。
一倉の自宅に向かうと、勝ち誇っている一倉に出迎えられて青島は渋面になった。
「ほらな?取ろうと思えば取れるだろ?」
「課長にはグチグチ言われるし、すみれさんには理由がすっかりバレててからかわれるし。揚句俺、この後二週間休み無しですよ?」
会った早々ぼやきたくないが、ついぼやいてしまうのも無理は無いだろう。
一倉もさすがに苦笑している。
「分かった、分かった」
「大体俺の誕生日なのに、何で一倉さんの我が儘をきかないといけないんですか」
「悪かったって。ちゃんと祝ってやるから」
一倉に腕を引かれて引き寄せられると、おでこにキスされる。
「・・・赤ん坊じゃないんだから、これくらいで機嫌が良くなると思わないでくださいよ」
何て言ってみるが、本当は少し良くなっていたりして。
一倉もそれに気付いているのか、微笑しながら青島の瞼に唇を滑らせてくる。
「どうだ?」
「まだまだ」
言いながら一倉の首に腕を絡める。
一倉の唇が頬を掠め耳元にずれると、背中がゾクッとした。
耳元や首筋に軽く音を立ててキスを贈られる。
「機嫌・・・直ったか?」
「・・・もう、ちょい、かな」
一倉が顔を覗きこんでくるから、青島は舌を出して悪戯っぽく笑った。
目を細めた一倉の顔が近づいてきて、青島は目を閉じる。
唇に慣れた感触。
軽く触れ合わせるだけのキスを何度か繰り返す。
「青島」
「・・・はい?」
目を開けると、至近距離にある一倉の顔。
思ったよりも真剣な表情で、青島は不覚にもドキドキした。
「お前がいてくれて、良かったと思うよ」
挙句にそんな台詞を吐くものだから、青島は薄っすらと赤面した。
至近距離にいるから、一倉にもそれが見て取れたのだろう。
機嫌良さそうに微笑している。
「そんなに照れるなよ」
「う、うるさいなっ。一倉さんが、らしくないこと言うからっ」
「思ったことを、素直に口にしてみただけだ」
さらっと言われて、青島の顔に更に熱が昇る。
一倉は声を立てて笑った。
「可愛いヤツ」
「・・・一倉さん、沸いてんじゃないの?」
―俺が可愛く見えるなんて、絶対可笑しい。
青島は心底そう思ったのだが、一倉は「わかってねーな、こいつは」というふうに苦笑を浮かべている。
むぅっと膨れた青島の唇に、一倉はもう一度キスをくれる。
「何だっていいさ」
「は?」
「幸せだから、それでいい」
微笑みながら言われて、青島は一瞬息を飲んだ。
好きでも、愛しているでもない。
だけど、これは確実に愛の言葉。
青島は一倉の肩に顔を埋めた。
「・・・俺も、ですよ」
青島の頭を撫ぜながら、一倉が囁いた。
「おめでとう」
「で、だ」
「はい?」
「とりあえず」
「はい」
「もっと、幸せにしてやろうかと思うんだが」
「・・・・・・どこ触ってんですか」
「もしくは、俺をもっと幸せにしてくれ」
「人の話を聞けっ!つーか、そっちが本音だろっ」
「どっちでも同じことだろ?」
「その自信がどこからくるのか一度ゆっくり話し合いませんか」
「また今度な」
「・・・っ、ちょ、分かったから、ベッド行きましょうよっ」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃなっ・・・・・・ぁ」
「一緒に幸せになろうな、青島」
「・・・っ、このっ、卑怯者っ」
END
何だかんだで幸せなんでしょう(おい)
後ちょっとでお祭りが終わる!出来たらもう一本書きたい!!という思いだけで書きました。
短いですが、青島君の誕生日話です。
盛り上がりに欠ける話で申し訳ありません・・・(><)
幸せに