■ wedding march‐ss 「初めての夜」
駅から自宅に向かいながら、室井は無意識に早まる足に気が付いた。
子どものように浮かれている自身に呆れるばかりだが、速度を落とそうとは思わない。
気が滅入るような仕事を片付け本庁を出る時には重たかった気持ちも、いつの間にか少し軽くなっていた。
家に帰れば青島がいる。
しばらく前からその状況だったが、関係はすっかり変わっていた。
恋人となった青島が待つ自宅に帰るという状況には、まだ慣れていない。
念願叶って青島と恋人という関係に落ち着いたが、相変わらず夢のようだという思いが強かった。
玄関を開けて靴を脱いでいると、青島がリビングから顔を見せた。
今日は早く帰れるから夕飯を作って待っていると、メールをくれていた。
「おかえりなさい」
笑顔で迎えられ、室井はまた気持ちが上向くのを感じた。
最近では毎日がこんな感じだ。
恋愛面において自身を淡泊な人間だと思い込んでいた室井は、青島と付き合いだしてそうではないのだということに初めて気が付いた。
傍目から見てそうは見えなくても、愛しい人といるだけで一喜一憂している自分がいた。
誰かにこんなにも影響を受けている自分自身に驚いてはいるものの、それでもそれを悪いこととは感じていなかった。
愛しい人がいて、その人に想われているということが、こんなにも室井を幸せにした。
「室井さん?どうしたの?」
靴を脱ぎ掛けたまま固まっていた室井に、青島は首を傾げていた。
室井は思い出したようにちゃんと靴を脱ぎ、部屋に上がった。
「ただいま」
忘れていた挨拶も返し、青島と一緒にリビングに入る。
「疲れてます?大丈夫?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか?ならいいけど、無理はしなくていいですからね」
24時間気を張っている必要などないのだと、想いを通わせ他人ではなくなった青島が室井に教えてくれる。
その仕事ぶりからも分かる通り、青島は誰かに頼られるのが好きなようだった。
お調子者という側面もなくはない男だが、困った時には力になりますからなどと彼に笑いかけられれば、自然と力が抜ける。
性格的に簡単に愚痴を零せる性質ではないが、青島が受け止めてくれるつもりでいることが分かるだけでも有り難かった。
「ありがとう」
素直に感謝の意だけ伝えると、青島はニコリと笑って台所に戻って行った。
「すぐ飯にしますから、着替えて来てください」
「ああ…ナポリタンか?」
室井はリビングを横切り自室に向かいながら鼻をひくつかせた。
前に青島が作ってくれたことがあったソレが頭に浮かんだ。
台所から青島の声が返ってくる。
「残念、オムライスです」
「そうか」
随分と可愛らしいものを作ったなと思い、室井は声もなく笑って自室に引っ込んだ。
席に着くとオムライスとサラダとスープが用意されていた。
青島がケチャップのボトルを構えた。
「ハート書いたげましょうか?」
「…ほんじなす」
嫌な顔をした室井に笑って、青島は黄色い卵の上に適当に赤い線をひいた。
室井は頂きますと手を合わせて、有り難くスプーンを握った。
青島に食事を作ってもらうということが、未だになんとなく嬉しかった。
自分が食べるためでもあるが、室井のために手をかけてくれているのは確かだろう。
それが嬉しかった。
「美味い」
感謝の気持ちも込めて言えば、青島は嬉しそうに笑った。
「スープはレトルトなんですけどね」
「十分だ、助かる」
「ふわとろにできなかったのが残念です」
言われている意味が一瞬分からなかったが、卵の焼き加減のことだと理解した。
青島の作ってくれたオムライスは、卵にしっかりと火が通っていた。
青島の好みでそうなったわけではなく、技術の問題だったようだ。
「問題ない、俺は硬いのも好きだ」
「どっちがより好みですか?」
「…考えたことがないな」
「はは、なんか室井さんらしいや。じゃあ考えておいてくださいね」
上手に作れるように練習しますからと、青島が笑う。
自分の好みを覚えて、それを作れるように努力すると言ってくれる青島を可愛すぎると思ったとしても、それは決して自分が色ボケしているせいではないと室井は思った。
それが事実なんだから仕方がないと本気で思ってしまう辺り、色ボケしていないとも言い切れないが。
放っておくといつまでもぼんやりと青島を見つめていそうな視線を、青島が不審に思う前になんとか逸らし、オムライスを口に運ぶ。
「君は半熟が好きなんだな」
「はい。あ、室井さん作れたりします?」
「無理だ、オムライスは作ったことがない」
「そっか、でも卵焼きは上手かったですよね」
「オムライスも練習してみるか」
「マジすか?」
「…ふわとろ、だったか?」
また嬉しそうに青島が笑った。
好きな人に好かれる努力をする、好きでいてもらう努力をする。
室井はまた恋をするとはこういうことだったかと、学んだ気がした。
交代で風呂に入ると、二人揃ってリビングで寛いだ。
二人とも帰宅が遅い日が多いから、風呂から上がれば後は寝るだけということも珍しくはない。
一緒に食事が取れれば御の字で、ろくに顔を合わせない日が二、三日続くこともままあるくらいである。
だが、今夜はまだ寝るには早い時間だった。
恋人になってからに限れば、こんなに時間にゆとりのある夜は初めてだった。
しかも、明日は揃いの非番であり、一緒に出かける約束もしている。
一緒にいられる時間が長いことが、単純に嬉しかった。
少しやりませんかと青島に誘われ、二人で寝酒をすることにした。
ソファに並んで座り、缶ビールで乾杯する。
食事の時にはとりとめのない会話が弾んだものだが、今はどうしたことか口数が少なかった。
少し気まずい空気を感じたが、決して険悪な雰囲気ではない。
証拠に青島はすぐ隣にいて、簡単に触れられるほど肩が近かった。
深く考えたわけではない。
だが、そうすることを許される関係であるはずという事実を言い訳にして、室井は青島の手を握ってみた。
風呂上がりのせいもあり、青島の手は熱かった。
緊張のせいで自身の手が冷えていたことには、室井は気付いていなかった。
青島がちらりと室井を見た。
視線が合うと、照れたように青島が笑った。
その一瞬で可愛いなと思ったし、キスをしたいと思ったし、それ以上のこともしたいと望んでしまったが、行動には移せなかった。
ただ、ぐっと握る手に力を込めてしまう。
青島からも握り返してくれるのが、嬉しかった。
欲がないわけではない。
ずっと青島が欲しくて堪らなかった。
だからこそ、触れることが許されているだけでも、満たされるものもある。
それを自覚しているから、一瞬にして上った熱がゆっくりと落ち着く。
室井の隣で幸せそうにビールを飲んでいる青島を見ていれば、もう少し今のままでもいいのかもしれないと、強がりではなく思えた。
そう思うのは、青島を誘う勇気がまだ出ないという事実が多少なりとも影響していたが、青島と恋人になれただけでも今は満足しているということは間違いなかった。
「室井さん、起きてる?」
いつのまにかぼんやりしていた室井を見て、青島が首を傾げていた。
「起きてる」
「良かった」
目を開けて寝てるのかと思ったと言って笑うから、室井もつられるように笑った。
「明日は出かけるし、そろそろ休むか」
「あー、そうっすねえ…ビールも無くなったし」
空になった缶を振った青島が、室井と繋いだままの手を見下ろした。
どこか名残惜しそうに見えたのは、きっと気のせいではない。
このまま離さなくても良いのだろうかと、また一瞬にして欲が顔を出した。
「明日は、よろしくお願いします」
手を繋いだままで、青島が笑った。
明日は直しに出していた指輪を二人で取りに行くことにしていた。
青島のおかげで、気持ちが明日に切り替わった。
「こちらこそよろしく頼む」
視線を合わせて小さく笑みを交わして、それからそっと手を離した。
酷く物足りない気持ちになったが、焦るなと自分に言い聞かせた。
離した青島の手は、きっとまたすぐに繋げるはずだ。
青島が望んでくれる限りは、これで終いではない。
「…それじゃあ、寝ましょうか」
そう言って腰を上げた青島がやっぱり名残惜しげに見えたことも、きっと気のせいではない。
室井の願望でなければいいと思った。
にこやかに頭を下げる女性店員に見送られ、青島と連れ立ち店を出た。
直しに出していた青島に贈った指輪を受け取りに来たところだった。
ちらりと視線を下げれば青島の左手の薬指にそれがある。
所謂エンゲージリングだが、普段は中々つける機会がないから今日くらいはと、そのまましてくれていた。
青島が自分の贈った指輪をしてくれていることが、堪らなく嬉しかった。
青島が恋人になったのだと、もう何度目かの実感が沸く。
何度も実感するということは、つまりまだあまり現実味がないということなのかもしれない。
ふと、室井の視線に気付いたのか、青島が室井を振り返った。
照れ笑いを浮かべたと思ったら、さっと左手を翳してみせた。
「ピッタリ」
サイズを図って直しに出したのだからそれで当然だったが、まるで自慢するように指輪を見せる青島が可愛かったから、室井はそうだなと頷いておいた。
「でも、びっくりしました」
「何がだ?」
「室井さんの告白もだったけど、いきなり指輪もらったから」
告白と同時に指輪を贈るのはあまり一般的とは言えないから、青島が驚いたのも無理はなかった。
先走り過ぎた感はなくもないが、後悔はない。
青島の気持ちを知り箍が外れて、青島を生涯の伴侶にしたいと思ったことは確かだが、もちろん勢いだけで結婚を見据えた交際を申し込んだわけではない。
ずっと青島の傍にいたいという願いは、昨日今日抱えたものではなかった。
実現に向けて行動に移したのは勢いもあったが、室井の気持ちはずっと前から一つも変わっていなかった。
それでもやっぱり室井の行動が青島にとっては唐突だったことは、間違いなかった。
「少し舞い上がっていたんだ」
「ええ?室井さんが?」
素直に意外そうな声を上げるから、室井は眉間に皺を寄せて仕方がないだろうと呟いた。
「君が同じ気持ちでいてくれているなんて、考えもしなかったんだ」
予想もしなかったことを、予想もしないタイミングですみれから聞かされ、あの時の室井はらしくもなく随分と舞い上がっていた。
交際することすら望めないと思っていたのに、青島の気持ちを知った途端に死ぬまで一緒にいたいと願ってしまった。
舞い上がっていたとしか言いようがない。
ただ、気の迷いなんかではないことは、今の自分が一番良く分かっている。
室井には、青島しか考えられなかった。
「はは…それは、俺と一緒ですね」
青島が照れたように笑った。
「俺はむしろ今、舞い上がり中です」
なんてねと笑う青島が愛おしかったから、室井の口から馬鹿な本音が漏れた。
「それなら俺は舞い上がりっぱなしだ」
地に足がついていないと、言わなくてもいいことまで自分でばらす。
いくら気持ちを隠さなくて良くなったとはいえ、これほど明け透けに晒している自分が信じられない。
これまで生きてきて、これほど感情のコントロールができなくなったことはない。
恋をしてバカになっているらしい自分が薄気味悪くすら感じたが、青島は少し困った顔をしたものの、結局笑ってくれた。
「なら、お互い様ですね」
青島もバカになってくれているのなら、これほど嬉しいこともない。
「そうだな」
納得したように力強く頷いた室井に、青島はやっぱり笑っていた。
指輪を受け取ると、予約しておいたフレンチレストランで食事をした。
慌ただしく告白したが、同時に婚約もしたつもりだった。
指輪を直した日という半端な日になってしまったが、一応記念日らしくお祝いめいたことをしようという、らしくもない思い付きだった。
青島に何も告げていなかったから驚いていたようだった。
「だから、スーツで出かけるって言ったんすね」
席につき、ワインを注文した後で、青島がこれで合点がいったと納得した。
「てっきり、室井さんはデートする時もスーツの人なのかと思っちゃいました」
「そんなわけないだろう」
室井は苦笑したが、良く考えればまともにデートをするのは初めてだったから、理由も言わずにスーツでと注文をつけた室井に青島がそう思っても仕方がないかもしれない。
「でも驚きました、フレンチって室井さんのイメージじゃないし」
青島が意外そうに言うが、自分でもそう思った。
青島に黙って予約していたのは別にサプライズを演出しようなどと、手の込んだことを考えたわけではなかった。
ただ、らしくないことをしている自覚があっただけに、青島にフレンチレストランを予約したと告げるのが気恥ずかしかっただけである。
「たまにはいいだろう」
「俺は連れて来てもらって嬉しいですよ。こんないい店初めてだし」
「俺だって初めてだ」
「そうですか」
何故か嬉しそうに笑った青島が、室井の特別扱いを察して喜んでいたことなどは当の本人は気が付いていなかったが、気が付いていなくても充分幸せだった。
運ばれて来たワインで乾杯し慣れない料理を味わい終始ご満悦だった青島に、室井がご満悦だったことは言うまでもなかった。
レストランを出た後は、真っ直ぐ自宅に向かった。
昨夜のように、会話は少なかった。
室井の口数が少ないのはいつものことだが、青島もあまり話そうとしなかった。
食事の感想を幸せそうに並べたり、休日が終わってしまうことを憂い明日の仕事のことを口にしたりしたが、全体的に静かだった。
駅で電車を降りて自宅に向かって歩く頃には、会話らしい会話は無くなっていた。
ただ、青島がそっと握ってきた手を握り返して歩いた。
視線が合えば、青島から笑みが返って来たが、何かを話そうとはしなかった。
明らかに不自然な沈黙を、室井はどうにかしようとは思わなかった。
今の二人が不自然なのは、ただの上司と部下という関係ではなくなった証だ。
二人きりで過ごす夜に、戸惑いや期待を寄せて当然の関係になったということだ。
触れる青島の掌の熱さに、室井はようやくそれを正しく実感していた。
自宅に帰り玄関のドアを開け、中に入った途端、室井は青島を抱き締めた。
青島も当たり前のように背中を抱いてくれた。
堪らず唇を重ねれば、誘うように青島が唇を開いた。
室井が差し入れた舌に、すぐに青島のそれが絡んだ。
どちらからともなく自然と深くなったキスに、我慢がきかなくなる。
室井は青島をドアに押し付けるようにして、唇を貪った。
それだけでは足りないとばかりに、耳に唇を押し付け、首筋に吸い付き、青島を呼んだ。
嫌になるくらい切羽詰まった声に、青島がびくりと小さく震えて反応した。
「室井さん、ちょっと待って…」
待てないと、危うく口から出すところだったが、根性で耐える。
「嫌か、青島」
何がかは、伝えなくても伝わっているだろう。
これまで交わしたキスとも包容とも明らかに違っているそれは、室井の欲望を素直に表していた。
そして、恐らく青島も同じ気持ちのはずだった。
「嫌じゃないですよ…嫌なわけないじゃない」
案の定、笑みの含んだ声はどこか照れくさそうであり、嬉しそうでもあった。
「シャワー浴びたいです」
だから少し待ってと言われれば、待たないわけにいかなかった。
それに、のぼせ上がった頭と身体を、一旦冷ますべきだろうとも思った。
初めて青島と心ではない繋がりを持つ大事な夜だった。
自分勝手に興奮し、焦って失敗したくはなかった。
「わかった」
室井は青島に触れるだけのキスをすると、身体を離した。
玄関に落ちていた青島の鞄を拾い上げ、汚れを払った。
「あ、すいません」
「いや、こっちこそ玄関ですまない」
「俺こそ調子に乗りまして」
変な具合に謝りあいながら青島と視線を合わせれば、どちらからともなく笑みが零れた。
青島と交代でシャワーを浴びた室井がバスルームから出て来た時、青島はリビングの窓際に立って煙草を吸っていた。
室井を待っているその後ろ姿に、動悸を覚えた。
シャワーを浴びれば少しは落ち着くかと思ったが、仕切り直した分、かえって緊張と期待が増した気がしなくもない。
かといって、これ以上は待てなかった。
青島に無理強いするつもりはないが、許されるなら青島が欲しかった。
煙を窓の外に向かい吐き出した青島が、振り返って室井を見た。
「明日は晴れそうですね」
また外を見た青島が場違いな話をした。
「星が見えます」
「そうか」
「まあ、晴れたからって遊びに行けるわけじゃないんですけど」
「そうだな」
心ここに在らずな室井の返事を、青島も気にした様子は無かった。
青島はもう一度煙草を吸って、灰皿にそれを捨てた。
「青島」
青島が振り返った。
室井を見てはにかむと、窓を閉めて手を差し出して来た。
望んでいるのが室井ばかりではないのだと、その手が教えてくれる。
ひょっとしたら、これは長い夢かもしれない。
心の底からそう思いながら、室井は青島の手を取り自分の部屋に向かった。
少し迷ってベッドに腰をかけた青島を見つめただけで、ぞわりと背中が震えた。
青島は室井と抱き合うために、今ここにいる。
そう考えるだけで、堪らなかった。
室井は青島を抱きしめるようにして、ベッドに押し倒した。
抗わずに背中を抱いてくれる青島に、奇跡みたいな感動を覚える。
恋人なのだからこうなって当たり前とは、この時は全く思わなかった。
ただこうして青島に触れられることに、歓喜した。
貪るようなキスをして、合間に何度も青島の名前を呼ぶ。
ほとんど無意識に身体が動いていた。
落ち着け落ち着けと心の中では繰り返すが、その心中だって一つもまとまっていなかった。
初めて他人と肌を合わせた時だって、もう少し落ち着いていたかもしれない。
焦るな、優しくしろ、もっと丁寧に。
そう思いながら、身体は本能のままに青島の素肌に触れて、舐めて、キスをしていた。
いつもはシャツに隠れている首筋に強く吸いつく。
自分でつけた赤く鬱血した痕が視界に入ると、益々興奮した。
夢中になって痕を増やせば、青島が小さな吐息を漏らした。
嫌がってはいないだろうか、痛がってはいないだろうか、そう思って青島の顔を少し覗き見れば、青島は頬を上気させて口元に手を当てて何かを堪えているようだった。
視線が合えば、はにかむように微笑んでくれるから、嫌がられていないことだけは分かる。
青島の手を握って口元から離し、また唇にキスをした。
真上から見下ろせば、照れたように青島の視線が揺れる。
「なんか…信じられないですね」
青島が小さく呟いた。
「うん?」
頬を撫ぜて聞き返せば、青島は室井を見上げて笑った。
「室井さんとこんなことしてるなんて、まだちょっと信じられないです」
室井だって、青島と同じ気持ちだった。
だけどこれは、室井が叶うはずがないと思いながらも願い続けていた現実だ。
「俺はずっとこうしたかった」
青島を見下ろして囁けば、青島は目を瞠っていた。
「ずっと好きだった」
心も身体も最早ままならず、ただ素直に曝け出すだけ。
室井自身でも自覚しきれていなかったほどの愛情と欲望の全てが、ただ一人青島にだけ向けられていた。
それを今、一心に受けているはずの青島は、赤く染まった顔を強張らせていた。
重かっただろうかと室井が思うより先に、両手でしっかりと抱きついてくる。
「そんなの、俺だって」
室井は強く青島を抱き返した。
望まれていると知るだけで、どうにかなりそうなほど興奮した。
それと同時に、不覚にも涙腺が緩みそうになり、青島の肩に額を押しつけた。
初めてのセックスで感動して泣くなどみっともなくてできなかったが、それほどの感動だったことは間違いなかった。
「俺だって、ずっと好きでした」
「ああ」
「ずっとこうなりたかった、室井さんが欲しかったです」
耳に届く青島の告白に言葉もなかったが、無意識に口からこぼれ出ていた。
「今なら死んでも悔いは無い」
少しの間の後、青島は笑いながら怒った。
「俺は絶対嫌ですよ、こんなところで死ぬなんて勿体ない」
せめて、終わってからにして。
青島がそう言って笑うから、そんな問題かと室井もつられて笑ってしまった。
笑ったまま交わした口付けが再び深くなるまで、時間はそうかからなかった。
END
2014.7.28
あとがき
読みたいとご要望を頂いていたので、調子に乗って書いた初夜編です。
室井さんの頭が全体的にお花畑ですみません(笑)
だって、青島君と初めてとかいったら!そりゃあもう!ね!(何)
脳内がわっしょいわっしょいなんだけど、
必死に冷静を保とうとする室井さんが書きたかったのですが、
どこまで書けたのか…
とにかく幸せそうな初夜で良かったね!ということで!(笑)
お付き合いありがとうございました。
template : A Moveable Feast