■ wedding march‐ss 「記念日」
帰宅した室井は、リビングに入って驚いた。
テーブルの上が、豪華な料理でいっぱいだったからだ。
オードブルやビーフシチューなど、あまり室井宅のテーブルに並ばない料理か並んでいる。
明らかに、何かのお祝いをしようとしているテーブルである。
用意したはずの張本人は、ソファにひっくり返って居眠りをしていた。
仕事から帰ってきて手の込んだ準備をしたから、疲れたのだろう。
室井はもう少し早く帰宅出来なかったかと、今日の自身の仕事ぶりを簡単に振り返って後悔した。
そっと鞄を床に置き、テーブルの隅にコンビニのビニール袋を置いて、青島の寝顔を見下ろした。
起こそうかどうしようか迷ってしまう。
一緒に食事をしようと待っていてくれたはずだから起こすべきだろうが、気持ち良さそうに眠っている青島を見ればもう少し休ませてやりたい気もした。
どうしようか悩んでいるうちに、眠りが浅かったのか青島が目を開けた。
寝ぼけた眼差しと、視線がぶつかる。
「あれ?室井さん?」
いつの間にと瞬きを繰り返す青島に小さく笑い、室井は青島の頭を撫ぜた。
「ただいま」
「おかえりなさい、お疲れ様です」
起き上がり伸びをする青島に、今度は顔を寄せて唇を合わせた。
きょとんとしていた青島だが、何度も唇を重ねるとくすぐったそうに笑った。
「なに、どうしたの」
「ありがとう」
「え?」
「料理だ、手間掛かっただろ」
「あー、いや、買って来たものも多いから」
青島は笑って、首を振った。
「それにしても、お祝いするんだったら一言言ってくれたら良かったのに」
「ただの思いつきですから。珍しく早く帰れたんでね、せっかくだからお祝いしようかなと…つーか、室井さんも覚えてたんだ」
そう言って笑う青島はどこか嬉しそうだった。
今日は、青島と付き合い出した日だった。
と言っても、形だけの恋人になった日である。
誕生日と結婚記念日くらいしか祝うつもりのない二人だが、二人にとってこの日は少々特別だったようだ。
豪華な食事を用意してくれたのは青島の気まぐれだったようだが、記念日として覚えていなければお祝いしようという気にはならなかったはずだ。
愛しいなという気持ちをこめてしつこくキスを送ったら、青島はクスクス笑いながら室井の背中を叩いた。
「室井さん、室井さん」
「ん?」
「俺じゃなくて、先に飯食ってくださいよ」
そんなつもりではなかった室井は眉間に皺を寄せたが、つまり飯の後なら青島も食わせてもらえるのかと思ってしまったから、人聞きが悪いとも怒れない。
室井はしつこくもう一度キスして、身体を離した。
「飯にしよう」
「はい、支度しておきますから、着替えて来てください」
「ありがとう」
室井は一度自分の部屋に引っ込み、部屋着に着替えてリビングに戻った。
リビングに戻ったら、ワインを片手に持ったままの青島が、室井がテーブルに置いたビニール袋を覗き込んでいた。
室井を振り返って笑う。
「ありがとう、室井さん」
袋の中身は、アメスピとショートケーキ。
今日の日を祝うつもりだったのは、青島だけではなかった。
それが嬉しいのか、青島は勢いよく室井の首にしがみつきキスをくれた。
「君がこんなに用意してくれたのに、コンビニのケーキで申し訳ないけどな」
青島の背中を抱きながら言い訳をするが、青島は笑って首を横に振った。
時間が遅くなったためコンビニでしかケーキが買えなかったのだが、もちろん青島はそんなことは気にしていなかった。
「気持ちの問題ですよ、こういうことは」
「そうだな」
「はは、嬉しいなあ」
「俺もだ…ところで、青島」
「はい?」
「そろそろ離れてくれないと、飯の前に君を食わせてもらうことになるが」
キスを繰り返されて困った室井が馬鹿正直に言ったら、青島は破顔してもう一度キスを寄越した。
室井の首に絡まっていた腕が離れて行くから、その手からワインのボトルを取り上げる。
「俺が開けよう」
グラスを頼むと言えば、青島は鼻歌交じりでキッチンに向かった。
「飲み過ぎないようにしないとなー」
などと聞こえてくるから、「よろしく頼む」とまた馬鹿正直に伝えたら、青島の笑い声が響いた。
END
2014.5.11
あとがき
まあ!ラブラブね!(他に言うこともありません)
こんな具合に、このシリーズで、
ひたすらいちゃいちゃしてる二人の小話を書きたいです。
template : A Moveable Feast