■ ヴァンプ小話(18)


バタン。


玄関のドアが乱暴に開く音に、ソファーに座り新聞を読んでいた室井は顔を上げた。
外出中だった青島が帰ってきたらしい。


バタン。


乱暴に開かれたドアが乱暴に閉まる。


ゴツン。
ゴツン。


脱いだ靴が放り出されたのを悟って、室井は眉を顰める。
脱ぎっぱなしはやめろと言っているが、青島の治らない癖の一つだ。


バタ、
バタ、
バタ、

バタン。


リビングのドアを開け放った青島が、言った。
「寒い!」
余程外が寒かったのか、コートのフードまで被って帰ってきたらしく、リビングに入ってからようやく脱いだ。
ちらりと青島を見ると、室井は新聞に視線を戻す。
「秋だからな」
素っ気無い返事だったが、青島は意に介したふうもなく、テクテクと室井の傍までやってきた。
邪魔だとばかりに新聞を奪い取るとその辺に放り出し、ぎゅっとしがみ付いてくる。
「秋じゃないです。もう冬ですよっ」
「さすがに早いだろ。まだ11月だぞ」
「それくらい、寒いんですって」
「大袈裟だな」
「ひで。じゃあ、室井さんも外、出てみてくださいよ」
「用事がない」
「…失敗した。室井さんのタバコまで買ってくるんじゃなかった」
室井にヒシっとしがみ付いたまま、青島はぼやいた。
その身体がかすかに震えている。
余程寒かったらしい。
「風呂でも入って来い」
「ヤですよ、どうせ後から入らないといけないし」
それはどういう意味だと思いながら、室井は眉を寄せた。
「俺に抱きついていたって、温まらないだろ」
室井の冷たい身体が、青島を温めてやれるわけがない。
そんなことは室井が一番良く知っていた。
だが、青島は室井の首筋に顔を埋めると、完全に膝の上に乗っかった。
「暖かいですよ?」
「嘘吐け」
実際、密着した常より冷えた青島の身体から、更に体温が室井に移ってしまっている。
寒い寒いと言う男から、温もりを奪っているのだ。
青島が勝手に抱きついてきているのだから罪悪感があるわけではない。
が、青島にとって意味の無さない行為だ。
だけど、青島は室井から離れようとしなかった。
「アンタとこうしてると、暖かいです」
「暖かいわけないだろ…余計に冷えるぞ」
「暖かい気がするから、いいんです」
「……」
「ほら、病は気からって言うでしょ?」
それは的外れだったが、室井は突っ込む気にもならなかった。


冷たいだけの身体を、熱を奪うだけの身体を、青島は暖かいという。
寒くて震えているのに、冷たい身体から離れようとしない。
―バカだな。
そう思うのに、それ以上に愛しく思った。


室井は青島の背中に腕を回した。
しっかりと抱きしめると、青島が小さく声を漏らして笑う。
その声が幸せそうな気がしたが、気のせいだったかもしれない。
「やっぱり、アンタは暖かいよ…」
室井は何も言わずに、青島の背中を抱いた。


愛しいだなんて。
青島に伝えられる日はきっと来ないだろう。
それでも、確実に気持ちは育つ。
共に過ごす時間が長くなる分だけ。
青島を見つめる時間が長くなる分だけ。


分かっているのに、室井にはどうすることもできなかった。
手放すことも、手に入れることも―。











室井さんはどんな話であろうと苦悩させられてるなぁ…。
かわいそうなことをしております。
(そう思うならなんとかしようよ)
(そのうち!きっと!;)






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