■ ヴァンプ小話(17)


ベッドの上でうつ伏せになり本を読んでいた室井は、背中に衝撃を受けて小さく呻いた。
振り返るまでもなく何が起こったかは判っている。
「……何のつもりだ、青島」
「そんな怖い声出さないでくださいよ」
震えちゃうじゃないですか、と堂々と言われて室井は眩暈がした。
ちらりと振り返ると、青島が室井の背中を枕に横になっている。
自分を何だと思っているのか、室井はそろそろ本気で問いただしたくなってきた。
室井の心情など一向に気にしたふうもなく、青島は振り返った室井を見て笑って見せる。
「気にしないでください」
「気になるに決まってるだろう」
「読書、続けてくださいよ」
「重いんだ」
「吸血鬼が、弱音はかない」
弱音なのか、これは。
室井は痛む頭を押さえた。
「眠いなら、隣で寝ていればいいだろう」
広いベッドの上なのに何故わざわざ人を枕にするのか、室井は理解に苦しむ。
青島だって、寝心地が悪いだろうに。
「人の背中で寝なくてもいいだろう」
青島はコロンと寝返りを打って、半ば室井の背中にしがみ付いた。
そして室井から顔を背けるようにそっぽを向く。
室井の眉間に皺が寄った。
「おい、青島」
「背中くらい、貸してくださいよ」
思わぬ小さな声に、室井は聞き漏らしそうになった。
「…青島?」
声を掛けるが、返事は無い。
しかしやっぱり離れるつもりはないらしく、室井の背中、ほとんど腰にしがみ付いている。
そんな無理のある態勢で眠れるわけはないから、眠りたいわけではないのだろう。
―もしかしたら。
「甘えてるのか?」
思わず口にして尋ねると、青島の肩が小さく揺れた。
だが、やっぱり何も言わない。
間違えても肯定はしないだろうが、否定をしないところを見ると
室井の指摘が間違えているわけでもないのだろう。
「……」
少し考えて、室井は強引に身体の向きを変えた。
「わぁっ」
室井の力に敵うわけがない青島が、あっさりと投げ出される。
仰向けになった室井に、青島は苦笑しながら身体を起こした。
「ケチ臭いんだから」
諦めたように苦笑しているが、瞳が傷ついたように揺れているのを室井は見逃さなかった。
別に拒んだわけではない。
室井は手を伸ばすと青島の腕を掴んで、引き寄せた。
「わっ」
また短く叫んだが、素直に室井の胸に倒れこんでくる。
「枕にするなら、こっちでも構わないだろ」
小説を読むことは、とっくに諦めた。
今すぐ読みたいわけではないし、時間ならいっぱいある。
昼寝をする気なのか、ただくっついていたいだけなのか。
青島が何をしたいのか知らないが、勝手にすればいいと思った。
目を瞬かせて室井を見つめていた青島だったが、ふっと微笑むと室井の胸に体重を掛けた。
「……こっちの方が、ずっとイイです」
本当は青島の重みなど、大して苦になる室井じゃない。
「そうか…」
何となく青島の髪に手を伸ばして、梳いてみる。
青島は心地良さそうに目を細めたが、むしろ室井の方が心地よい気持ちになってきた。
「何か眠くなってきたな…」
思わず呟くと、青島が笑った。
「俺は抱き枕っすか」
室井は薄く笑って、目を閉じた。
「……それはいいな」


室井の上で少しの間揺れていた青島だったが、やがて動かなくなった。
胸に掛かる重みが増すと、室井はそっと目を開けた。
青島の寝顔は見えないが、力の抜けた青島を見れば寝ているのはすぐにわかる。
室井は青島の髪を梳いていた手を青島の背中に回して、身体を横向きにする。
完全に胸に抱きこんでしまうと、室井も再び目を閉じた。
―本当に、抱き枕だな。
苦笑すると、小さく呟いた。
「甘えさせてるんだか……甘えてるんだか」











ちょっと幸せかもしれない二人です(^^)
需要と供給が一致してるんだもん!
ずっとそうしてればいいじゃない!


いや、私次第なんですけど…;






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