■ ヴァンプ小話(13)


「寝てる時も眉間に皺が寄るんだなぁ…」
目覚めた青島は、隣で眠っている室井の寝顔を見ながら呟いた。
時刻は正午くらいだろうか。
事の後でそのまま眠ってしまったらしい。
青島は手を伸ばして、室井の顔に触れる。
眉間に触れて、皺を伸ばす。
「……まあ、こんなことしたって伸びるわけないよね」
一人笑いながら、更に手を滑らせて鼻先に触れる。
ちょっとつまんでみたり、引っ張ってみたり。
それに厭きると、唇に触れる。
むに。
「あひるー」
唇をつまんでそう言うと、ツボにはまったのか一人爆笑。
ひーひーと息を漏らしていると、さすがに室井が目を開けた。
不機嫌そうに睨まれて、青島は手を離した。
でも笑いは中々引かない。
「……何してる」
相変わらずひーひー言いながら、青島は肩を竦めた。
「何って…なんでしょう?」
何と聞かれてわざわざ答えられるようなことは、何一つしていない。
強いて言うなら、
「遊んでました?」
「なんで疑問系なんだ」
「細かいことは気にしない」
「睡眠を妨げておいて言う台詞か」
「ペットがじゃれついたくらいで怒らないでくださいよ」
「……じゃれてたのか?」
聞き返されて、少し考える。
「そうですかね?」
「なんで疑問系なんだ」
「だから細かいことは気にしないでくださいよ」
「……」
会話をするのを諦めたのか、室井は青島に背中を向けた。
寝なおすつもりらしい。
青島はもう室井に手を伸ばさなかった。
別に睡眠の邪魔をしたかったわけではない。
『何をしてる?』
そう聞かれても答えられない。
何をしたかったのか、自分でも分からないから。
「室井さん」
「……」
「おやすみなさい」
返事など期待していない。
青島は勝手にそう言って満足すると、自分も横になるためにもそもそと毛布を引き寄せる。
「何かあったのか?」
青島の手が止まった。
室井を見ると、相変わらず背中を向けたままだった。
青島の顔から表情が抜け落ちる。
「何かって?」
「俺が知るか」
「そりゃ、そうだ」
「で?」
「……別に、何も」
「そうか」
それっきり青島から興味をなくしてしまったのか、室井は何も言わないし動かない。
眠ってしまったのかもしれない。
青島はその背中に独り言を吐いた。
「夢を…見ただけ」


不愉快な夢。
気絶するように眠りに落ちたはずの青島が。
ほんの少しの睡眠で飛び起きてしまうほど。

だけどどういうわけか、今はもうどんな夢だったか覚えていない。


「そうか」
返事が返ってきて、青島は笑みを零した。
「寝る前にアンタが無茶するから」
「理屈が分からん」
「だから、悪夢なんか見るんだ」
振り返った室井の瞳が光っている。
それを綺麗だなぁと思った瞬間に、腕を引かれてベッドに縫い付けられる。
まじかに迫った瞳はやはり綺麗だったが、それだけじゃなくて。
青島は思わず喉を鳴らした。
「それなら」
「…な、に」
「夢も見れないほど、ぐっすり眠らせてやる」
少しの間の後、青島はクスクスを笑い声を漏らした。
「永久に眠らせるのだけは、カンベンしてくださいよ」
そう言って茶化しながらも、素直に室井の首に腕を回した。


何も考えずに眠れるなら、永久に眠ったって構わない。
だけど、室井がいてくれるなら。
それだけで、痛みが消えるから。


―だから、永久に眠らせるのは、もう少し先にしてね。











思わせぶりに書いておりますが、青島君の切ない(はずの)過去は、
一切考えておりません…(おいおい)
書き始めた当初は少し考えていたのですが、今は全く;
多分この先も、お話の中に出てくることはないのではないかと思われます〜。






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