■ ヴァンプ小話(12)
「俺が悪いんじゃないですからね」
ぶつぶつ言いながら、青島は室井の怪我をみていた。
室井の身体のあちこちに小さな傷が沢山あった。
そこかしこから血が滲んでいる。
全部青島がつけたものだ。
その怪我を、青島自身がみている。
もちろん室井が頼んだわけじゃない。
青島が勝手に薬を買い込んできて、勝手に室井に塗りたくっている。
「アンタが悪いんだ」
文句を言いながら、室井の腕に絆創膏を貼る。
「そうか」
素っ気無く返すと、青島は眉間に皺を寄せた。
室井自身、悪いのは自分だという認識はしている。
反省をしていないだけだ。
ちょっと酷いことをしたのかもしれないとは思うが、悪かったという気は全く無かった。
気に入らなければ、青島は出て行くだろう。
そう思っているからだ。
むしろ、青島が未だにここにいるほうがおかしい。
大人しく…は全くないが、文句を言いながらも、出て行く気配はない。
公園で死にかけていた男だ。
ここを出て行けば、本当に行く所がないのかもしれない。
―人間なんてどうしたって、生きていけるものだがな。
青島が本当に生きようと思えば、公園で死を待たずとも生きていけるだろう。
生命力は強い方だ。
それに自分が放り出した所で、青島の血とそれから器量を考えれば、すぐに飼い主は付くはずだ。
世間には知られていないだけで、身近に飢えた吸血鬼などゴロゴロしてる。
自分も含めて。
室井は薄く笑った。
「……何、笑ってんの」
青島は怪訝そうに室井を見ている。
「別に」
「あそ」
ふんと鼻を鳴らして、絆創膏片手に離れて行く。
その腕を掴んだ。
「何さ」
「貸せ」
「は?」
手から絆創膏を奪うと、青島の唇の端に貼ってやる。
自分の顔は自分で見えないから、鏡でも見に行くつもりだったのだろう。
青島の傷はそこだけである。
室井が青島に手を上げたのは、頬に一発だけだ。
吸血鬼のバカ力で張り倒されたのだから、かなり痛かっただろう。
それでも力加減はしたから、その程度の傷で済んでいる。
一瞬呆けた青島が苦笑した。
「アンタって……まあ、いいや」
機嫌が治ったわけではないのだろうが、青島の身体が力が抜けた。
怒りは治まったのだろう。
「青島」
「何ですか?」
「……」
「何?」
「……何でもない」
青島が肩を竦めた。
『何故出て行かない?』
聞きたかったことは、それだった。
青島なら出て行くかもしれないと思った。
こんな扱いを我慢する男ではないのだ。
室井に不満を持てば、すぐにここを出て行くはずだ。
例えそれが自分の生死に係わってくるとしても。
青島はずっと自由だから。
出て行って欲しかったわけではない。
ただ不思議だっただけ。
出て行かない。
室井から離れて行かない青島が。
『何故出て行かない?』
聞きたいけど、聞けなかった。
答えが知りたいわけじゃなかった。
室井は青島の肩を引き寄せて、キスをした。
急で驚いたのか青島が目を丸くしている。
何度か重ねて味わうように唇を舐めた。
「血の味がする」
「何を、今更」
「痛いか?」
さっきまで平気そうにしていた青島が、少しだけ悲しそうな顔をした。
「……イタイ。すっごいイタイ」
抱きしめると、すぐに背中に腕が回される。
「そうか」
青島の身体が揺れる。
笑ったらしい。
室井はもう一度青島にキスをした。
青島がここにいる理由など知る必要は無い。
行かないという事実があれば。
それでいい。
何故か、ちょっとだけ気に入ってる小話です。
室井さんが弱弱で、青島君にメロメロだからかも(笑)
何があったか明記はしておりませんが、
室井さんが青島君に無体なことをしたようです(^^;
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