■ ヴァンプ小話(11)
事の後、隣で死んだように眠っていたはずの青島が、いつの間にか目を覚ましたらしい。
脇腹に触れてくる青島の手の感触で、室井はそれに気が付いた。
「青島」
青島に背中を向けたまま声をかけると、一瞬青島の手が止まる。
「あれ?起きてました?」
「寝てたのは、お前だけだ」
「そうっすか」
そう言いながら、ペタペタと触れてくる。
肩越しに少しだけ振り返って、青島を見た。
「足りなかったか?」
「何が?」
「物足りなかったのかと聞いている」
短い沈黙の後、睨まれる。
「アレ以上、されたら死にます」
「そんなに柔じゃないだろう」
「アンタの尺度で測んないでくださいよ」
ブツブツと零すが、手は相変わらず室井の脇腹の上にある。
「じゃあ、その手は何だ?」
室井は疑問を口にした。
本気で青島が物足りなかったと、室井も思っていたわけではない。
ヴァンパイアの自分と人間の青島では体力に差がある。
限界のように眠りに落ちた青島を見る限り、余力があるとはとても思えなかった。
「……室井さん、くすぐったがったりしないかなぁと思って」
青島の返答に、室井は目を丸くした。
「足の裏とかも、平気です?」
思いもよらない質問に、思わず考えてみる。
考えてみても、分からなかった。
ヴァンパイアである室井の足の裏をくすぐってやろうと思うような、根性の座ったヤツは今まで周りにいなかった。
だから、知らないのである。
それを青島に伝えると勢い良く起き上がり、室井を仰向けに寝かせてその足を掴む。
青島のすることに驚きつつも好きにさせていると、何を思ったか青島は室井の足の裏をくすぐりだした。
「どうです?」
「…どう、とは?」
「くすぐったくない?」
「全然」
あっさり答えると、青島は明らかにガッカリしたように肩を落とした。
そして、今度は青島が室井に背を向けて横になる。
いきなり放り出された室井は、眉間に皺を寄せた。
「おい、何だ、一体」
「いいです、もう」
「だから、何がだ」
「……室井さん」
くるりと青島がこちらを向いた。
「何だ」
「室井さんって、苦手なものないの?」
「…は?」
「だって、さぁ」
青島がぼやきだした。
いっつも、好き放題されてさぁ。
いや、気持ちイイんですよ?イイから、それはいいんですけど。
やっぱり、ちょっと悔しいじゃないですか。
夕べもさ…ゴニョゴニョ。
目が覚めてそんなこと考えてたら、そういえば室井さんの弱いところってどこだろうとか思って。
性感帯っていうんじゃないですよ。それなら、多少は知ってるし。
……笑わない、そこ。
何ていうか、弱点?っていうか。
知りたくなっちゃって。
「苦手なものとか、こととか、ない?」
もう一度聞かれて、室井は苦笑した。
要するに、室井に一矢報いたいらしい。
それで本人に弱点を聞いてくる辺り、青島も変わった男である。
喉の奥で笑うと、青島が膨れっ面を浮かべた。
「まーた、バカにして」
「別にしてないが」
「もう、いいよ。俺だって、アンタに聞いて教えてもらえるとは思ってなかったし…」
もそもそと引っ張ってきた布団に包まる青島を、室井は布団ごと抱きしめた。
「太陽は苦手だ」
「命にかかわるような弱みに興味はありません。大体、それ知ってる」
「後は……」
「…後は?」
言葉の続きが気になったのか、ちらりと青島が室井を見てくる。
室井は少し考えてから、苦笑した。
「何だろうな、俺の弱点」
室井自身良く分からなかった。
青島は溜息を吐いた。
「まぁ、無いってはっきり言われるよりは、がっかりしませんけどね…」
元から期待が薄かったのか、青島は諦めたように笑った。
布団から腕を出すと、室井に抱きついてくる。
室井はその身体を抱きしめながら、小さく呟いた。
「俺の弱点は…」
「え?」
「お前が見つければいい」
目を見開いた青島の唇を、室井は自分のそれで塞いだ。
いちゃいちゃいちゃいちゃ…
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