■ ヴァンプ小話(10)


「そういえば」
テレビを見ていた青島が不意に言ったので、室井は新聞から顔を上げる。
床に座っている青島の後頭部を見つめていると、青島が振り返って室井を見上げた。
「俺、この間一個歳取りました」
室井は目を丸くする。
つまり先日誕生日を迎えたということか。
いつだったんだろうかと何となく思ったが、知ったからといって意味のあることではない。
誕生日など人間になら必ずあるものである。
「そうか。おめでとう」
特に感情の篭らないお祝いに苦笑して、青島がソファーに上がってくる。
「ありがとうございます。まあ、俺の誕生日はどうでもいいんですけど」
俺も忘れてたくらいだし、と言って笑う。
ということはお祝いをして欲しくて、言っているわけではないらしい。
確かに青島のことだから、お祝いをして欲しかったのなら数日たってから言わずに、当日に言うだろう。
じゃあ何が言いたかったんだろうと首を傾げていると、青島が室井の顔を覗きこんでくる。
「室井さんって、いくつなんですか?」
「…なんでだ?」
「いや、ふと気になって」
自分の誕生日を思い出して、室井の歳が気になったらしい。
一緒に暮らして数ヶ月経つが、互いのプロフィールに触れるような会話をそういえばしたことが無い。
室井は煙草を手に取った。
「さぁ…いくつだったか」
「もしかして、見た目と結構違う?」
青島の言う通りだった。
室井は記憶にあるだけで、数百年は今の形のまま過ごしている。
「歳が見た目に表れるなら、俺はもう風化しているな」
「……マジで?」
目を丸くしている青島に構わず、室井は煙草を咥えた。
答えがないので本当だと悟ったのか。
青島はしきりに頷いている。
「そっか…うん。良かった」
「何がだ?」
「室井さんは長生きってことですよね」
「長生き……まあ、そうだが」
死なないのだから、長生きなのだろう。
室井の返事に青島が嬉しそうに笑った。
「俺より先に死なれたら困るから」
「…おい、いつまでここにいる気だ」
「好きなだけいろって言ったの、アンタでしょ」
ペットがどんどん図々しくなっていく気がする。
室井はそう思ったが、不愉快ではなかった。
好きなだけいろと言ったのは室井だし、その気持ちは変わっていない。
どうしたって青島の方が先に死ぬ。
青島と過ごす時間が一年だろうと十年だろうと、室井にとっては大差ないのだ。
青島が自分の意思で出て行かない限りは、ここに置いてやるつもりだった。
室井が肩を竦めて煙を吐き出すと、青島はその煙に少しだけ目を細めた。
「……でも、あれだな」
「ん?」
「アンタを置いて死ぬの、少し心配だな」
「!」
目を剥いた室井の唇から煙草を抜き取り、青島が軽く唇を重ねてくる。
「余計なお世話だけどね」
そう言って煙草を一口吸ってから、室井の唇にそれを戻した。
―全くだ…。
思ったが、言葉にはならなかった。


どんなに頑張ったって百年。
それしか生きられない生物に心配される室井ではない。
一月か一年か十年か、それとも青島が死ぬ時か。
青島がいなくなる時は必ずくる。
青島がいなくなれば、青島と出会う前に戻るだけである。
永遠の時を、時には青島のような誰かと交わりながら、一人で過ごすだけ。
その相手が確実に青島ではないというだけのこと。
ただ、それだけ。


それを寂しく思うなど、室井にはあってはならないことだった。











この辺りから、室井さんの化けの皮がズルズルとはがれていきます…
というか、私の化けの皮か?(笑)
クールな室井さんが長続きしません(^^;






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