■ ヴァンプ小話(9)


「いたっ」
台所で慣れない包丁と格闘していた青島は、指先に走った鋭い痛みに慌てて手を引いた。
指先から鮮血が溢れ出てくる。
思わず痛みも忘れて「勿体ない…」と思う辺り、室井の餌としての自覚はあるとみえる。
勿体ないが、溢れ出る血はどうしょうもない。
何となくぼんやりとそれを眺めていると、青島の小さな悲鳴を聞いていたのか、キッチンに室井が顔を出した。
「どうかしたのか?」
と尋ねてすぐに気が付いたらしく、眉を寄せる。
「あは、やっちゃいました〜」
手をブラブラ振って見せると、手首を掴まれる。
「指じゃなくて、野菜を切ってくれ」
「いや、切ってるつもりだったんですけど」
「全く……止血くらいしろ」
そう言って、指先を口に含んだ。
青島の頬に赤みが差す。
「ちょっと、室井さん」
照れ臭そうに俯いた青島だったが、室井が熱心に指を舐めるから、照れている場合じゃないと気が付いた。
「室井さんっ、もういいですってば!つーか、指先から血を抜かないでくださいよ!」
青島が無理矢理手を引くと、ようやく室井が解放してくれる。
舌で唇を舐めると、薄く笑った。
「ただ流すのは勿体ないだろ」
「ええ、ええ、そうでしょうとも」
少しだけ紫色になった指先を舐めた青島は、いじけ気味に相槌をうった。
自分でも勿体ないと思ったが、それを室井に言われると少し悲しい。
―何だよ。俺の怪我より、やっぱり血かよ。
みたいな、情けないことをつい考えてしまう。
室井がキツク吸ったせいか血の止まりかけた指先を見て、青島は溜息を吐いた。
自分の立場は分かっているが、そういう扱いはやはり堪えた。
不意に再び室井に手を取られる。
「ちょ、もう、血は止まってますって。そりゃあ、吸えば多少は出てくるかもしれないけど…」
思わず零した青島も、急に目前に迫った室井の顔に言葉を飲み込んだ。
空いた手で顎を取られると、口付けられる。
いきなりのキスに驚きつつも、深く求められてそれに反射的に応じた。
やがて青島の唇を舐めて室井が離れていく。
「む、室井さん?」
「そっちなら、構わないんだろ?」
言われても、青島は一瞬なんのことだか分からない。
もう一度口付けられて、ようやく理解する。
切れた指先を吸うのはだめでも唇ならいいだろう、ということらしい。
青島の表情が思わず緩む。
室井が青島の血を望んでくれるのは嬉しかったが、それ以外を望まれるともっと嬉しかった。
単純だと笑われても構わない。
自分でもそう思う。
だけど、青島にとって室井は特別な人だから。
室井のキスに応えながら、青島は微笑んだ。


「ねぇ」
「なんだ?」
「さっきのって、もしかして止血してくれてるつもりだったんですか?」
「……?他に何があるんだ?」
「てっきり、血を吸いたかっただけなのかと」
「血を吸うなら、首筋から吸った方が美味いし効率的だ」
「そういうもん?」
「ああ……まあ、あのまま垂れ流しにするのは勿体無いとは思ったけどな」
「……やっぱり飲んでたんじゃん」
「おかげで血が早く止まっただろ?」
「……」
微妙に腑に落ちない青島だった。











もうラブラブ…;






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