■ ヴァンプ小話(4)


青島は一人リビングで本を読んでいた。
内容は良く分からない。
室井の書斎から暇潰しに借りてきただけだから、内容なんてどうでも良かった。
「…話、分かるのか?」
寝室のドアが開いて、ようやく起きたらしい室井が出て来た。
寝起きのため、普段はオールバックの髪が下りている。
「全然。さっぱりです」
「だろうな」
「…失敬な」
呟くと室井が喉の奥で笑った。
そしてじっと青島を見つめたかと思うと、徐にその手から本を取り上げた。
「外に行って来い」
急に言われて、青島は一瞬にして青褪めた。
その表情を見て室井は首を振る。
「出ていけと言ってるわけじゃない」
「……?じゃあ、何で」
「俺には日の光りは天敵だが、人間にとっては違う。お前、うちに来てから一歩も外に出てないだろう」
言われて見れば確かにそうだった。
この家に連れてこられてから一度も外出していない。
室井が言った通り監禁されているわけではないから、出掛けようと思えばいつでも出掛けられる。
だが、青島には躊躇われた。
出る時に開いていた鍵が、戻った時にも開いている保障なんてどこにもない。
「いいです」
「いいから、行って来い」
「大丈夫です。別に困らない」
室井が無表情に、頑なな青島を見下ろした。
「不健康な人間の血は不味くなる」
俺が困ると言われて、青島はハッとする。
情けない話だが、室井の餌としての働きが出来なくなってしまったら、青島に居場所はない。
血が不味くなると言われてしまえば、外出しないわけにいかなかった。
「行ってきます」
青島はすぐに立ち上がって、家を出た。
それを無言で見送ると、室井はソファーに腰を下ろして、青島から取り上げた本を読み始めた。


***


青島は玄関に入ってほうっと息を吐く。
鍵が開いていたというだけで、酷く安堵している自分が可笑しかった。
リビングに入ると室井がソファーに座ったまま本を読んでいた。
青島はそそくさと室井の側に寄る。
「室井さん」
「……何だ?」
「不味そうじゃ、無くなった?」
そう尋ねると、室井は本から顔を上げて青島を見た。
青島には自分の血がどんなものかなど全く分からないが、室井には分かるらしい。
「ああ……悪くない」
そう言われて心底ホッとした青島は、微笑して床に膝を付いた。
「じゃあ、はい」
目を閉じて、首を少し傾ける。
目をつぶっていた青島は、室井が軽く目を見張ったことに気がつかない。
「……はい、とは?」
「血、吸うんでしょ?」
どうぞと言うと、ほんの小さくだったが室井が笑う声を青島は聞いた。
ん?と青島が不思議に思った瞬間に、唇に柔らかい感触。
驚いて目を開けると、目の前に室井の顔があって、更に驚いた。
「ん〜〜〜!?」
目を丸くしている青島の唇を軽く噛んで、室井は離れた。
「どうぞなんて言うからだ」
微笑されて、青島は思わず赤面する。
何故そんなことになったのか分からず目を白黒させていると、室井はまた本に目を落としてしまう。
「ちょ、ちょっと」
「何だ?」
「血は…」
「今はいらない」
「ええ?」
驚いてみたが、そういえば不味くなると言われただけで、今飲ませろと言われたわけでは無かった。
青島が勝手に勘違いしただけである。
「そうですか…」
「たまには外に出ろ。篭ってるとまた顔色が悪くなるぞ」
激しく脱力していた青島だったが、室井に声をかけられてはっと顔を上げた。
もしかすると心配してくれたのだろうか。
ただ単に食事がまずくなるのが嫌だったのかもしれないが、ちょっとでも気に掛けてくれたのかと思うと、それだけで嬉しかった。
「…青島」
「はい?」
「気色の悪い笑い方するな」
言われて、青島は慌てて両頬を手で覆った。











そういえば、今更だけど、ちゃんとタイトルつければ良かったかな…;
小話掲示板でも最初の頃はついておりました。
今じゃただの「ヴァンプネタ」ですけど(笑)






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