■ ヴァンプ小話(3)
室井の寝室にあるソファーの上で、青島は寝起きしている。
安い値段ではなさそうなソファーだけあって、寝心地は悪くない。
毛布一枚を借りて、青島はそこで丸くなって寝ていた。
室井はまだリビングにいる。
吸血鬼は夜行性らしい。
とはいえ、室井が活発に活動する様など見られない。
せいぜい夜更かしをして、本を読んだり書き物をしているくらいだ。
本物の吸血鬼は夜な夜な獲物を求めて徘徊して歩くほど、派手な生活を送っていないらしい。
「………」
眠れずに寝返りを打つ。
そんなことを繰り返していると、室井が寝室に入ってきた。
「何だ、まだ起きてたのか」
目を開けていた青島にそれだけ言うと、自分もさっさとベッドに入る。
特に青島がすることに興味はないらしい。
この家に連れて来られて以来、勝手にしていろと放り出されている。
そんな室井に青島は聞いてみたいことがあった。
「室井さん」
「何だ」
「俺っていつまでここにいていいんですか?」
興味がなさそうに返事を寄越した室井が、青島を振り返る。
「飯なら、食わせて貰いましたけど…」
吸血の代償として、青島は室井に食事をご馳走になった。
それからもう何食もご馳走になっているし、こうして寝床まで―ソファーだが、用意して貰っている。
吸血は最初の一度きりだというのに。
それなのに、室井は出て行けとは言わない。
「嫌なら出て行けばいい。鍵なら開いている」
監禁しているわけじゃないから好きにしろと言われて、青島は眉を寄せた。
「そんなことを言ってるわけじゃない」
「じゃあ、何だ」
「……」
何だと言われても困る。
行く当てのない青島にとってここに置いてくれるのは有り難い。
だが、何故室井がそうするのか分からない。
「血、いらないの?」
青島が聞くと室井は薄く笑った。
「何だ、癖になったのか?」
「?」
「人によっては、アレは結構な快楽になるらしいな」
言われて、青島は赤面した。
噛まれた瞬間に甘い疼きを感じたのは事実だった。
それも性的興奮に近かった気がする。
尤も次の瞬間には気を失ってしまったから、正確にどうだったのか青島には分からなかった。
「だからそんなんじゃなくて!」
赤面したまま吠える青島に、室井は不思議に光る金色の視線を向ける。
「腹が減らないから、吸わないだけだ」
「…食事と一緒?」
「そんなとこだ」
くるりと室井が寝返りをうって、青島に背中を向けた。
話は終わりということだろうか。
青島がひっそりと溜息をつくと、背中を向けたままの室井が呟いた。
「行くも残るもお前の自由だ。いてもいなくても俺は困らん」
好きにしろともう一度言われて、青島は目を丸くした。
素っ気ない言葉だが、要は好きなだけここにいても良いということではないだろうか。
都合良く解釈していると言われればそれまでだが、それでも青島にとっては嬉しかった。
毛布を掴むと、口元に引き上げる。
背中を向けている室井に見えるわけはないが、緩んだ口元を毛布で隠した。
最初の頃の室井さん、こんなにそっけなかったんですね…
今じゃ見る影ないかもしれない(笑)
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