■ ヴァンプ小話(2)
綺麗な月を見上げたまま、青島は溜息を吐いた。
公園のベンチの上で夜を過ごす日が三日続いている。
最後にパンの欠片を口に入れてからは丸一日経っていた。
青島はベンチに寝そべったままぼんやりと思う。
「このまま死ぬのかな…」
決して死にたいわけではないのだが、このままいけば遠からず青島の予想通りになるだろう。
青島はだんだんそれでもいいような気がしてきた。
行く当てどころか、帰る場所もない。
待っている人すらいないのだ。
だったらこのままここで果てても変わりがない気がする。
そんなことを考えている割には、まだ力のある瞳でもう一度月を見上げた。
やけに綺麗な月が青島を見下ろしていた。
不意にじゃりっと砂を踏むがして、青島は月から視線を動かした。
月明かり以外光が無い公園に、ぽっかりと浮かんだ人影。
暗闇で人相は分からないが、青島は目が釘付けになった。
男の目が金色に光っている。
その目が無表情に青島を見下ろしていた。
異質な輝きの瞳に驚いたが、その驚きが去ると青島は「綺麗だな」と思った。
普通だったら気味悪く感じるであろう瞳だったが、青島には不思議に綺麗に見えたのだ。
青島がぼんやりとその男の目を見つめていると、男も青島を見つめ返してくる。
「…美味そうだな」
「は?」
不意に言われて青島は目だけで驚く。
何の話か全く分からない。
「衰弱してはいるが、健康そうだ」
「……アンタ医者なのか?」
「随分飢えていそうだが」
会話が一つも成り立っていない。
青島は苦笑して「…まぁね」とだけ答えた。
「飯を食わせてやる」
「何だって?」
「その変わり」
腕を掴まれて、力の入らない身体が引き起こされる。
まじかに迫った端正な顔。
目を剥いた青島を見詰めたまま、男はすっと顔を近付けた。
「俺にも食わせて貰おう」
青島が何を?と聞くよりも先に、男の唇が青島の首筋に押し当てられた。
「しまった…」
自分の腕の中でぐったりしている男を抱えて、室井は思わず呟いた。
「飯を食わせてから頂くんだった」
これだけ衰弱している人間の血を吸ったら、こうなることは目に見えていたというのに。
腕の中の男は、既に気を失っている。
呼吸を聞く限り正常なので、眠りに落ちただけだろう。
「………」
室井は血色や鼓動、体臭から人の血の質を見分けることが出来る。
定期的に吸血をしないと生きていけない身体ゆえの特性だろう。
しかし、美味そうだったから我慢が出来なかったなんて、今までには無かった失態だ。
軽く自己嫌悪しつつ、この男をどうしようか思案する。
このまま放置して行けば、何日と掛からず死ぬだろう。
室井には関係のないことだから、それでも構わない。
構わないのだが、互いの食事を交換するというのが―多分に一方的ではあるが、約束だった。
ならば、室井がここでこの男を見捨て行くのはフェアじゃない。
とりあえずこの男に飯を食わせる義務はあった。
室井は軽々しく男の身体を抱え上げる。
疲れきったように眠る男の顔を見つめて、可笑しなモンを拾ったな…と思った。
室井さんが色んな意味で怪しくてごめんなさい…;
ヴァンパイアってどんな生き物なんだろう(おい)
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