■ Trust my life to you(5)
病院からの帰り道、青島は暗い表情で歩いていた。
検査結果を聞いて来た帰りだった。
―室井さんに何て言おう…。
青島の頭の中はそのことだけでいっぱいだった。
青島は思いもしなかったのだ。
まさか自分が。
―ただの胃潰瘍だなんて。
潰瘍が見つかったため、一応ガン細胞が無いかどうかも検査をしたものの、その心配は全く無かった。
胃潰瘍でも重度になれば手術をしなければならないこともあるらしいのだが、青島は幸いにも軽度だった。
風邪と疲労も重なって体調不良を起こしていたらしく、薬を飲んで休養を充分取れば、すぐに治るらしいのだ。
安心した。
もちろん嬉しい。
だが、室井にはとても話しにくい。
泣いて縋ったわけではないが、それに近いことまでしてしまったのだ。
あれだけ大騒ぎしておいて、今更どの面下げて「軽度の胃潰瘍でした」と言えるというのか。
「でも、言わないわけにもいかないしなぁ…」
室井には心配をかけている。
ちゃんと説明しないわけにはいかない。
青島は溜息をついた。
呆れられるかも知れないが、ちゃんと話そうと心を決める。
こんなに気まずい思いをしていても、あの日室井に病気かもしれないと打ち明けたことは後悔していなかった。
それだけのものを室井から貰ったからだ。
夜になりドアがノックされて、珍しくも青島の返事も待たずにドアが開けられた。
「どうだった?」
スーツのまま乗り込んできた室井の第一声はそれだった。
青島はますます言い辛いなと思いながら、深呼吸をした。
そして、勢い良く頭を下げる。
「すいませんでしたっ」
いきなり謝ると、室井は困惑したような声を上げた。
「それはどういう…」
「ただの胃潰瘍でした」
「…胃潰瘍?」
「はい、それも凄く軽度の」
室内に沈黙が落ちる。
やっぱり呆れられたかなと思いつつ、怒ったりはしていないといいなと不安に思いながら、そっと頭を持ち上げた。
室井の様子を見て、青島は息を飲んだ。
室井が何とも言えず、ホッとした表情を浮かべていたからだ。
口元に手を当てて、深く息をついている。
「そうか…良かった…」
呆れるどころか、怒るどころか。
「良かったな」
室井はただ喜んでくれたのだ。
微笑んで「良かった」と繰り返す室井を見ていたら、青島は堪らなくなった。
無言で室井に抱き着く。
しがみつくと言ったほうが正確かもしれない。
「あ、青島?」
いきなりの青島のタックルに驚きつつも、室井は青島の身体をちゃんと支えてくれる。
室井の肩に顔を埋めながら、くぐもった声を出した。
「…室井さん」
「どうした?」
「好きです」
「!」
何の前触れも無く告白すると、室井は驚いたらしく身を硬くした。
抱きしめた身体からそれが伝わってくる。
青島は更にぎゅっと抱きしめた。
「凄い、好きです」
「…青島」
「愛してます」
「!!」
今度こそ硬直した室井に構わず、青島は顔を上げると室井にキスをした。
何度か唇を重ねてから、少し離れて室井を見つめる。
「この間のお礼、させてください」
「礼…?何のことだ?」
青島の急な言動についていけないのか、室井は目を白黒させている。
ちょっと焦っている室井を見ながら、可愛いと思った。
青島は室井の手を引いてベッドまで連れて行くと、その身体をベッドに押し倒した。
ぎょっとしている室井の上に覆いかぶさる。
「この間、優しくしてくれたから。そのお礼」
「青島…」
「サービスしますから」
茶化すように言った。
本当はまだちょっと照れくさい。
室井と肌を合わすのは二回目なのだ。
それが全然嫌なことではないことは、青島自身良く分かっている。
だから、こうして室井を押し倒せるのだ。
青島の笑い顔でその照れを悟ったのか、室井は苦笑して青島に手を伸ばしてきた。
頬に触れた手に引き寄せられるまま、室井にキスをする。
「礼なんかいらないが…」
「貰ってくださいよ」
「君なら、貰おう」
そう言って、室井が青島のシャツに手を掛けてくる。
室井に脱がされながら、青島も室井の身体を起こしてスーツを脱がしにかかる。
シャツのボタンを外しながら、室井の首筋に吸い付いた。
少しずつ露わになる肌に唇を滑らせていく。
「…この間は余裕無かったけど」
「ん…?」
青島のシャツの裾から手を入れて背中を撫ぜていた室井が、ちらりと青島に視線を寄こす。
「室井さん、いい身体してるなぁ」
思わず呟いて、室井の胸から腹にかけて手を滑らす。
「…っ…あ、青島、それくすぐったいんだが…」
「あれ?すみません。気持ち良くないです?」
今にも笑い出しそうな室井に、青島はすぐに手を離した。
ふと思いたったようで、室井が青島の腹筋の辺りをそっと撫ぜてくる。
青島は短く息を飲んで、少し身体をそらした。
そんな青島の様子を目を細めて眺めていた室井がポツリと呟く。
「君は、ここが感じるんだな」
青島は真っ赤になった。
「そんなこと、言葉にして確認しないでくださいよ」
「どうせなら気持ち良くしてやりたい」
「今日は室井さんが気持ち良くならないと」
「君が気持ち良いなら、俺も良い」
そう言って脇腹を撫であげるから、青島は鳥肌を立てた。
青島の反応に嬉しそうにしながら、室井は微笑を浮かべている。
青島は赤面しながら室井のシャツをはぎ取ると、そのまま後ろに押し倒した。
「少し大人しくしててください」
室井に触れられては青島の方がそれどころではなくなってしまう。
少しの間、青島の好きにさせて欲しかった。
「アンタに貰った愛情を、少しでも返したい」
強張った表情ではあったが、青島の目は真剣だった。
室井が苦笑して頷くのを見届けると、室井の肌に吸い付きながらベルトに手をかけた。
「ちょ…ちょっと、あ、ま…っ」
掠れた声で青島が制止するが、再び動き出した室井は止まってくれない。
青島の仰け反った首筋にキスをしながら、何度目だか既に定かではない行為を続ける。
お礼だと言ったが、さすがにキツい。
「青島…」
「も、無理、だ、て、ば」
身体を揺すぶられて途切れ途切れに声をあげる。
半ば泣き声である。
青島の目じりに涙が溜まっているのに気が付いたのか、室井がようやく動きを止めた。
その隙に、何とか深呼吸をして少し呼吸を整えた。
「…すまない、大丈夫か?」
息を乱した室井が申し訳無さそうに尋ねてくるから、青島は室井を睨んだ。
「そう思うなら、止めてくださいよ…」
「……」
ものすごく返答に困っている。
薄っすらと汗を掻きながら、眉間に皺を寄せて苦悩している。
ちょっと色っぽい表情だなどと思った青島は、思考回路が既に働いていないようだった。
「そんなに、困ることですか」
「…非常に困る」
「止められない?」
「……」
無理だと顔に書いてあるが、室井は口にしない。
青島のことを考えれば止めてやりたいと思ってくれているのだろう。
ただ身体がいうことをきかないのだ。
男だから、青島だってそれくらい理解できる。
受け入れている側でなければ、青島だって室井と一緒だったかもしれない。
そうは思うが、受け入れている側の方が圧倒的に負担が大きいのだ。
青島がどうしたものかと悩んでいると、不意に眉間に唇が押し付けられる。
「……すまない」
室井が謝って、身体を動かした。
再開されたのかと思い青島が身構えるが、そうではないらしい。
青島の中から室井が出ていこうとしたのだ。
室井の優しさが嬉しい。
嬉しいのだが、今度は青島の方が申し訳なくなってくる。
出ていこうとした室井の腕を、思わず掴んだ。
室井の動きが止まる。
「…青島?」
「あー…ええと…」
微笑した室井が、頬にキスをくれる。
「無理をさせて悪かった」
室井の優しさには、時々感動させられる。
青島は反射的に腕を伸ばして室井の首にしがみついた。
室井が少しうろたえた。
「あ、青島、ちょっと離れてくれないか」
理性の限界が…などと呟く室井に、青島は小さく笑った。
「コレで、最後ね」
「…え?」
「コレが終わったら、今日はもう寝ます。いいですか?」
「……大丈夫か?」
青島は室井の頬にキスを返した。
「明日死んでたら、後はお願いしますよ」
「任せてくれ」
室井の唇が落ちてくるのと同時に再開された行為に、青島は小さな悲鳴を上げた。
「コレが、最後」
という約束が果たされたのかどうかは定かではない。
END
2005.1.16
あとがき
どうでしょうか…最終話にて失速した感じが…(滝汗)
お詫びのつもりで微エロです!
ちっともお詫びになっておりませんが!
申し訳ありません!
本当はギャグでしめるはずだったのですが、どうしても上手くいかず。
ある意味、どうにも止まらない室井さんだけはギャグだった気もします(笑)
気を遣いつつノリノリな室井さん。
やっぱり殴られなきゃ止まらないんでしょうかね(^^;
途中ちょっと青室っぽかったでしょうか。
速攻で受けてましたけどね、青島君(笑)
楽しみにしてくださった皆様、
ガッカリさせておりましたら申し訳ありません!
最後までお付き合いくださって、ありがとうございました。
template : A Moveable Feast