■ ずっとここで〜翌朝
浅く目を覚ました青島は、布団に包まったまま寝返りをうった。
「ん……寒……」
布団を首まで引き上げて、うずくまる。
剥き出しの自分の肩に触れて、寒いはずだと思う。
この季節、裸で寝ていれば寒いに決まっている。
―ん?裸?
惰眠を貧ろうというようにうとうととしていた青島は、ぱちりと目を見開いた。
がばりと起き上がって、顔をしかめる。
「っ」
あらぬ箇所に鈍痛が走る。
その意味を悟って、青島は軽く赤面した。
ようやく夕べのことを思いだす。
鮮明すぎる記憶は、朝っぱらから思い返すようなことではない。
青島は何となく半笑いになりながら、布団を引き寄せた。
「あれ?」
そういえば、隣にいるべき男がいない。
狭いシングルのベッドで抱き合うように眠っていたはずである。
「帰っちゃった…かな?」
呟きながら、まさかなぁとも思う。
室井は今日は休みだと言っていた。
それなのに青島が寝ているうちに帰ってしまうことは、室井の性格からいって無い気がした。
いや、でも分からない。
なんせ室井と朝を向かえるのは、今日が初めてである。
室井のそういう時の癖や習性など、一つも知らないのだ。
「……」
少し考え込むと、青島は眉を寄せて変な顔になる。
布団ごと膝を抱え込んで、そこに顔を埋めた。
「て、俺は何を乙女なことを」
思わず、苦笑してしまう。
別に起きるまで傍にいて欲しいだなんて思っているわけじゃない。
いてくれたら、それはちょっと嬉しいかもしれないけど。
起きたら室井の姿がないだけで、あれこれ考え込んでいる自分が可笑しかった。
抱き合って一緒に眠って目が覚めたら室井がいない。
そうしたら、当然のように室井のことばかり気になる。
「もしかして、室井さんの策略かな?」
自分で言って、自分で吹き出す。
「ありえないなぁ」
室井にそんなマネができるわけがない。
恋愛ごとで駆け引きができるとは、到底思えなかった。
いつだって青島に対して、真っ直ぐで誠実にいてくれる。
脳裏に室井が告白してくれた時のことが浮かぶ。
激しい勘違いをしながらも青島を真剣に想ってくれた室井の姿は、きっとずっと忘れない。
膝に顎を乗せてクスクス笑っていると、階段が軋む音が聞こえる。
やっぱりいたと思いながらドアを見ていると、当然だが室井が姿を見せた。
起きている青島を見て、少し目尻をさげる。
「起きてたんだな…おはよう」
「おはようございます」
青島は少しはにかむような笑みを零した。
室井もそれに応じてくれる。
そのまま近づいてくると、ベッドに腰を下ろした。
「大丈夫か?」
ちょっと気まずそうに見える。
青島はヘラッと力の抜けた笑みを零した。
「概ね、良好です」
素直に答えると、室井は苦笑しながら、青島の首に手をかけ引き寄せた。
額に唇を押し付けて、耳元に軽いキスをくれる。
物理的にというよりは、精神的にくすぐったい。
夕べは最高に幸せだと思ったが、もしかしたらまだまだ上があるのかもしれないと、ぼんやりと思った。
「仕事、出来そうか?」
「大丈夫ですよ〜」
「俺も手伝おうか?」
室井の申し出に、青島は慌てて首をふる。
折角の休日なのに、室井に働かせるわけにはいかなかった。
最近、忙しかったことも知っていた。
「室井さんはゆっくりしてください」
「…無理にとは言わないが。喫茶店は君の職場だから」
いくらか残念そうに見えた。
喫茶店を青島の職場と思うからか、室井は無理には踏み込んでこない。
青島は緩く首を振って、室井の申し出が迷惑でないことを伝える。
「手伝ってもらえたら凄く嬉しいけど」
「なら…」
「でも、もしすみれさんとか一倉さんとか来たら、バレバレだからよしましょう」
室井は軽く目を瞠ってから、困ったように眉を寄せた。
室井が店を手伝っていたら、二人の関係を知っているすみれや一倉なら、それだけで何があったか悟るだろう。
付き合っていることを知られているのだから今更隠す必要はないが、あえて「結ばれました」と主張するような行動を取るのは避けたかった。
室井も気持ちは一緒らしく、呟く。
「からかわれるのは癪だが…」
それでも青島を気にしてくれているのか、複雑な表情を浮かべる室井に、青島は笑みを零した。
今日はなんとなく、我侭を言えそうな気がした。
「室井さん、今日は暇?」
「ん?ああ…」
「じゃあ、一緒に店にいてください」
目を丸くした室井に、ニコリと笑う。
「カウンターにずっと座っててくださいよ」
「座ってるだけ?」
「そう」
「…君が働いているのにか?」
ちょっと不服そうな室井が愛しい。
青島は室井の襟首を掴んで引き寄せると、軽く唇を奪った。
「俺には、贅沢な一日です」
折角の休日を奪って室井を一日独占するわけだから、青島にしてみれば贅沢で幸せな一日だ。
「…俺にもだ」
室井は青島の髪を少し乱暴に掻き混ぜると、立ち上がった。
照れているのは、ちょっと強張った笑みを見れば分かる。
青島もつられるように照れ笑いを浮かべた。
「起きれるか?」
脱ぎ散らかしてあった服を、拾ってくれる。
「あ、はい」
「朝飯作っておいたから」
今度は青島が目を丸くする。
それで起きたらいなかったのだ。
「すまないが、台所を勝手に借りた」
室井に謝ってもらう必要など全く無い。
「いえいえっ、こっちこそすいません。ぐーぐー寝こけてる間に…」
ちょっと慌てて言うと、室井は苦笑した。
「いいんだ、好きだから」
そういえば室井は料理上手だ。
自炊をしているのも知っているし、実際に青島の家で鍋を作ってもらったこともある。
毎朝朝食をちゃんと自分で作っているのかもしれない。
「室井さん、料理好きなんですもんね…嬉しいなぁ」
シャツに袖を通しながら青島が礼を言うと、室井はぼそりと呟いた。
「君のことも好きだけどな」
さらりと言われて、青島は手を止める。
室井をまじまじと見ながら、今更の告白にちょっと動揺した。
不意をつかれたのだ。
「な、なんすか、朝っぱらから」
「朝に言っちゃいけないってこともないだろ」
「そりゃあ、そうですけど」
「料理より、君の方がずっと好きだ」
脈絡もなければ臆面も無い室井の告白に、青島は赤面しながら返す言葉もない。
「…下で待ってるから」
悶絶している青島を見てちょっとだけ笑みを零すと、室井は部屋を出て行った。
「俺のネジも緩んでるけど、あの人のも相当だな…」
足音が聞こえなくなって、思わず一人呟く。
浮かれているのは、青島だけじゃないということだろう。
それが嬉しいというのだから、やっぱり青島のネジもゆるゆるなのだ。
シャツのボタンを留めながら、青島は変な笑いに頬を痙攣させていた。
END
2005.11.26
あとがき
……幸せなんだろうなぁとだけ、思ってやってくださいませ(滝汗)
翌朝書かなきゃ良かったかなぁとも思ったのですが、折角なのでアップ(笑)
この調子で同居編書いて大丈夫だろうか…ちょっと自分で不安になって参りました;
で、でも、書きます。
いずれ!きっと!
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