■ 貴方に会いたいから
昼休みになっても席から立ち上がろうともしない青島を見て、すみれが怪訝そうな顔をした。
「どうかした?青島君」
「う〜ん」
煮え切らない返事をしながら青島は、ぼんやりとすみれを見上げた。
微妙に焦点があっていない。
それを見たすみれはますます怪訝そうな表情になる。
「青島君?」
「何か」
「うん?」
「具合悪いかも」
すみれは一緒きょとんとする。
それから呆れた顔をして、青島の額に手を伸ばした。
「そういうことはね、もっと早く…」
言いかけたすみれは青島の額熱さに驚き、青島はすみれの掌の冷たさに驚いた。
「すみれさん…冷え性?」
思わず呟くと、バカッと罵られる。
「もーっ、何でこんなに熱あるのに学校来るのよ!」
怒られて、青島は漸く自分が発熱していることに気が付いた。
「ああ…通りで。身体が痛いなぁと思ったんだよねぇ」
「何を暢気なことを言ってんのよ、もうっ。ほら、保健室行くわよ!」
腕を掴まれて、立たされる。
保健室と聞いて、青島は顔をしかめた。
保健室には嫌いじゃないが、苦手な男がいる。
相手は校医なのだから当然だが。
思わず渋った青島は、すみれに睨まれる。
「早退するにしろ、保健室で許可貰わないといけないでしょ」
病気で早退する場合は校医に許可書を書いて貰らって、担任に提出しないといけないのだ。
本当は後一時間だけだから我慢すると言いたかったのだが、それを言葉にするのも面倒臭いというのだから、どのみち後一時間はもたなかったかもしれない。
青島はすみれに腕を引かれたまま、フラフラとついて行った。
保健室のドアを開けると、一倉が青島を見て目を丸くした。
「珍しいな、室井と一緒じゃない時以外にココに来るなんて」
どうかしたのか?と、校医らしからぬ質問を寄越す一倉に、青島もすみれも些か呆れる。
喋るのも億劫そうな青島の変わりにすみれが説明してくれた。
「熱あるみたいなんです」
「ああ…なんだ。本当に病人か。んじゃあ、預かろう」
合点がいったらしい一倉にすみれは青島を預けると、自分は教室に戻ることにする。
保健室を出る前に一倉に釘を刺して行った。
「青島君が抵抗できないのをいいことに、いかがわしいことしないでよ〜」
「生憎と恐ろしい甥っ子が睨みを利かせているもんでね」
笑いを堪えながらすみれが出ていってしまうと、一倉が肩を竦めて青島を見てくる。
だがやっぱり突っ込む気力もおきないので、青島はぼんやりとしたまま苦笑を浮かべるに留めた。
余程身体がキツイのだと伝わったのか、一倉もそれ以上余計なことは言わない。
手を伸ばしてくると、額に触れる。
すると、やっぱり呆れた顔になる。
「こりゃあ、結構あるなぁ。お前何で学校来たんだ?こんな日くらい、休めよ」
「朝はそうでも無かったんですよ」
「それでも、だるかっただろう。一応熱は計るが、さっさと早退した方がいいな」
保健室でできることなどたかがしれているのだ。
「とりあえず、寝てろ」
ついたての向こうを指で指すと、青島をそちらに促してくれる。
ぼうっとしたまま足を踏み出そうとして、思いの外足に力が入らず前屈みになってしまう。
それを一倉が支えてくれた。
「おいおい。大丈夫かよ」
「はぁ…すみません…」
あまりにも覇気の無い青島が可笑しかったのか、一倉は苦笑した。
「しっかりしろよ」
一倉が青島の背中に腕を回してしっかりと支えてくれる。
それと同時に保健室のドアが開いて、一倉は硬直した。
入って来た室井が眉間にシワを寄せていたからだ。
ドアに背を向けている青島は何があったのか気付いていない。
「おい、ちょっと待て。これは不可抗力だぞ?」
慌てて言い訳をした一倉を一瞥し、室井は一倉に支えられていた青島の身体を自分の方に引き寄せた。
「分かってる。今そこで恩田君に聞いた」
背後から抱き抱えられるようにされて、青島は初めて室井の存在に気が付いた。
「室井さん」
ぼうっとした視線を室井に向けると、室井の眉間のシワが深くなる。
そのままズルズルと青島を引き攣るようにベッドまで連れて行かれる。
「寝ていろ」
「あ、はい」
不機嫌そうな室井に逆らわず、青島はベッドに潜り込む。
「室井、熱計らせといて。担任に早退させるように連絡しとく。青島何組だっけ?」
「3組だ」
室井に体温計を手渡すと、一倉はさっさと出ていった。
「計れるか?」
「大丈夫です」
青島がシャツのボタンを外すのに手間取っていると、見兼ねたのか、躊躇いつつ室井が手を差し出してくれる。
「貸せ」
「あ、ども」
照れ笑いを浮かべた青島に、室井は苦笑を浮かべた。
「全く…どうしてこんな体調の時に学校になんか来るんだ」
青島は笑った。
「それ、言われるの三回目」
すみれにも一倉にも似たようなことを言われた。
室井はボタンを二つほど外してから、体温計を差し出してくれる。
「普通なら休むから、皆疑問に思うんだ」
「俺って普通じゃないってこと?」
「自覚ないのか?」
「ひでぇ」
青島が体温計を脇に挟むと、室井が首まで布団を掛けてくれた。
そして、前髪を梳いてくれる。
「体調が悪いと思ったら、無理をしないで休め」
「……」
「何だ?」
「むしろ健康体の時に、学校って休みたくありません?」
学生としては素直な意見を述べると、室井に睨まれる。
説教モードに入りそうだった室井を慌てて遮ぎる。
「いや、それだけじゃなくて」
「…?」
「だから、そのぉ」
青島は苦笑して、言葉を探した。
「何だ?」
「……学校来ないと、室井さんに会えないし」
今度は目を剥いた室井に、青島はへへっと照れ笑いを浮かべる。
実はこっちの方が本音だったりする。
多少の体調不良よりは、室井に会うことの方が青島には大事だったのだ。
そんなことを思っていると、室井が軽く溜息を吐いた。
呆れられたかなと思ったが、そうではないことは室井の存外優しい瞳が教えてくれる。
「…見舞いくらい、いくらでも行ってやる」
髪を梳きながら言われて、青島は破顔した。
「あ、マジですか?」
「マジだから、無理するな」
不意に室井が身を屈めてくる。
一瞬遅れてその意図を測ると、青島は慌てて布団を口元まで引き上げた。
当然のように、室井の眉間に皺がよる。
「か、風邪、うつりますって」
「構わない」
「俺が、構うんです」
尚も不服そうな顔をしている室井に、青島は布団の下でひっそりと笑う。
室井が駄々を捏ねるのは珍しい。
室井の見せる小さな執着が、嬉しくて仕方が無かった。
青島は口元を布団で隠したまま自分の額を指差した。
「……?」
「こっち」
それだけ言ってもう一度額を指差すと、ようやく伝わったらしい。
一瞬呆けた室井が苦笑して、再び身を屈める。
近づいてくる室井を視界に捕らえてから、青島は瞳を閉じた。
一瞬だけ額に触れる柔らかい感触。
至近距離で視線を合わせると、どちらからともなく照れ笑いが漏れる。
「えへへ…どうもです」
「早く治せ」
嬉しそうに笑った青島に、室井はもう一度キスをくれた。
END
2004.12.19
あとがき
でこちゅーを強請る青島君が書きたかったのですが…。
あまり学生である意味が無かったですね(^^;
いつものことですが。
また青島君、すみれさんに怒られてます。
前に書いた風邪ネタと多少被ってしまった気もしますが、
気にしないで頂けると嬉しいです(おい)
私が行ってた学校は、保健室で保健の先生に
「この人風邪みたいだから早退させてください」みたいな(?)届出を書いてもらって、
担任もしくは教科担に渡して早退してました〜。
学校によって違うと思うのですが…。
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