■ お菓子よりも甘いモノ
暇な昼下がり。
新聞を読む室井の隣で、テレビを見ていた青島が呟いた。
「あ〜……美味そう」
独り言だろうが、聞こえてくると気になるもので、青島の声なら余計だ。
室井は新聞から顔を上げると、青島に倣ってテレビを見た。
そして変な顔になる。
「なんで料理番組なんか見てるんだ?」
思わず尋ねると、青島が室井に視線を寄こす。
「え?何でって…美味そうじゃないです?」
「…作るのか?」
「まさか。だって、これ、お菓子ですよ」
俺に作れるわけないじゃんと自信満々に言われて、室井は苦笑した。
その料理番組では、確かにお菓子を作っていた。
画面の端っこにテロップが出ているが、室井には初めて聞く名前のお菓子だった。
尤もお菓子の名前など、そう知らない。
「美味そうじゃないです?」
もう一度聞かれる。
甘いモノは苦手じゃないが詳しくも無いので、そのお菓子がどんなものかも良く分からない。
―美味そう…に、見えないこともないか?
そう思って室井が頷くと、青島が目を輝かせた。
「あ、じゃあ、室井さんが作ってくださいよ」
いい考えだとばかりの青島に、室井は眉を寄せる。
「俺もお菓子なんか作ったことないぞ」
「でも、室井さん料理上手だし」
青島に褒められるのは満更でもないが、それとこれとは話が別だ。
室井は素直に言った。
「道具も無いし、面倒くさそうだ」
テレビで見る限り、細かな手順を何度も繰り返している。
やってやれないことはないようにも思うが、さすがに進んで作りたいとは思えなかった。
青島は少しだけ残念そうだったが、納得したように頷く。
「そりゃあ、そうっすよね」
「…今度探しに行ってみるか?」
お菓子屋さんにも詳しくは無いが、デパ地下に行けばそれらしいモノが売っているだろうと思って提案してみた。
嬉しそうに笑って頷く青島に、室井も小さく笑って応じた。
この時は、それだけで話は終わった。
***
仕事から帰宅した室井は、鞄を置くとジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。
真っ直ぐ台所に向かい、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
グイッと煽りながら、ソファーに腰を下ろす。
日に日に暑さが増していて、帰宅するなりの一杯が最近は日課となっている。
帰宅して一息つく瞬間は、ちょっと放心したくなる瞬間だ。
ビールを口に運びながら、少しぼんやりする。
「……」
思い出してクーラーを入れると、すぐに涼しい風が吹き出してくる。
少しの間目を閉じて、今日の捜査を反芻し、少し反省し、一倉の戯言を思い出し眉を寄せ、明日の代休を思い出した。
しばらく休暇返上で仕事をこなしていたため、明日代休を貰えることになったのだ。
急だったためなんの予定もないが、休める時に休んでおくべきだった。
室井は思い至って目を開けると、胸ポケットから携帯を取り出して、青島に電話をかける。
駄目元で誘ってみることにしたのだ。
数回のコールで、青島が出た。
「お疲れ様、室井だが」
『あ、こんばんは〜、お疲れ様です〜』
力の抜けた青島の声に、室井の力もまた抜ける。
緊張する場面で肩透かしを食らうようなこともあるが、室井は青島の声に癒されることの方が圧倒的に多い。
意識せずに表情が緩んだ。
「今、家か?」
『や、署です。今夜は夜勤なんですよ』
その返事に、駄目元だったとはいえ、少しがっかりした。
今夜が夜勤なら、明日は会えないだろう。
『どうかしました?』
「いや…急に明日休めることになったから、どうだろうと思っただけだ」
『あーーーーー…』
長く尾を引く青島の残念そうな声に、室井は苦笑する。
『夜なら会えると思うんですけど〜』
「無理するな、キツイだろ」
『うーん…』
煮え切らないのは、青島も会いたいと思ってくれているからだ。
その気持ちだけで、充分嬉しい。
「若くないんだし、無理するな」
冗談っぽく言ったら、憮然とした声が返ってくる。
『室井さんが言いますか、それを』
「俺も歳だ、最近疲れやすい」
『俺より四つ上だしね』
「四つくらい、たいした差じゃない」
『室井さんが高校受験の頃、俺はまだ小学生でしたよ』
そう言われると、途端に歳が離れているような気がするから不思議だ。
「30越えたら、どっちもどっちだ」
『ははっ…あ、すいません、事件みたいです』
不意に青島の声が真剣みを帯びる。
どうやら事件の通報があったらしい。
室井の表情も自然と引き締まる。
「捜査頑張れ、怪我しないようにな」
応援と共に釘を刺すと、電話の向こうで青島が笑った。
『了ー解っ』
また連絡しますと言って、電話が切れた。
張り切り過ぎるなよとも言えば良かったなと思いつつ、室井も携帯をしまった。
少し温くなりはじめたビールを飲みながら、明日は何をしようかと考える。
洗濯はやらねばならないが、折角の休みというのに、やらなければならないことがそれしか浮かばない。
それも情けないと思い苦笑しながら、テレビを付けた。
男性アイドルグループの番組が流れていて、また青島を思い出す。
青島はこの番組が好きらしく、一緒にいる時もたまに見ていた。
アイドルたちが料理を作ったりするのだが、その料理がまたかなり美味そうで、室井に作ってくれとせがんだりするのだ。
さすがの室井も、あんな手の込んだ料理を一度見たくらいでは作れない。
が、二回ほど、それっぽいものを作ってやったことがある。
青島は酷く感動していた。
あれだけ喜んでもらえれば、室井も作り甲斐があるというものだ。
青島の食べっぷりを思い出しながらテレビを眺める。
画面には、キレイにデコレーションされたケーキ。
それを見て、先日の青島の言葉を思い出した。
室井にお菓子を作ってくれと言ったのだ、あの男は。
極々普通の中年男性に、お菓子作りは馴染みがない。
やってやれないことはないが、室井も青島もそこまでの甘党じゃないのだ。
だから、室井も今までお菓子を作って青島に食べさせたことなど一度もなかった。
青島だってあの時テレビで見て美味そうだったからああ言っただけで、室井にどうしても作って欲しかったわけじゃないだろう。
―でも作ったら…きっと喜ぶだろうな。
その様子を勝手に思い浮かべて、室井は少し表情を崩した。
そして顎に手をあてる。
明日は暇な休日。
青島は室井のやることなど知らない。
失敗してもこそこそ処分してしまえば、がっかりされることもない。
やるだけやってみても、いいかもしれない。
室井がそう思ったのは、単なる気まぐれだった。
***
夕方になり室井が刑事課に行くと、最初に雪乃が気付いてペコリと頭を下げてくれた。
室井も小さく礼を返す。
「こんにちは、室井さん。今日はどうなさったんですか?」
室井が湾岸署に顔を出す時は捜査の時ばかりだ。
当然だが私用で訪れることなど、滅多にない。
しかも、休日だと言うのにわざわざスーツを着て来たものだから、私用で来ているだなんて誰も思わないだろう。
「あら、室井さん。また事件?」
取調室から出て来たすみれは、挨拶もそこそこに、うんざりとしたように言う。
「所轄も忙しいんですけど」
厭味じゃなくて、事実なのだろう。
疲れた顔をしているから、彼女も夜勤組だったのかもしれないと思った。
「何かあったのか?」
「夕べからコンビニ強盗が三軒」
それはまた物騒な話しだ。
室井は眉をひそめる。
「被疑者は?同一犯なのか?」
「いーえ、最初の一人は店員に取り押さえられているところを逮捕。次は、逃げ出したんだけど、駆け付けた青島君とぶつかって逮捕」
どうやら皆別件らしいが、その方が余計に物騒とも言える。
「最後は?」
「最後のは、正確には未遂ね。コンビニに押し入ろうとした男が店内で刃物を落として、それで通報されたんです」
あまりにお粗末な話で気が抜けそうだが、警察官がそんなことも言えない。
一歩間違えば大惨事である。
「無事に解決したようで、何よりだ」
「なーんか忙しない夜だったわ〜」
一晩中湾岸署を出たり入ったりしていたのだろう。
疲れきっているすみれに「お疲れ様」と声をかける。
室井をちらりと見上げて、すみれは肩を竦めた。
「青島君なら署長のお使いで出てますよ」
すみれに言われて、室井は唐突に自分の手荷物を思い出した。
室井が提げてきた紙袋の中には、お菓子が入っている。
なんと自作のお菓子だ。
夕べ気まぐれに思い立ってから、ネットでレシピを調べてみた。
様々なレシピから、特別な道具がいらず、それほど難しくなさそうなモノを選び出し、今朝材料を買い込んで、早速作ってみたのだ。
俺は何でこんなことをしてるんだっけ?と途中で何度か思ったが、やりだしたことを途中で放棄するのは好きじゃないし、買ってきた材料も使わなければ勿体ない。
疑問が浮かぶたび「青島のため」と自分に言い聞かせ―それももちろん間違いじゃない、室井は珍しい自分の思い付きでしかない行動に従事した。
その結果、中々のお菓子が出来上がったのだ。
味見がてら自分で一つ食べてみたが、悪くはないと思った。
青島もさぞ驚くだろうと内心でほくそ笑んだが、問題が一つあった。
分量をレシピ通りに作ったら、大量に作り過ぎてしまったのだ。
菓子とは縁遠い室井だったため適量が良く分からなかった。
青島だってそんなには食えないだろうし、日持ちもしないだろう。
かといって処分するのも勿体ない。
初めての菓子作りは、それくらいのデキではあった。
どうしようか考えて、湾岸署に差し入れとして持って行くことにしたのだ。
もちろん青島もいるし、室井の知る中で1番の食いしん坊がいるから丁度良いと思ったことは、すみれには秘密である。
「差し入れだ。良かったら、食ってくれ」
室井はすみれに紙袋を差し出した。
途端にすみれの目が輝く。
「わぁ〜ありがとうございますっ」
「すみません、わざわざ…」
そう言いつつ、雪乃もどこか嬉しそうである。
二人揃って紙袋の中を覗き込み、目尻を下げる。
「わぁ〜美味しそ〜」
「本当ですねぇ」
黄色い声を上げる二人に、室井は思わず付け足した。
「味の保証はないが」
雪乃が紙袋から顔を上げる。
「どこで買ったんですか?お店の包装紙じゃないみたいですけど…」
聞かれて初めて、自作だと告げることに抵抗があることに気が付いた。
「…貰いものだ」
妙な間に、すみれが目を三日月にする。
「あ〜どこかの女に作らせたんじゃないの〜?」
青島と室井の関係を知っているくせに、意地悪くそんなことを言う。
室井は眉を寄せた。
「そんなわけないだろう」
「それもそうね。そういう甲斐性はないもんね」
それはそれで褒め言葉ではなかったが、浮気者と思われているよりはましか。
すみれは室井をからかうのもソコソコに、紙袋に手を入れて菓子を取り出した。
その顔があからさまに輝いていて、室井は内心苦笑する。
すみれのこういうところは可愛いと思った。
「「美味し〜」」
すみれと雪乃の声がダブる。
どうやら味は好評らしい。
嬉しそうな二人に、室井もホッとする。
だが、まだ本来の目的は果たしていない。
青島に食べさせたかったのだ。
しかし青島がいつ戻ってくるかは分からない。
休日とは言え、室井がいつまでもここにいるわけにはいかなかった。
青島に一つ渡してくれと頼んで帰ろうかと思ったが、その時丁度良く青島が帰って来た。
「あれ?室井さん?」
室井を見て、目を丸くしている。
夕べの電話では何も言わなかったから、驚くのも無理はない。
「何かありました?」
いそいそと近付いてくる青島に、室井の代わりにすみれが答えた。
「差し入れ持って、遊びに来てくれたのよ」
差し出された紙袋を受け取って、青島は室井と紙袋を交互に見た。
「一体どうしたんですか?」
室井がわざわざ差し入れを持って出向いたことに驚いているらしい。
それもやっぱり無理は無かった。
室井は苦笑し、肩を竦める。
「たまにはいいかと思っただけだ」
「お菓子いっぱい貰って、困ってたんじゃないの〜?」
すみれが言うから、室井はそんなとこだと頷いた。
青島にまで嘘をつく必要はないのだが、今更白状もしにくかった。
「へぇ…って、もう一個しかないじゃん」
青島は呆れた顔をすみれと雪乃に向けた。
二人の両手にはまだ手付かずの菓子が握られている。
すみれは堂々と「これは私の!」と主張し、雪乃は少し申し訳なさそうな顔をしつつも「早い者勝ちですよね」と笑っている。
彼女たちには勝てないと身体に染み付いているのか、青島は溜め息をついて諦めたようだった。
「いただきます」
室井に一言断って、菓子にかぶりついた。
何を食べさせても美味そうに食うな、と思いながらその様を眺めていると、青島がにっこりと笑った。
「美味いです」
モゴモゴ言っているだけで正確には聞きとれなかったが、どうやらそう言ったらしい。
室井は満足感を感じながら頷いた。
何故室井が菓子作りに興じたのか、今となっては良く分からない。
驚かせたかったし喜ばせたかったし嬉しそうな顔が見たかったのだろうが、青島に食べてもらい美味いと言ってもらったら、とにかく満足した。
事件解決とは全く違う充足感に、室井は軽く気分が高揚しているのを感じる。
いわゆる、『ご機嫌』なのだろう。
傍目は変わらないので、そうは見えないだろうが。
「それじゃ、俺はこれで」
室井が言うと、青島は目を丸くした。
「え?もう帰っちゃうんですか?」
目的は果たした。
満足もした。
これ以上いても邪魔になるだけと判断したのだ。
別れ難いのは室井も一緒だが、恋人とはいえ仕事の邪魔をするわけにはいかなかった。
「ああ、邪魔をした」
青島に目で「また」と合図をして、すみれに「こういうのは大歓迎だから〜」と次回の催促をされながら、室井はその場を後にする。
刑事課を出て廊下を歩いていると、後ろから呼び止められた。
「室井さんっ」
振り返ると青島が追ってきていた。
どうしたと尋ねるより先に、青島に腕を取られる。
ぎょっとしているうちに、そのまま空いている会議室に連れて行かれた。
「あ、青島?どうかしたのか」
尋ねると、青島が真顔で詰め寄ってくる。
「すみれさんが、あのお菓子手作りっぽいって」
室井は眉を寄せた。
室井と同じようにすみれにからかわれて、それにのせられたのかと思ったのだ。
信頼が足らないのではないかと、ちょっと腹立たしい。
それに、例えば本当に女性から手作りのものを貰って、それをわざわざ恋人に差し入れするバカがいるだろうか。
室井は呆れ気味に怒ろうとしたが、青島はそういう意味で言ったわけではないらしい。
「あれって、俺に?もしかして、室井さんが作ってくれた?」
余程驚いたのか、青島の口調は焦っていた。
まさか気付いてくれるとも思っていなかったので、室井も驚く。
信頼が足らないのは室井の方だったらしい。
「いや、ほら、この間、お菓子作ってーなんてお願いしちゃったから、それでかなーなんて…」
半信半疑なのか、ボソボソと言う。
室井は苦笑した。
「気が向いたから、な」
素直に肯定すると、青島は驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑った。
「わ、やっぱり!うわぁ〜うわぁ〜凄いなぁ〜っ」
興奮気味な青島は、驚いているし、喜んでくれてもいるようだ。
目的の全ては果たされたわけだ。
室井は苦笑を深める。
「恩田君たちには、言い出し辛くてな」
「ええ?自慢しちゃえば良かったのに!十分自慢に値しますよ。美味かったもん!あ、でもまた作って来いって、たかられるかもしれませんしね……あ!」
大分興奮している青島が、突然短く叫んで項垂れた。
「ど、どうした?」
室井を上目使いに睨んでくるから、室井も慌てる。
「青島?」
「……食われた」
「は?」
「二人にほとんど食われちゃった、室井さんの手作り〜」
俺一個しか食ってないんだよ?と泣き付かれて、室井は困り顔になる。
「すみれさんから奪ってでも確保すれば良かった〜」
「いや、それは危ないんじゃ…」
命をかけてすみれから勝ち取るほどのじゃないと思うのだが、青島にはそれほどのものだったらしい。
すっかり肩を落としている青島に、室井は口元が緩んでくるのを感じた。
そこまで望んでもらえれば、「なにしてんだっけ?」という疑問と戦いながら菓子を作った価値もあると言うものだ。
室井は手を伸ばして、青島の頭をなぜた。
「また今度、作ってやるから」
「…本当に?」
いじけたような声に柔らかく笑いながら頷く。
青島の両手が室井の首にかかった。
ぎゅっと抱き着かれて、室井は軽く背中を叩いてやった。
「室井さん」
「なんだ?」
「ありがとう」
「好きでしたことだ」
少しの間の後、顔を上げた青島に唇を塞がれる。
場所が場所だけにさすがに驚いたが、引き離せない。
軽く唇をぶつけてくる青島に躊躇いながらも、舌を差し入れたのは室井が先だった。
白昼交わすにはいささか濃厚なキスに眩暈をおこしそうになりながら、青島の後頭部を支えながら唇を吸う。
呼吸が荒くなった頃、どちらからともなく唇を離した。
これ以上はいけないと、必死に働く理性が止めるのだ。
視線を合わすと、常とは全く違う力無い眼差しにドキリとする。
室井は青島の力強い眼差しが大好きだった。
時には背中を押され励まされ、時には救われ安心させられる。
いつだって見ていたいと思うのだ。
だが、暗闇で見せる、今は室井にしか見せることのない危うい眼差しも、堪らなく魅力的だった。
こうなると理性なんかあるだけ邪魔なのだが、捨ててしまうわけにはいかない。
「くそ…仕事中じゃなきゃなぁ」
肩に顔を寄せてくるから、耳元に青島の吐息がかかる。
幸せだが、地獄だ。
だけど、室井一人で耐えてるわけじゃない。
自分を宥めるつもりで、青島の背中をまた叩いた。
「室井さんが悪いんだ」
礼を言ったすぐ後なのに、室井をなじる。
本気じゃないのが分かるから、室井が目くじらを立てることもない。
「キスしてきたのは、君だぞ」
ただ青島に調子を合わせた。
気持ちを落ち着かせるには、その方が良さそうだと思ったのだ。
「室井さんが可愛いことするからですよ」
言われて、青島を軽く抱いたまま、室井は変な顔をした。
「俺が可愛い?」
「俺のためにお菓子作ってくれたんでしょ?」
「そうだが、しかし…」
「もし俺が室井さんのためにお菓子なんか作ったら?」
少し考えて、考えるまでもない答えを出した。
「可愛いな」
渋面で答えた。
そうする青島は可愛いと思えるが、そうしている自分が青島に可愛いと思われているのかと思うと、薄ら寒い。
それが伝わったのか、室井にしがみついたまま、青島は笑い出した。
「可愛いよ、室井さん」
「分かった、もう二度とやらん」
「あ、嘘、ごめん、ごめんなさい」
室井の顔を見ながら慌てて謝ってくる青島に、あえて無言になる。
すると、青島は耳元に唇を寄せてきた。
耳元や頬に、軽いキス。
室井は思わず目を閉じた。
「また作ってください、ね?」
お願いだからと囁いて、耳の下辺りにキスされる。
本気で押し倒そうかと思った。
強く青島の肩を掴むと、今度は青島が宥めるように室井の唇に触れるだけのキスをした。
「今夜、室井さんち行っていい?」
最悪でベストなタイミング。
理性は後数時間の我慢を強いる。
室井は深い息を吐き、入りすぎていた力を一気に抜いた。
青島のおでこを軽く叩くと、身体を離す。
後少し後少しと自分に言い聞かせ、青島を睨んだ。
「必ず、来い」
夜勤明けでキツイだろうと思った。
無理をさせることになるだろうとも。
だがそう思っただけで、気にかけてやれそうもない。
それはどうせ青島も一緒だ。
「行きます」
その証拠に、青島は嬉しそうに笑った。
「行きますから、また作ってくださいね」
室井は苦笑した。
そう遠くないうちに、室井はもう一度青島のためにお菓子を作ることになるだろう。
なんといったって、ご褒美付きだ。
その夜、お菓子を作る理由が、一つ増える。
誰にも言えない理由が。
END
2006.8.18
あとがき
那智さんからのリクエスト、
「室井さんの手土産の自作ケーキに感動する青島君」でした。
結局室井さんが作ったお菓子がなんだったか明かさずじまいで申し訳ないです;
ネットで調べてみたのですが、これといって浮かばなかったもので(^^;
しかも、最後の方は、変な方向に筆がノリ、うっかりエロに突入しそうでした(笑)
私にしては珍しいですが、やっぱりエロに入れない辺り私らしいような気もします。
理由さえあれば、室井さんはお菓子作りもこなしそうです。
キリタンポ鍋が作れる人ですからね(笑)
でも作る機会はそうないでしょうね。
そういう人が作るから、トキメクものがあります。
青島君もトキメイテいることでしょう(笑)
お菓子よりも甘いモノ。
それは二人、ということで!
那智さん。
この度は、嬉しいリクエストを有り難う御座いました!
大分遅くなりまして、申し訳ありませんでした;
室井さんが作ったのがケーキだったのか、どんなお菓子だったのか曖昧で申し訳ないです。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです(^^)
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