始末書と報告書に突っ伏すように向き合って、誤字と格闘する青島のもとに、軽やかな声が届く。
「あ・お・し・ま・く〜ん。」
「食い物なら持ってないよ。ふところも給料日前で風邪ひいて寝込んでまーす。」
「かっわいくない。…給料日前ってだいたい今日まだ十日じゃない。」
顔も上げずに返すと、すみれが白い頬を膨らませた。
青島は漢字が思い出せずに、ええいままよ、とまた誤字を重ねている。
「冬場は何か
まだだし。」
「あ、それ。追跡にタクシー使ったら、今月分から自腹だって課長言ってたわよ。」
「ウソ!?」
がばりと顔を上げて振り返ったその口元に、差し出される白いもの。
「う・そ。」
すみれがニッコリと笑った。
「防寒具は自腹だと思うけど。だってホッカイロでしょ?そんなの出ないわよ。」
「…すみれさん。」
「なあに?」
「これ、なに…?」
青島は目をまるくしてそれを――飴を、見ている。
口元に、というよりものどもとに近い位置に突き出されたその飴に押されるように、青島の首が
引けている。
「寒さに耐えつつ頑張る青島くんに、誕生日のプレゼント〜。」
あーんして、などと可愛らしく言ってはいるが。
「…今日、まだ十日じゃない。」
「嬉しいことは早い方がいいでしょー。」
「しかもこれ、先月署で配ってた、」
「ちとせあめ。ピンクもあるわよ。」
「…今年の一月、すみれさんのバースデーに食べたイタリアン、」
「ブルスケッタもパスタも最高だったわね〜。昼休みでランチだったのは悔しかったけど。」
あーん、しないの?
こどもにするように笑いかけている、すみれに勝てる人材は湾岸署にはいなかった。
「―――いたらきまふ。」
「はーいどうぞー。おおきくなるんですよー。」
青島の口に飴の端を食ませ、残りのピンク色の一本が入っていると思しき紅白の長袋でアタマを
ひと撫でし、すみれは上機嫌で自席へ戻った。
これ以上でかくなんなくていいよ、と飴を噛み締めつつ溜息をついて、始末書に向き直ったその
背中で、あ、と声がする。
嫌な予感。
「お返しはクリスマスに26日以降でいいからね。」
お財布の風邪お大事に、と次いで言われて、青島の手からペンが落ちた。
「…何食ってるんだ、君は。」
同日、深夜、室井宅。
「肺炎になりそうな風邪薬です。お誕生日におおきくなれって頂いたんす。」
ふてくされたような顔で、意味不明のことを口走る青島に、室井の眉間が深く寄った。
(…疲れてるのか?)
やや心配げに覗きこむ室井に、ばつが悪そうに青島が目を合わせる。
口元に、白い飴をくわえて。
そのさまに、室井の鼓動がひとつ強く打った。
また違う理由で寄った眉間の皺を認めて、青島は苦笑する。
「…室井さんも、あーん、する?」
甘くなった舌を差し出すと、答えもなく吸い付かれた。

END
(2005.12.13)