スイカ












室井が風呂場から出てくるのを待って、青島は台所に立った。

「シャワー、有り難う」

「いいえ〜」

バスタオルで髪を拭きながら傍にくる室井に釘を刺す。

「今日はビールは待ってくださいね」

不思議そうな顔で青島を見る室井はもちろんオールバックじゃなく、下りた前髪がいくらか若く

見せていた。

オフの顔を見られることが、未だになんとなく嬉しかった。

青島がニッコリと笑って冷蔵庫のドアを開けると、室井もそこを覗きこむ。

冷蔵庫の中には、スイカが丸ごと一玉、どーんと入っていた。

他にはビールと少しの食材しか入っていない。

ほとんどスイカのための冷蔵庫のように見えた。

もっとも夏場の青島宅の冷蔵庫は、スイカとビールのためにあると言っても過言ではない。

「これは?」

目を丸くした室井に、青島は首を傾げた。

見れば分かるだろうと思ったのだ。

「スイカですけど」

「それは分かるが・・・丸ごと?」

「ええ、こっちの方が割安だし、何より美味しそうでしょ?」

スーパーに行けばもちろんカットされたスイカも売っているが、青島が買う時はいつも丸ごと一

玉買ってくる。

「しかし、一人暮らしで一玉では、食いきれないだろう」

「え?平気ですよ?まあ、三日もあれば余裕ですね」

「三日?」

「頑張れば、二日でいけますよ」

一日ではさすがに厳しいなどと言ったら、室井はあからさまに呆れた顔をした。

「飽きないのか?」

「全然」

「腹を壊すだろう」

「大抵は大丈夫ですよ」

大抵ということは壊す時もあるということだが、室井はそれ以上突っ込んではこなかった。

呆れを通り越して、感心されてしまったらしい。

「余程好きなんだな」

スイカは好物の一つだった。

またこのシーズンしか食べる機会がないので、ついつい羽目を外したように食べ過ぎてしまう。

それでも飽きたと感じることはなかった。

青島は冷蔵庫からスイカを取り出した。

「室井さんも食うでしょ?」

「ああ・・・」

頷きかけて、室井は青島を伺い見た。

「貰っていいのか?」

青島が大好きだと知ったから、遠慮しているらしい。

青島は破顔した。

「いいに決まってんでしょ」





スイカ四分の一玉を適当なサイズに切り分けて皿に盛ると、テーブルの上に置く。

それを見て室井が苦笑したから、この量だって二人で食べるには多いのだろう。

青島にしてみればそうでもないが。

「どうぞ、食べてください」

室井に勧めつつ、真っ先に自分で手を伸ばし、スイカに齧りつく。

切った時から気付いてはいたが、このスイカは当たりだった。

実が締まっていて、甘みも強い。

青島がガツガツ食べる様を見ながら、室井もスイカに手を伸ばした。

「頂きます」

きっちり断ってから、齧りつく。

「ふまいれしょ?」

口にスイカを頬張ったまま声をかけると、室井も頷いてくれた。

「ああ、美味いな」

「もごもごふが」

「飲み込んでから喋れ」

「・・・・・・今年一番のアタリかも。室井さんついてますね」

別に室井がついているわけではないし、スイカにそれほどこだわりはないだろうから室井にはど

うでも良いことかもしれないが、青島にとっては嬉しいことだったのだ。

室井が泊まりに来ると聞いて、買っておいたスイカだった。

それが運良く美味しく、室井に好評であるなら、嬉しいに決まっている。

ホクホク顔でスイカにかぶりつく青島に、室井はスイカを食べる手を止めて笑みを零した。

「本当に好きなんだな。知らなかった」

言われてみれば、室井にスイカを好きだと言ったことはなかったかもしれない。

去年の夏は、一緒にスイカを食べるような間柄ではなかった。

「今度うちに来るときには、用意しておこう」

「ありがとうございます。あ、丸ごと買っておいてくださいね」

一玉買って、その日に青島が食べても、余った分は室井が一人で食べなければならない。

少し眉を顰めた室井に、青島は笑顔を見せた。

「大丈夫大丈夫。俺がいっぱい食いますから」

室井の部屋に一泊するとして、半玉くらいなら食べきる自信があった。

残りは時間をかければ、室井一人でも食べきれるだろう。

室井は苦笑すると、頷いた。

「一玉、買っておく」





室井は真面目だ。

一緒にいると注意されることも、怒られることもある。

だけど、こんな我侭は簡単に通ったりするのだ。

甘やかされている、と感じなくもない。

もっと言ってしまえば、愛されているのだろうと思う。

そう思うとくすぐったいが、もちろん嫌ではなかった。

嫌であれば、室井とこうなったりはしなかった。





気付くと、室井の手が止まっている。

新しいスイカに手を伸ばして、齧りつきかけていた青島も、手を止める。

「室井さん?」

「・・・いや、本当に好きなんだなと思って」

青島の食いっぷりに、感心していたようだ。

「うん、大好きですね」

青島が素直に頷くと、室井は苦笑した。

「ほどほどに、な」

「はーい、あ、でも」

「ん?」

「室井さんの方が好きですよ?」

さらりと言って、スイカに齧りつく。

租借しながら室井を見ると、赤面しながら眉間に皺を寄せていた。

照れる室井を愛しいなぁと思いながら、青島は内心で笑った。

―赤鬼?





恐い顔でスイカに齧りついた室井は、青島の失礼な内心に気付くことはなかった。






















END
(2006.11.10)