マーチ(翌日編)  ※「マーチ」ラスト部分の別バージョンです。












定食屋で昼ご飯を食べていた室井は、そういえばと思い携帯を取り出した。

午前中の会議の間にメールが届いていたことを、今思い出したのだ。

室井の携帯にメールを送ってくる人間は限られている。

妹か、恋人くらいなものだ。

青島とは夕べ会ったが、なんとなく青島かなと思った。

願望も入っていたのだろうが、案の定、差出人は青島だった。

ふっと眦を下げたが、件名を見て首を傾げる。

『件名:ムロイコアラ』

思わず眉を寄せた。

「なんだ?」

呟くと、向かい合わせに座っていた一倉が訝しそうに見てくる。

「何がだ?」

「いや、何でもない」

一倉に適当に応じ、室井はまた携帯を覗き込む。

俺はいつの間にコアラに?と首を傾げつつ、メールを開いた。

『やっぱり幸せを運んでくるのかも。』

文章はそれだけ。

添付画像が二枚あった。

「・・・?」

首を傾げたまま、一枚目を開く。

開いて目を丸くした。

画面一杯に写し出されたのは、眉毛コアラ。

それは夕べ室井が発見した眉毛コアラだ。

まさか写真を撮って送ってくるとは思っていなかったが、それはいい。

その眉毛コアラに、何故かムロイコアラと書いてあるのだ。

わざわざ画像を加工して、青島が入れたらしい。

鈍い室井にも、これくらいは伝わる。

あの男は、眉毛コアラと室井が似ていると言いたいのだ。

―似てない。

室井は画像を睨みながら思った。

なんのことはない。

眉毛コアラは通常のコアラのマーチより、線が二本多いだけである。

眉毛を書き足しただけのコアラと似ていると言われても嬉しくない。

「別れましょうとでも書いてあったのか?」

渋面で携帯を睨んでいた室井に、一倉がからかうように言った。

「うるさい」

「お、否定しないとこみると、事実か」

「違うっ」

違うのかそれはつまらんなどと呟く一倉を無視して、室井は二枚目の画像を開いた。

「!」

開いて絶句した。

二枚目の画像は青島が写っている。

伸ばした腕が写っていたから、自分で自分を撮ったのだろう。

少し横を向いて、上向きで、笑っている。

そして口元に当てられた指先には、眉毛コアラが―ムロイコアラがいる。

青島がキスをしているようにしか見えない。

ムロイコアラに。

―何を考えてるんだ、あいつは・・・。

室井は思わず赤面しながら、その写真を見た。

子供みたいな行為で、もうじき40にもなろうといういい年をした男がすることではない。

ないはずなのに、有り得ないことに、写真の青島は物凄く可愛かった。

「青島がヌード写真でも送ってきたのか?」

赤面しつつ悶絶していた室井に、一倉がのほほんと言った。

「猥褻物陳列罪で逮捕してやるから、見せてみろ」

「公にしなければ犯罪とは呼べないだろ・・・・・・じゃなくて、そんなんじゃない」

「そうか?お前があんまりしまりのない顔してるから」

室井は表情を引き締めようと思ったが、力が入りすぎて、不自然なまでに怖い顔になっただけだ

った。

鼻で笑う一倉を睨み、室井はもう一度どうしようもない写真に目を落とす。

目を閉じて笑った横顔。

見覚えのある表情だ。

キスをする瞬間の、青島の顔。

この顔を見るのは今は室井の特権だが、横顔を見るのは初めてだった。

思わずマジマジと見つめて、見惚れている自分に気が付いて、メールを閉じた。

―青島本人に見惚れるならまだしも、写真に見惚れるなんて。

―しかも、コアラに・・・キスをした青島に。

そんな写真を撮った青島に呆れたらいいのか、そんな写真でも性懲りもなく見惚れた自分に呆れ

たらいいのか、思わず悩む。

答えがでないまま、一倉をその場に残し席を立ち、店の外に出た。

時間は昼休みの時刻だ。

捜査の最中でもなければ迷惑になる時間ではないはずと思い、室井は青島に電話をかけた。

数度のコールで通話になる。

『うけました〜?』

笑いをとる気だったのか、青島はいきなりそう言った。

室井の眉間に皺が寄る。

「・・・俺とコアラを一緒にするな」

『えー?でも、似てたでしょ』

「似てない」

『自分じゃわかんないのかなぁ。すみれさんも似てるって言ってたのに』

室井はぎょっとして思わず声をあげた。

「あんな写真を見せたのか!?」

『え?ええ・・・・・・あ、もちろん、コアラのマーチだけの写真ですよ』

もう一枚の方じゃ眉毛あるかどうか見えないでしょと、苦笑気味に青島が言う。

言われてみれば確かにその通りだが、そんな問題じゃない。

『あれねぇ、撮るの難しかったんですよ〜。中々いい位置で撮れなくって』

それはそうだろう。

携帯で自分を写した姿は、撮ってみるまで確認できない。

苦労もするだろうが、何故そこまでしてあんな写真を撮ったのか室井には理解できない。

「結局なんだったんだ」

『ん?記念?』

「・・・・・・」

『だって、苦労して見つけたんですよー。折角だから記念にしたくなるでしょ』

「だからって・・・」

キスする必要はないだろうと思ったが、口に出すのも憚られた。

そもそも、コアラのマーチ、駄菓子に口をつけたところで、キスと呼べるだろうか。

駄菓子は口に入れるモノで唇には当然触れるモノだから、キスとは呼べないかもしれない。

だけど、あれは間違いなくキスだった。

青島の顔が、キスの顔だった。

『探して、見つけたら、』

言葉にするのを躊躇って沈黙してしまった室井に、青島が勝手に話し出す。

少し笑った声は、照れ臭そうに聞こえた。

『室井さんなんだもん』

「・・・どこが」

『そっくりですよ』

「嬉しくない」

『俺は嬉しかったですけどね』

室井に似たコアラのマーチ。

それを見つけたことが嬉しかったのだという。

室井は片手で口元を覆った。

「ほんじなす」

小さく罵倒したら、電話の向こうで笑い声がした。

『ははっ・・・今、俺の待ち受けになってますよ』

ムロイコアラを携帯の待ち受けにしているらしい。

妙に気恥ずかしく、少しだけ嬉しく感じてしまう自分に、今度は迷うことなく呆れた。

「人に見られたらどうする気だ」

『ムロイコアラだもん。笑い話になりますよ』

人の名前を使って笑い話しになるとはどういうことだと思うが、青島が眉毛コアラの写真を待ち

受けにしていても、確かに特に問題ないだろう。

室井は溜息を吐いた。

「イイコト、あったか?」

意地になっていたとはいえ、あれだけ青島が探し求めていた「眉毛コアラ」だ。

何があるわけもないと思う半面、何かしらあれば良いとも思う。

『ありましたよ』

少しの間の後、青島の嬉しそうな声が返ってきた。

『嬉しいこと、ありました』

「そっか」

それなら何よりだと思う。

愛しい人が幸せなら、何よりである。

何があったのか聞こうかなと思っているうちに、青島が言った。

『室井さん』

「ん?」

『ありがとうございます』

礼を言われて、首を傾げる。

室井は何もしていないし、眉毛コアラを見つけたのも青島自身だ。

「・・・俺はコアラじゃないぞ」

ムロイコアラと室井を同一視して礼を言われたのかと思い断りを入れると、青島が笑った。

『当たり前でしょ』

「礼を言われる覚えがない」

『俺が嬉しいのは、室井さんがいるからですよ』

言葉の意味は良く分からなかったが、

「それは俺の台詞だ」

そう応えたら、青島はまた笑った。





青島が眉毛コアラを見つけて嬉しかったのは、幸せを運ぶはずのソレが室井を思い出させたから

だ。

室井がそのことに気が付くことはなかったが、それでいいのかもしれない。

想いは重なったままだから。


























END
(2006.6.5)


N様から頂いた「ムロイコアラ(眉毛コアラ)」の写真から出来上がったお話です。
元ネタはN様!活かしきれておりませんが・・・;
N様、何から何まで、有難う御座いましたー!素敵な萌えを有難うです(^^)

萌えに任せて書いたら、先のお話の翌日部分と全然違うことが判明(笑)
また別のお話と思って頂けると嬉しいです・・・(^^;
申し訳ありません〜。

分かり辛かったような気がしますが、青島君の身に何か特別なことがあったわけではなくて、
ムロイコアラを見つけたこと自体が嬉しくて幸せだった、ということです。
室井さんには上手く伝わっておりませんが、
二人とも幸せみたいなので良いのではないかと〜v(おい)