が、明らかに疲れた顔をしている。
「いらっしゃ〜い」
力の抜けた声に、室井は眉を寄せた。
「大丈夫か?」
「大丈夫っすよ?」
「そうは見えないが」
「今仕事忙しくて・・・上がってください」
「来てもよかったのか?」
「ダメなら誘いませんよ」
可笑しそうに笑う青島に続いて、部屋にあがる。
確かに、今日誘ってくれたのは青島だった。
『遊びに来ませんか〜』
という、至極簡素な電話をもらったのだ。
青島の言う通り、青島が会いたくなかったら、わざわざ電話など寄越さなかっただろう。
「コーヒーでもいれますから、適当にしててください」
室井をリビングに残し、青島は台所に消えていった。
ソファーに座ろうと思った室井は、ソファーに視線を止めて、足も止めた。
ソファーの上に、コンビニの袋が置いてある。
それ自体は珍しくもない。
中身が全てコアラのマーチでなければ。
「・・・?」
室井は訝しげに、袋の中を覗く。
中身は間違いなく、全てコアラのマーチだ。
おそらく10個ではきかない。
パチンコの景品か何かかと一瞬思ったが、それならわざわざコンビニの袋に入れないし、大体景
品の全てがコアラのマーチというパチンコ屋もないだろう。
かと言って、これほど買い込むほど、青島が駄菓子好きだとは思えなかった。
突っ立ったまま首を傾げていると、青島がマグカップを持ってやってくる。
「何してんすか?」
「青島、これは一体?」
ソファーを指差して尋ねると、青島は笑みを零した。
「ああ・・・コアラのマーチ」
「こんなに買うほど好きだったか?」
「違う違う」
笑いながらテーブルの上にマグカップを置いて、ビニールの袋からコアラのマーチを一つ取り上
げる。
「眉毛コアラ、知ってます?」
「ああ、それくらいは・・・」
見付けたら幸せになれるとかいう、アレだ。
「捜してるんです、うちの署で」
それは一体どんな捜査なんだと思ったが、そんなわけがない。
湾岸署で単に流行っているという意味だろう。
そう思い、室井は呆れた顔をした。
「何してんだ、君達は」
青島は肩を竦める。
「なんかここんとこ、うちの署、ついてなくて」
それとコアラのマーチに、何の関係があるんだろうかと思ったが、口を挟まず続きを待つ。
「刑事課だけで、忌引が二人、肺炎で入院が一人、骨折で入院が一人、出勤してきてはいるけど
戦力外の肺炎予備軍が三人」
青島が指折り数えながら言うから、室井は目を丸くした。
「おかげで、健康な人間はフル稼働なんです」
突発的に開いた穴を、残りの人間で埋めなければならないのだから、そうなるだろう。
「それはキツイな」
「ええ。そんなわけで、今皆やさぐれ気味なんですけどね。そこに現れたのが、救世主のコアラ
です」
「・・・コアラが救世主?」
話の流れについていけない。
困惑する室井をよそに、青島は話を続ける。
「すみれさんがデスクで食べてたコアラのマーチに、眉毛コアラが入ってたんですよ」
デスクで何をしてるんだと思ったが、食いしん坊な彼女のことだから、非常食くらい引き出しに
しまってあるだろう
「珍しいねー、いいことあるかもねー、なんて冗談で話してたら、風邪で寝込んでた窃盗犯係り
の刑事が出勤してきたんです」
「・・・・・・それでコアラのマーチが大流行してるのか」
単なる偶然、しかもすみれの幸運かどうかも怪しい。
が、そう突っ込むのも憚られる。
彼らはおそらく藁にもすがる思いなのだ。
室井の同情を悟ってか、青島が苦笑する。
「まぁ、ちょっとした気晴らしです」
「そうか・・・」
コアラのマーチをテーブルにどけて、青島はソファーに腰を下ろす。
その隣に座って、室井は青島の顔を見た。
やはり少し顔色が悪い。
「無理しないで、今日はゆっくり寝ていればよかったのに」
時間ができたから室井を誘ってくれたのだろうからそれは凄く嬉しいが、その時間で身体を休め
た方がよかったのではないだろうか。
「俺にはこっちの方がいい」
青島はヘラッと笑いながら言った。
「室井さんと会ってる方が、元気になるからいいんです」
そんな嬉しいことを軽く言ってくれるから、室井は申し訳なく思うことをやめた。
並んでテレビを見ていると、不意に肩に重みを感じる。
視線を向けると、青島が室井の肩に寄り掛かっていた。
閉じた瞳と、唇から漏れる深い呼吸。
どうやら眠ってしまったらしい。
風邪をひくといけないが、穏やかな寝顔が愛しくて嬉しかったので、もう少しだけこのままにし
ておくことにする。
首を捻って青島の髪にキスをした。
ふっと気付けば、室井の手の中には、コアラのマーチがあった。
青島が食えと言ってくれたものだ。
勢いで眉毛コアラを捜してはいるが、食べ飽きているのだろう。
室井は苦笑すると、青島を起こさないように気をつけながら、箱を開ける。
駄菓子を食べるなんて、随分久しぶりである。
一個つまんで口に入れてみた。
中々美味いと感じたのは、珍しいからかもしれない。
室井はそのまま何個か摘んだ。
もういいかなと思い始めた頃、摘んだコアラに手が止まる。
「あ」
思わず声がでた。
「・・・・・・本当に眉毛があるんだな」
それは青島が、湾岸署署員が捜し求めていた、眉毛コアラだった。
室井は眉毛コアラをじっと見て、青島を見下ろした。
なんとなく可笑しくて喉の奥で笑いながら、室井はその眉毛コアラを袋に戻した。
これは室井の幸運じゃない。
青島の幸運だ。
室井が食べかけを置いておけば、青島はそれから食べるだろう。
青島が幸せになるのも、もうすぐだ。
「良いこと、あるといいな」
室井は青島の肩に腕を回して髪をなぜた。
***
翌日青島から眉毛コアラの写メールが届き、室井は捜査一課で思わず吹き出していた。
興味本位で室井の携帯を覗きこんだ一倉が怪訝そうな顔をする横で、暫く笑いの発作が納まらな
くて困ったという。
写真に青島の顔は写っていなかったが、大喜びしているであろう青島の顔が容易に浮かんだ。
END
(2004.4.25)
今更眉毛コアラですみません(^^;
駄菓子で書きたいなぁと思っていて、最初は(なぜか)「きのこの山」にしようと思っていたのですが
どうしてもネタが浮かばなかったので「コアラのマーチ」にしました。
「絶対見つけてやる!」と意気込んで、コンビニでコアラのマーチを大人買いし、
店を出た途端素に戻った青島君が、荒んでる自分に気付いて、
室井さんに会いたくなったから電話した・・・という背景にあります。
あります、じゃないですね(笑)
後書きで説明するくらいなら書けば良かったんでしょうが・・・(^^;
申し訳ありません・・・。
もう、とにかく青島君が幸せなら、それでいいらしいです(笑)
お粗末様でした!