青島からの電話に、室井は少し困った。
青島と花見。
是非したいが、困ったことに休みがない。
だが、桜は室井の休暇など待ってはくれないだろう。
ただでさえ、桜の季節は短いのだ。
室井はどうあっても休みがとれなさそうなスケジュールを頭の中で二回確認して、諦めた。
「青島、すまないが休みがとれそうもないんだ」
『あ、夜でいいんです。夜にちょっとだけうちに来れません?』
青島の申し出に首を傾げる。
夜なら時間が作れないことはないし、青島にも会いたい。
だけど青島の部屋に行っても、花見などできないのではないだろうか。
室井の疑問が伝わったのか、電話の向こうで青島が笑った音がした。
『うちの裏にね、一本だけ桜の木があるんですよ』
その桜が満開なのだと言う。
『まぁ、窓から盗み見るっていう、寂しい花見なんですけどね。凄くキレイに咲いてるんですよ〜』
だから誘ってくれたのだろう。
室井は少し胸が熱くなった気がした。
青島も忙しい身だから、いつも室井のことを考えてくれているわけじゃないはずだ。
だけど青島の心が何かしら動く時には、きっと室井を思い出してくれている。
今みたいに桜を見てキレイだと思ったら、室井にも見せたいと思ってくれるのだ。
室井にはその気持ちが嬉しかった。
時間はやっぱりあまりないけれど、青島と過ごす数時間くらいはどうとでもなる。
―睡眠時間を削ればいいんだ。
青島に聞こえたら怒られそうなことを考えながら、室井は返事をした。
「今夜、行ってもいいか?」
***
手土産にビールを持って行ったら、青島は可笑しそうに笑った。
「花見と言えば酒ですか?のんべえだなぁ」
「君に言われたくない」
室井の尤もな突っ込みに、青島は肩を竦めた。
「ま、それもそうっすね」
あっさり納得した青島も、やっぱりのんべえなのだ。
室井からコンビニの袋を受け取ると、青島は嬉しそうにそれを抱えた。
「さ、どうぞどうぞ〜」
促されて青島の後について部屋にはいると、青島は真っ直ぐに寝室に向かって行った。
「ここの窓からね、良く見えるんです」
寝室の電気を付けずに部屋に入ったのは、わざとだろう。
カーテンが開けっ放しになっている窓から、桜の木が見えた。
「一本だけだし、立派とは言えない木なんですけどね」
「いや・・・十分キレイだ」
窓際に立ち桜の木を見上げると、青島は嬉しそうに笑った。
「でしょ」
確かに木自体がまだ華奢で、植えられてからそれほどの年数が経っているとは思えなかった。
ひょろりとした一本だけの桜の木は、見方によっては寂しく見えるかもしれない。
それでも、不思議と室井の目には、どこか力強く見えた。
細い木でも、目一杯花を咲かせている。
来年はもっと大きくなり、もっと沢山の花をつけるだろう。
そう思うと、頼もしく思えた。
「座りません?」
室井が黙って桜を見上げていると、青島が声をかけてくる。
「花見の準備してたんですよ〜」
先に座りこんだ青島が、床に置いてあった袋から何やら取り出す。
室井も腰を下ろすと、差し出されたソレに目を丸くした。
「花見と言えば、団子です」
白と赤と緑の三色団子が一本の串に刺さっている。
確かにどこかで見たことのあるような、お花見団子だ。
だけど花見と言えば酒だろうと思ってしまうようなのんべえ二人組みの花見には、不要なものな
気がする。
室井の気持ちが伝わったのか、青島は笑って付け足した。
「何も団子つまみに酒飲めってんじゃないですよ〜」
「それは分かってるが」
「すみれさん一押しの団子だから、美味いんじゃないかな」
青島が差し出してくる串を、室井は素直に受け取った。
青島も自分の分を手にとり、ふと思い立ったように室井の団子に軽く触れ合わせてくる。
きょとんとした室井に、青島は朗らかに言った。
「かんぱーい」
団子の乾杯など聞いたことはないが、青島は楽しそうである。
室井は苦笑しながら青島に倣った。
「かんぱい」
乾杯して、そのまま口に運ぶ。
甘過ぎない柔らかい団子は、確かに美味しかった。
お茶が欲しくなると思っていたら、青島が湯飲みを差し出してくるから驚いた。
急須やポットも用意してあったらしい。
「珍しく準備いいでしょ?」
自分で珍しくと言い切ってしまう辺り、自覚はあるらしい。
行儀悪く串を口にくわえたまま、青島はお茶をいれて手渡してくれる。
「ありがとう」
「いーえ。やっぱり和菓子には日本茶ですよね〜」
そういうわりには、普段の青島にはあまりこだわりがなさそうだった。
コーヒー好きなので、いつもそればかり飲んでいる。
形よりも好みを重視する男だ。
今日は少し違うようだったが、花見を楽しみたかったのかもしれない。
「窓、少し開けましょうか」
室井に断るふうでもなくそう言って、青島は窓を開けた。
冷たい風が入ってくる。
青島は団子片手に、器用に片手で煙草を咥え火を付けた。
「急にすみませんでした」
桜を見上げながら、青島が呟く。
「俺は嬉しかったが」
素直に言ったら、青島は室井を振り返って笑みを零した。
「俺も嬉しいです。室井さんと花見ができた」
そう言う青島につられて、室井もまた桜を見上げる。
「なんかここんとこ忙しくて、毎日署に行って働いて、帰ってきては寝てばっかで」
また青島に視線を戻したら、青島は煙草を吹かしながら桜を見ていた。
暗い部屋の中、月明かりに浮かび上がる青島に視線が止まってしまう。
耳だけはちゃんと、青島の声を追っていた。
「それが今朝起きてカーテン開けてふと見たら、この木が満開になってて・・・・・・いきなり咲いた
わけでもないのに、今朝になって初めて気付いたんですよ」
苦笑する青島の声。
実をつけてから少しずつ開花していったであろう桜の花でも、忙しい毎日なら気付けないこ
あるだろう。
仕事に集中するあまり気持ちにゆとりがなくなって、他所に目がいかなくなることは室井にも良
くあった。
何かのきっかけで日常を取り戻すのだが、この桜の木が青島にとってはそうだったのだろう。
室井には青島の気持ちがわかる気がした。
「今朝これを見て、あー室井さんにも見せたいなーって思ったんです」
有り難いとか嬉しいとか愛しいとか、色んな感情が沸き上がる。
それがごちゃまぜになっているから、何と言えば正確に今の気持ちを伝えられるのか分からない。
結局卑怯と承知で、黙って唇を寄せた。
青島は微笑んだまま目を閉じて室井を待ってくれたから、悪い選択ではなかったようだ。
ゆっくり触れてゆっくり離れる。
目を開けた青島が、悪戯っぽく笑った。
「さて、じゃあそろそろ大人の花見といきますか」
酒を飲みましょう、ということだ。
もちろん室井に異存はなかった。
「そろそろ閉めますね」
煙草を消して窓を閉めようとするから、その腕に軽く触れて止める。
「もう少し、開けておかないか?」
四月とはいえこの時間になればそれなりに冷え込むが、折角なので窓越しじゃない景色を楽しみ
たかった。
「・・・いいっすね」
嬉しそうな声を出すと、青島はまた外を見た。
室井も見上げる。
青島の隣で見る桜。
その後にはキレイな三日月。
規模は小さく
END
(2006.4.9)
しっとりめ、になっていると良いなぁと思います。
取って付けたように、お団子話ですみません(笑)
お花見に絡めたかったんです。
季節柄。
お花見、したいなぁ〜。
タイトルがこれまた酷くてすみません(笑)
おかしで揃えたかったので、「団子」になりました・・・;