ケーキ












青島が提げてやってきたケーキの箱に、室井は目を丸くした。

それも無理はない。

今日は誕生日でもクリスマスでもない。

何でもない日にケーキを買って食べるほど、青島も室井も甘党じゃなかった。

驚いている室井に苦笑しながら、青島はケーキの箱を持ち上げてみせた。

「なんか急に甘いモノ食べたくなっちゃって」

衝動買いのフリをして「たまにはいいでしょ」と言うと、室井は複雑な表情で頷いた。

まだ驚いているのか、反応が鈍い。

ケーキをみて絶句するほど甘いモノが嫌いなわけではなかったはずなので、嫌がられているわけ

ではないだろう。

「ちょっと待っててくれ」

室井は苦笑すると、青島をリビングに残して台所に消えて行った。

首を傾げながらも大人しく室井が戻ってくるのを待っていると、すぐに室井の苦笑の理由が分か

った。

戻ってきた室井が、手にケーキの箱を提げていたからだ。

青島が持ってきたケーキの箱は、今も青島が持っている。

室井が今手にしているケーキの箱は、室井が用意したものだということだ。

「気があったな」

そう言いながら箱を持ち上げて見せる室井に、青島も苦笑した。

「なんだ・・・・・・室井さんも覚えてたんだ?」

「やっぱり、君もか」

「まぁ、何となくね。ほら、給料日だったし」

照れ隠しのように笑うと、室井も眦を柔らかくした。

「給料日だから飲みに行こうって、君が誘ってくれたんだったな」

それが二人の関係を変えるきっかけになった。




数年前のこの日から、二人は始まったのだ。

つまり、今日は二人にとって記念日だった。

男同士のお付き合いである。

お祝いをしましょうだなんて示し合わせたわけではなく、たまたま重なった非番だった。

室井と会う約束をしなければ、思い出すこともなかったかもしれない。

だが思い出したら、すぐに忘れるモノでもない。

かと言って、青島も大袈裟なお祝いがしたかったわけではなかった。

第一室井にそうと伝えることが、照れ臭い。

その結果、ケーキでも買って食べて、さりげなく勝手にお祝いすることに決めたのだ。

それなら室井に宣言する必要もないし、青島のささやかな欲求も満たされる。

だからケーキを買って遊びに来たわけだが、まさか室井までケーキを買っているとは思いもしな

かった。

それは室井も同じ気持ちだったらしい。

「まさか君まで買ってくるとはな」

「気があっちゃいましたねぇ」

さっきの室井の台詞を繰り返して、頭をかいた。

「食いきれるだろうか」

不安そうな室井につられて、青島も眉をひそめる。

「こういう時にすみれさんがいればなぁ」

「ケーキの理由を知られると、からかわれそうだが」

「あー・・・バカップルって言われちゃいますね」

顔を見合わせると、二人して笑みを零す。

自覚は二人ともあるのだ。

だからと言って、すみれのオモチャになりたいわけでは、当然ない。

彼女の出番はなさそうだった。

「コーヒーでいいか?」

「あ、はい」

テーブルの上にケーキを置くと、室井は再び台所に消えた。

青島は床に腰を下ろすと、自分で持ってきたケーキの箱をテーブルの隅に置き、室井が買ってく

れたケーキの箱を開ける。

中にはショートケーキが4個ばかり入っていた。

青島が買ってきたのも4個。

一気に八個になってしまったケーキに苦笑した。

「何が良いのか分からなかったから、適当に買ってきた」

室井はマグカップを片手に、皿とフォークを持って戻ってきた。

手を伸ばして皿を受け取ると、青島はニコリと笑った。

「どれも美味そうっす」

微笑すると、室井もケーキの箱に手を伸ばす。

青島が買って来た方の箱だ。

中には室井が買って来たケーキとは似て非なるケーキが4個入っている。

その違いは、青島にも室井にも良く分からない。

精々分かるのは、生クリームかチョコレートかの違い程度だ。

その中から、室井はスタンダードな苺のショートケーキを取り上げた。

青島はひっそりと笑う。

何となく、室井ならそれを好む気がしたのだ。

深い意味はないが、想像通りの行動が嬉しい。

ふっと視線が合うと、室井が首を傾けた。

「これ、食ってもいいか?」

「ぶ・・・・・・好きなの、食っていいですよ」

「そうか・・・君も、好きなの、なんなら、全部食ってもいいぞ」

「あ、逃げないでくださいよ。ノルマは4個ずつですからね」

「4個・・・」

ちょっとげんなりする室井に、青島は苦笑した。

一年分くらいのケーキをここで食すことになりそうだった。

―まあ、たまにはいいよね。

そんなことを思いながら、室井の買ってきてくれた何がしかのチョコレートケーキを選ぶと、皿

に乗せる。

チョコレートケーキを前に、正座をした。

特別意味のある日ではないが、二人にとっては無意味でもない日。

お祝いと口に出して言うのは照れ臭いが、伝えたい気持ちがないわけでもなかった。

「室井さん」

真顔で名前を呼ぶと、ぺこりと頭を下げる。

「これからも宜しくお願いします」

「・・・こちらこそ」

顔を上げると、室井も同じように正座をして、青島に頭を下げていた。

室井が顔を上げるのを待って視線を合わせると、どちらからともなく笑みがこぼれる。

改まっての挨拶は照れ臭くて、どちらとも苦笑気味だった。

「食いますか」

「だな」

フォークを握ると、お互いケーキに手を伸ばす。

チョコレートケーキは当然甘いが、不快なほどではなくて、ちゃんと美味しかった。

フォークを咥えたまま、ちらりと室井を見る。

眉間に皺を寄せていないところをみると、室井も平気なようだ。

だが、フォークに刺した苺を口に運んで、少しだけ顔を顰める。

どうやらすっぱかったらしい。

「後から、一口くださいね」

密かに微笑みながら、青島はコーヒーを啜った。

「ん?半分やるぞ」

「じゃあ、半分こにしますか」

室井の眉間に皺が寄る。

「・・・・・・」

「ノルマって言ったでしょ」

しれっと応じたら、眉間の皺が深まった。

そして、ボソリと呟く。

「来年は、酒にしよう」




お酒でお祝い。

その方が二人らしい気がする。

それでも青島は来年もケーキを買おうと心に決めた。

また持て余すくらい買って、室井と一緒に一生懸命食べるのだ。

室井はきっと嫌がるだろう。




そんなことを思いながら、青島は言った。

「酒を飲みながらケーキを食べるのも悪くないですよね」

微妙な表情を浮かべる室井に、青島は破顔した。
























END
(2006.3.21)


実は、これ、拙宅の二周年記念に書いていたお話でした(^^;
だから何となく給料日設定・・・(笑)
書き終わらなくて、結局アップしなかったモノでした。

さ、再利用ですみません・・・;

食べさせっこさせたかったのですが、お誕生会で書いた気がするのでやめました〜。
私の好きなシチュエーションらしいです。
ベッタベタがすきなんだなぁ・・・(笑)