―似合いそう・・・だけどなぁ・・・・・・。
買うには踏ん切りがつかない。
手に取らずただ眺めている青島に、するすると店員が近寄ってくる。
「お客様にとても良くお似合いだと思いますよ」
ご試着しませんか?とにこやかに尋ねられる。
青島は愛想笑いを浮かべて首を振った。
「いや・・・・・・やっぱ、止めます」
回れ右をして、売場を離れる。
―俺に似合うなら、室井さんには似合わないかもな。
大股で歩きながら苦笑した。
見ていたマフラーは自分用では無かった。
自分の誕生日にあれだけのプレゼントを貰ってしまったから、青島は今盛大に悩んでいた。
それがいくら新城に煽られた結果だったとしても、お返しはしなければならない。
青島が室井に貰った喜びは、形にして返したかった。
もちろん同じだけのモノを返すのは、金銭的に難しい。
大体、それで室井が喜ぶ
いや、青島からのプレゼントなら喜んでくれるだろうが、それは金額の問題ではない。
極端な話しだが、金欠で飴玉一つしかあげられなくても、室井は苦笑しながら受け取ってくれる
だろう。
青島が誕生日プレゼントだと言えば、その気持ちを大事にしてくれる人だ。
だからこそ、青島は本当に自分が室井にあげたいものを探したかった。
室井が喜ぶものを、あげたかった。
―一言、「あれが欲しい」と言ってくれれば楽なんだけど・・・。
思いながら、苦笑する。
室井を喜ばすのには確実と言えるが、室井が要求するわけもない。
それに、青島も楽がしたいわけじゃない。
室井へのプレゼントを考えるのは、青島の楽しいお仕事だ。
アクセサリーの類も少し考えた。
仕事柄普段から使えるものではないが記念にはなるし、恋人に贈るには相応しいものだ
だが、ピンとはこない。
今贈りたいのは、記念になるものではない気がするのだ。
―身につけられるものがいいかな。
四六時中とはいかないまでも、室井の身近に置いてもらえるもので、使えるもの、実用性がある
ものがいい。
最初に浮かんだのは腕時計だった。
売場まで行ってディスプレイを眺めて、断念する。
―ダメだな。あんま、いい時計は買えない。
室井に変な時計はして欲しくない。
次に浮かんだのはネクタイだ。
山ほど陳列しているネクタイを眺めてぐるぐる回ってみたが、首を傾げる。
―ネクタイもいいけど、黒いの以外してんの見たことないしな・・・。
ハンカチや靴下まで見て、青島は苦笑した。
―・・・・・・父の日みたい。実用的過ぎるなぁ。
室井からのプレゼントと被るが、マフラーも見てみた。
が、結局は買わずにデパートを出た。
その後は雑貨屋を回り食器の類を眺め、本屋に行きハードカバーなんて読んでる暇ないかと諦め、
たまたま欲しかったCDを見掛け無駄使いをし、花屋を覗き、覗いただけで行き過ぎ、ついでに
コンビニに立ち寄った。
暖かい店内に、ほうっと一息つく。
身体を使う仕事で慣れているとはいえ、さすがに足が疲れていた。
なのに、まだプレゼントが決まらない。
青島は一人溜息をついた。
―どうしようかな・・・。
暖かいコーヒーでも買って少し休憩しようと思って、青島は同じことをしていた室井を思い出し
て笑みを零した。
―室井さんもこんなふうにグルグル歩き回ってくれたんだろうなぁ。
青島へのプレゼントを探しながら。
青島のことを考えながら。
きっと一生懸命に探し回ってくれたのだろう。
今の青島には、それが良く分かった。
自分が同じことをしているから。
室井がどんな気持ちであれだけのプレゼントを買ってくれたのか。
良く分かる。
―あの人、かなり俺のこと好きだな。
青島は少し俯いて、緩む表情を隠した。
同じことをしてる青島だからこそ、室井の気持ちが透けるように伝わった。
***
インターホンが鳴ってドアを開けると、転がるように青島が入ってくる。
「寒いっ」
「・・・みたいだな」
室井はすぐにドアを閉めてやる。
大きな身体を縮こまっている青島を見れば、寒かったことは一目瞭然だった。
「炬燵で温まるといい」
そう言って中に促すと、青島は片手をあげてみせた。
手にはケーキの箱。
しかもサイズから言って、ホールのケーキだ。
室井は苦笑した。
「ハッピーバースデー、です」
青島がニコリと笑ってくれる。
今日は室井の誕生日だった。
「ありがとう・・・・・・ホールで買ってきたのか?」
「ええ。こんな時じゃないと食えないでしょ?」
「だが、二人で食い切れるか?」
「今日泊まるし、明日も二人で食えば食い切れるでしょ」
むねやけしそうだと思ったが、室井はそれ以上言わなかった。
青島の気持ちは嬉しいし、嬉しそうな青島を見ていれば、それも悪くないと思えた。
「ありがとう」
祝いに対して礼を言ったら、青島ははにかむように相好を崩して、首を振った。
可愛いなぁと思いながら、暖かいリビングに移った。
一緒に鍋を作って酒を飲む。
鍋を食べ終わると、酒を飲みながらケーキを突いた。
「なんか妙だな」
「たまには、いいでしょ?一年に一度くらい」
「そうだな」
「ちょっと、酒の味分かんないっすけどね」
自分で突っ込んで、青島は苦笑した。
室井もつられる。
「酒の味が分かんないんだか、ケーキの味が分かんないんだか」
「本当っすね・・・ワインにしときゃ、よかったかな」
「そういう問題か?」
「まぁ、酒を飲まないという手段もあった気はしますね」
視線を合わせて、どちらから
「まぁ、お祝いっすから」
意味が分かるような分からないようなことを呟いて、青島がフォークを差し出してくる。
フォークの先には、当然のようにケーキが乗っかっていた。
ちょっと顔を強張らせた室井に、青島はのんきに笑ってみせる。
どうやらからかわれているわけでもないようなので、室井は素直に口を開いた。
青島が手を伸ばして、室井の口にケーキを運んでくれる。
―さっき食べた一口よりも甘く感じる。
などと、室井は咀嚼しながら、少し頭の痛いことを思った。
「・・・美味い」
「それは、よかった」
言いながら、もう一度手を伸ばしてくる。
今度は苺が刺さっていた。
甘みに交じった酸味に、少し眉を寄せる。
それを見ていた青島が苦笑した。
「すっぱい?」
「少し」
「あはは、そっか・・・・・・・・・・・・すいません」
「謝ることは、」
少し慌てた室井に、青島は苦笑しながら首を振った。
「苺のことじゃなくて」
「え?」
「プレゼント、用意できませんでした」
申し訳なさそうに言う青島に、室井はなんだそんなことかと思う。
本音を言えば、青島が何かをくれるのを、全く期待していなかったわけじゃない。
だが、それは物欲としてではなくて、青島が自分のためにプレゼントを用意してくれることを楽
しみにしていただけのことだ。
だから、 ケーキを持って会いに来てくれただけで、室井は満足していた。
「別に何もいらない。君がいてくれれば」
歯が浮かなかった変わりに、眉間に皺が寄る。
青島は小さく笑うと、「そう言ってくれるだろうなぁとは思ってたんですけどね」と言いながら、
ケーキを自分の口に運んだ。
「ちゃんと用意しますから、もうちょっと待っててください」
「青島、俺は本当に」
構わないと言いたかったのだが、フォークをくわえた青島がじっと見つめてくるから、押し黙る。
フォークを苺に刺して、青島は唇を尖らせた。
「俺がしたいの。室井さんがしてくれたみたいに、俺もお祝いしたいの」
いらないなんて言わないでよ、と少しいじけたように言う。
子供みたいな主張なのに、堪らなく愛しく感じる。
室井は目尻を柔げた。
胸になん
「ありがとう」
青島が苺に刺したフォークを手に取り、今度は室井が差し出した。
かぷりと食いついて、青島は苦笑する。
「・・・・・・すっぱい」
室井は笑みを零すとフォークを置き、変わりに自分の手を伸ばした。
頬に触れ近付くと、青島は微笑したまま目を閉じた。
ゆっくりと唇を重ねる。
どちらの唇からも、苺の甘酸っぱい香りがする。
舌を絡めると、余計に感じた。
「苺味のキスって・・・」
唇が少し離れると、青島は目を開けて呟いた。
「ベタだけど初めてしたなぁ」
妙な感想に室井は苦笑した。
「俺もそうだな」
言いながら、また軽くキスをする。
何度か繰り返して、室井はためしに言ってみた。
「・・・青島」
「ん・・・・・・はい」
「怒るなよ」
「・・・はい?」
一応釘もさしてみる。
「プレゼントは君でも一向に構わないのだが」
オヤジな台詞で申し訳ないが、本音だから仕方が無い。
今1番欲しいモノは何かと聞かれたら、間違いなくアオシマシュンサクと答えるだろう。
青島は恋人で、ある意味既に室井のモノだ。
だけど、どれだけ貰っても足りない。
もっ
青島は室井にさらけ出せる、差し出せる精一杯の範囲で、付き合ってくれている。
それを知りながら、尚も、もっ
浅ましいほどの想いだという自覚があるからこそ、青島からプレゼントして欲しかった。
「それは・・・実は考えないでも無かったんですけど」
青島は苦笑を浮かべた。
「ダメです」
きっぱり言われてしまうと切ない。
眉を寄せた室井の頬を、青島は両手で包む。
「だって、それじゃあ、俺へのプレゼントになっちゃう」
思わぬ台詞に、目を剥いた。
青島は声を漏らして笑ったが、すぐに引っ込めるとやんわりと微笑んだ。
「欲しいの、室井さんだけだとでも思ってんの?」
俺も欲しいに決まってんでしょと囁きながら、唇を寄せてくる。
触れる前に、室井は青島の後頭部に手を回し、強く引き寄せた。
唇を重ねると、先程よりもずっと濃厚なキスを仕掛ける。
気持ちの高ぶるまま、舌で愛撫して、手で首筋を撫ぜ背中をなぞり、腰を抱いた。
室井の唇に応じながら、青島が手探りでテーブルを押しのける。
スペースを作ってくれたということはそういうことだと解釈し、室井は遠慮なく青島を床に押し
倒した。
「青島・・・」
「ん・・・・・・まあ、もう、プレゼントの一部でもなんでもいいんですけどね・・・」
笑いながら、室井の首に両手を回してくれる。
「おめでとうございます、室井さん」
室井は少し照れ臭そうな笑みを浮かべて、頷いた。
この歳になって、誕生日に特別な思い入れがあるわけじゃない。
だけど、青島の一言だからこそ、特別。
「ありがとう」
「大好きですよ」
おめでとうよりも嬉しい一言。
それこそ、青島だからこそ、特別な一言だった。
三日後、夜中に青島が突然やってくる。
キレイにラッピングされたプレゼントを持って。
END
(2006.1.3)
HAPPY BIRTHDAY 室井さん!
・・・ベッタベタなお話でゴメンナサイッ(><)