プレゼント交換?












床の上にあぐらを掻いて座り、自分の左手を眺める。

右手にはプラチナリング。

室井に手渡してもらったばかりだ。

青島の目の前で、室井もやっぱりあぐらを掻いて座り、居心地悪そうにしている。

照れているのだろうと悟って、青島は小さく笑った。

指輪を宅配便で送ってきたのは急いだからだけではなくて、案外室井の照れ隠しもあったのかも

しれない。

それでも、ちゃんと手渡したいと言ってくれたのは、室井だった。

夕べ、甘くて幸せで少しだけ長い夜を過ごした後、眠りに落ちる少しの隙間で、「明日の朝に」と

約束してくれたのだ。

起きてみれば昼過ぎで朝ではなかったが、一度青島の手から室井の手に戻った指輪は、室井から

青島に手渡された。

青島はまた左手に視線を戻す。

―やっぱりここかな?

そうするのはさすがに照れ臭い。

だけど、室井からの指輪をはめるなら、そこにする以外は有り得ない。

青島は左手の薬指に指輪をはめた。

少しだけじっと見下ろして、その手を室井に掲げてみせる。

「じゃーん」

くれた室井に自慢げに見せる。

これは青島の照れ隠しだった。

室井は少し眉を寄せ、それから微苦笑した。

「ああ」

「もうちょっと、何か言うことないんですか?」

「似合ってる?」

「なんで疑問系なのさ」

視線を合わせて、二人とも笑みを溢す。

照れ臭いのはお互い様だった。

「……ちゃんと似合ってる。プレゼントして、良かった」

「まぁ、合格ですね」

わざとらしく偉そうに頷いたら、室井は黙って青島の髪を少し乱暴に掻き回した。

されるがままになりながら、笑いが込上げてくる。

青島が遠慮なく笑い声を上げると、室井も苦笑を浮かべた。

満足したのか室井の手が止まり、今度は自分で乱した青島の髪を手具しで整えてくれる。

そうしながら、室井は呟いた。

「ありがとう」

「…?何がっすか?」

「受け取ってくれて、ありがとう」

青島は変な顔になる。

「礼を言うのは、こっちの台詞ですけど」

指輪をプレゼントされたのは青島で、プレゼントしてくれた室井に礼を言われる覚えはない。

それでも、穏やかな顔をした室井は、緩く首を振った。

「君が受け取ってくれないと思っていたわけじゃないが、受け取ってもらえること自体が、俺には

嬉しいんだ」

だからありがとうと繰り返されて、青島は自分の手をもう一度見た。

―なんだよ。やっぱり大事なものだったんじゃん。

なんでもないことのように、まるでお歳暮でも送るように宅配便で送ってきたくせに。

室井にとってだって、やっぱりそんなに軽いものではなかったのだ。

―室井さん、本当にばかだ。

思ったが、嬉しそうな室井に免じて、今日は文句を言わないことにする。

そもそも文句なら、この間電話で散々言った。

あれ以上文句を言うほど怒っているわけじゃない。

青島だって嬉しかったのだから。

「次は室井さんの番っすね」

指輪をはめた左手で室井を指差す。

「3日だもんね、もうすぐだ」

「俺の誕生日など別に…」

「それ、俺の誕生日に指輪寄越した人の台詞じゃないから」

ピシャリと言い切ると、室井はグッと言葉を飲み込んだ。

返す言葉もないのだろう。

内心で微笑みながら、青島は腕組をした。

「何か欲しいもんないですか?」

「特には」

「もっと考えてくださいよ」

あっさりと返事が返ってきて、思わず苦笑する。

室井はあまり物欲がないようなので無理もないとは思うが、もう少し協力してもらいたいところ

ではある。

「…君と一緒だ」

今度は少しだけ考えて答えが返ってきたが、意味が分からず首を傾げる。

「何がっすか?」

「『モノよりぬくもり』、俺もそっちの方が嬉しい」

「つまり体で祝えってことっすね?」

室井さんのエロオヤジと青島がなじると、室井は顔をしかめた。

「そうじゃなくて、いや、そうじゃないことはないが、それだけじゃなくて」

真面目な室井らしい訂正に、青島は吹き出す。

手を伸ばすと室井の頬に触れ、体を伸ばして軽くキスをした。

「言ったの俺だからね、ニュアンスは分かりますよ」

からかわれたと悟ったのか、室井の眉間に皺が寄る。

その眉間にもう一つキス。

「一緒にいられればって思うし、触れられればって思うけど、形にしてあげられるものは形にし

てあげたいよ」

頬に触れた青島の手に、指輪に、室井の手が重なる。

「第一そんなの俺だってしたいもん。プレゼントでもなんでもないですよ」

苦笑した青島に、室井は軽く目を瞠った。

そして苦く笑う。

「思い出した」

手を握られ引き寄せられるから、青島は素直に目を閉じた。

「俺も全く同じこと考えたんだった」

そう呟いて唇を重ねてくるから、青島はそれを受け入れながら笑みを溢した。



「そういや、室井さん」

少し離れて、青島は手の甲で唇を軽く拭った。

「ん?」

「これって、ペアじゃないの?」

もう一度左手を翳して、指輪を見せる。

もしかしてペアだったりするんじゃないだろうかと勝手に思っていたのだが、それであればして

こないまでも持ってくるくらいはしたんじゃないかと思ったのだ。

案の定、室井は首を振った。

「なんだ、そうなんですか、そうかー、うーん……あ、じゃあ、俺もお返しに指輪にしようかな」

指輪を貰ったお返しに指輪を贈るのでは芸がないが、室井にも持っていてほしい。

そのもの自体は、ただのアクセサリーに過ぎないはず。

だけど、込める想い一つで意味合いが何ぼでも変わってくる。

室井がくれたソレは、青島にはもちろん室井にとっても大事な大事なモノだ。

青島も同じ想いを込めたモノを贈れるはずだから、室井にも持っていて欲しかった。

「いや、しかし…」

室井が少し困った顔で止めようとするから、青島はわざとに唇を尖らせた。

「俺からの指輪が受け取れないって言うんですか?」

「違う、そうじゃないが」

慌てて否定しなくても、本当は分かっている。

青島に指輪を贈った室井が、青島からの指輪を受け取れない理由は無い。

室井が頷けないのは、そんな理由じゃない。

「心配しなくても、高価なのは買いません、もとい、買えませんから」

「しかし…」

「普段しないのは分かってますよ、俺だって署にしては行けませんし」

「……」

「お守り代わりに、持っていたらいいじゃない。お互いに」

青島が笑うと、室井もつられたように小さく微笑んだ。

「…そうだな」

「よし、じゃあ、そういうことでっ」

青島は妙にワクワクしながら、頷いた。

誰かへのプレゼントを探すのは、ちょっと楽しい。

それが愛しい誰かなら、尚更だ。

どんなのがいいかなぁと一瞬考えこんだ青島の耳に、不意に室井の声が届く。

「指輪の交換か…」

青島はぎょっとした。

「な、何言ってんですか」

「い、いや、指輪の交換には違いないだろ」

言った本人のくせに、室井も焦っている。

改まって聞き返されると思っていなかったのかもしれない。

「そうだけど、その言い方って、ちょっと、あれな感じが、どうなんですか、それって、あれで

すよ」

何を言ってるのか一つも伝わらない青島の弁に、室井は苦笑した。

「嫌か?」

ぐっと言葉につまる。

照れ臭かっただけで、嫌かと問われれば返事は決まっている。

青島は頬を掻いた。

「男同士で何やってんでしょうね」

「不毛か?」

「まあ、いいんすけど…」

言いながら、左手を視線の高さに持ち上げた。

指輪がキラリと光る。





誰かに見せるわけじゃない。

誰かに教えるわけじゃない。

自分たちにだけ意味があれば、それでいい。





青島は指輪に軽くキスをした。

目を瞠った室井に、笑いながら言った。

「誓いのキスでも、してみます?」










「指輪の交換の後で」

それが、室井からの返事だ。




























2006.12.27


プレゼント交換というよりは、エンゲージ…;
というわけで、タイトルに「?」がついております。
(クリスマス企画で書いたお話とタイトルが被っていることは秘密です!)

別に婚約させたつもりはないのですが…。
指輪を贈りあうのは意味深だよね、っということで!(どういうことだ)

バレバレかもしれませんが、このお話。
書きたかったのは冒頭の、
自分で指輪をはめて、室井さんに自慢げにお披露目する青島君でした。
嬉しさ半分、照れ半分な感じで。

後は、室井さんのお誕生日話だな!
意図せず、最後まで続いたお話になりそうです〜;
おかしいなぁ。
「我侭が許される日」を書いた時はそんなつもりはなかったのですが(笑)