■ Love so Sweet〜extra
「忘れものないか?」
身なりを整えた室井が振り返ると、青島はソファーに座ったままぼんやりとしていた。
「青島?」
名前を呼ぶと、室井を見上げて眉を下げた。
情けない顔をする。
「もう帰っちゃうんですか?」
「もうって…」
時計を確認して、続けた。
「チェックアウトまで、後10分しかないぞ」
二人が泊まったホテルは、正午がチェックアウトの時間になっていた。
他のホテルに比べれば遅い方だろうが、青島は不服そうだった。
「う〜〜〜もうちょっといたい〜〜〜」
ソファーにすがりつくように寝そべった青島を見下ろして、室井は苦笑した。
普段なら往生際の悪い青島に呆れただろうが、今日ばかりは微笑ましく感じる。
室井がいっぱい悩んで考えて決めた、青島の誕生日のお祝いをするためだけに泊まったホテル。
ここまで喜んでもらえたのなら、嬉しい限りだ。
かといって、いつまでもいられるわけではない。
「気持ちは分かるがもう時間がない」
やんわりと青島を促すが、青島は恨めしそうな眼差しを返して寄越した。
「帰りたくない〜」
「そんなわけにいかないだろ」
「分かってますけどぉ」
「……本当はもう一泊くらいさせてやれればいいんだが」
室井が小さく呟くと、青島は目を丸くした。
それは、夕べから思っていたことだった。
青島が寝たくないと言った通り、こんな豪華なホテルを満喫しようと思えば、一晩くらいではやはり足りないだろう。
室井自身は青島がそこにいるのならどこだっていいのだが、素直に喜んでくれる青島を見ればもう一晩くらいと思ってしまう。
仕事さえなければ、金銭的な多少の無理も辞さないところである。
そんな室井の内心を知ってか知らずか、青島は呆気にとられた顔で室井を見上げていたが、苦笑して起き上がると室井を手招きした。
「…?」
首を傾げつつ近付くと、青島が室井の腰に抱きついてくる。
腹に額を押し付けられて少し驚いたが、
「嘘、もう充分」
そう呟く声に目尻を下げた。
このホテルで室井と過ごした一晩に、満足していると教えてくれているのだ。
「そっか」
「お腹いっぱい」
「それなら良かった」
「でも、ギリギリまでいます」
きっぱりと言われて、室井は笑みを溢した。
「好きにしろ」
言いながら、青島の髪に触れる。
視線を持ち上げた青島と目があった。
「室井さん」
「ん?」
「まだ、いっこ、したりないことあった」
「…何?」
「ケーキ、食べてません」
確かにそのとおりである。
考えていなかったわけではないが、青島も室井も甘党なわけではない。
あれば食べるという程度だったからレストランでもルームサービスでも頼まなかったし、バースデーケーキをわざわざ用意していなかった。
しかし、青島の誕生日。
やはり用意すべきだったかと思いなおした。
「すま…」
「ケーキ買って帰って、室井さんちで食べていい?」
謝ろうとした室井を遮って、青島が言った。
室井はすぐに「もちろん」と頷く。
「ケーキ食べて、室井さんち泊まってもいい?」
室井が目を見張ると、青島がはにかむように笑った。
どうやら青島の目的はそっちだったらしい。
ケーキは、きっとただの口実だ。
もう少し一緒にいるための、理由に過ぎない。
―そんなものは、必要ないのに。
そう思いながら、室井は青島の前髪をかきあげた。
「ああ、もちろんだ」
「へへ…すいません、ありがとう」
なんかちょっと離れがたくて。
照れているのか、室井の腹に顔を埋めながら、青島が囁いた。
今が昼でなければ。
もしくは、チェックアウトがもう少し遅ければ。
もしくは、ここが既に自宅だったら。
だったらどうしたのかというようなことを考えながら、室井は青島の頭に手を置いた。
「そんなの、俺も一緒だ」
顔を上げた青島が嬉しそうに笑うから、室井は腰を折った。
室井の部屋で、コンビニで買ったショートケーキを食べながら、青島は幸せそうに言った。
「次は室井さんの誕生日っすね」
今度は俺に任せてくださいねという言葉には頷いておいて、無理はするなよと釘をさしておく。
一晩にそれなりに金を使った室井が言うのもなんだが、お祝いは金ではない。
気持ちである。
青島がいて、おめでとうと思ってくれれば、室井は多くは望まない。
そんなことは、10年の付き合いの青島だから、良く知っているだろう。
「美味い飯と酒とか、どう?」
「いいな…」
「ついでに俺のお酌つき」
室井さんなら特別に触り放題とふざける青島に、室井は真顔で頷いた。
「それは何よりの誕生日プレゼントだ」
END
2007.12.23
ただのバカップルです(わざわざ言わなくても皆さんご存知です)
特別な日の翌朝なら、別れ難いだろうなーと。
翌日青島君は室井さんちからご出勤したのではないでしょうかね(^^)
次はリカさんの更新かな♪たのしみ〜v
template : A Moveable Feast