09.「言ったのはお前だろ?」












「青島・・・」

室井が甘く囁く。

二人が抱き合うのはこれが三度目。

青島は室井の背中に腕を回し、唇を耳元に寄せた。

「こんな時くらい、呼んでくれませんか?・・・名前」

そう言うと室井は少し驚いた顔をして、それでも素直に頷いてくれる。

青島の唇に軽く口付けてから、至近距離で室井が見つめてくる。

「俊作・・・」

「!」

囁かれて、青島は硬直した。

青島の耳元で再び声がする。

「俊作」

「む、室井さん!」

何故だか慌てた青島が、ぐいっと室井の胸を押し返した。

少しだけ二人の距離が開き、驚いた室井と視線がぶつかる。

「・・・どうした?嫌だったか?」

「ち、違う。あの、そうじゃなくて・・・。あああの、やっぱり名前呼ばなくていいです」

押し倒した時より真っ赤な顔をした青島。

室井は怪訝そうな顔になる。

「どうして?」

「いや、その・・・」

「呼べと言ったのは君だろ?」

「そ、そうなんですけど」

「?」

ますます困惑する室井。

青島だってちゃんと説明したいが、上手く言葉に出来ない。

―これは、もう。自分で実感してもらうしかない。



青島は、室井の首に再び腕を絡めて、一度押し返したその体をもう一度引き寄せる。

そして、驚いている室井の耳元で囁く。

「慎次」

硬直する室井。

青島は室井の顔を見つめると、苦笑いする。

「ね?分かりました?」

「・・・なんとなく」

「こっ恥ずかしいでしょ?」

「ものすごく」



特別な人に名前を呼んでもらうことは嬉しいことだと思う。

普段は名前でなんて呼び合うことは絶対無理だから、特別な時くらい特別な名前で。

青島はそう思ったのだ。

だが、唯でさえまだまだ慣れない関係だから。

耳元で囁かれる名前はやはり嬉しいのだけど、照れくささが先に立つ。



俺が言い出したのに、と思いながらも青島は室井を抱きしめた。

「俺、室井さんが青島って呼んでくれるの、好きです」

そう言うと、室井が苦笑しながらキスをくれる。

「そうか。俺もだ」

「・・・俺たち、ゆっくりでいいですよね?」

「ああ。焦る必要はない」



ずっと一緒だから。














END
(2004.5.3)


無駄に甘いです・・・。
台詞言わせるのって難しいですね。
他にもっと良いシュチュエーションあるのでしょうが、
碌なものが浮かびません。

恋人でも友人でも名字から名前で呼ぶようになるタイミングって難しいよね、
というお話です(違)