■ 翌朝
呆然としている室井に何とか吹き出さないように気を付けながら、青島は精一杯膨れっ面を作った。
「夜中にいきなりやってきたと思ったら、寝ようとしてた俺を押し倒して…」
ぶつぶつ言いながらちらりと室井を盗み見る。
眉間に深い皺を寄せた室井は、酷く困惑しながら必死に夕べのことを思い出そうとしているようだった。
飲みに行っていたはずの自分が、何故青島の自宅で寝ているのか分からないのだろう。
しかも、素っ裸で。
仕舞いには、室井は頭を抱えてしまった。
苦悩している室井に少し申し訳なく思ったが、これくらいの仕返しは許されるだろうと青島は心の中でこっそりと舌を出した。
「俺、イヤだって言ったのに……アンタ酔っ払ってるし、俺今日も仕事だし……」
俯いて鼻を啜るように言った。
泣きまねをしている自分が可笑しくて、青島は必死で笑いを堪える。
「青島…すまない…」
ようやく口を開いた室井に、青島は俯いたまま視線だけを室井に向けた。
口元が緩みそうになるので顔を上げられないだけだったのだが、室井には傷ついているようにでも映ったのか。
痛ましそうな表情で、青島を見つめていた。
「本当に、すまなかった」
そう言って、抱き寄せられる。
力強く抱きしめられて、室井の気持ちが伝わってくるようだった。
それに気を良くした青島は、そろそろ許してやるかと思った。
元々それほど怒っているわけではないし、本当に騙してやろうと思っていたわけではない。
室井だって動揺していなければ、気が付いたはずなのだ。
青島がちゃんとパジャマを着て寝ていることにも、その下の肌のどこにも行為の痕などないということにも。
動揺している室井を見られて満足した青島は、室井の腕の中でひっそりと笑う。
「室井さん…」
実は何もなかったんです。
と青島が言うより先に、室井にガシッと両肩を掴まれて、青島は目を丸くした。
「室井さん?」
「責任を取る」
男らしくきっぱりと言った室井に、青島は唖然とする。
―いや、そんな傷物にされた女の子でもあるまいし…結婚でもしてくれる気か?
と、いささか惚けたことを考えていると、室井はいきなりベッドからおりて携帯を掴んだ。
そして、「ちょっと待っててくれ」と言い残して、リビングに消える。
青島が呆然としていると、室井は1分足らずで戻ってきた。
「君と俺の休暇をとった」
「…はい?」
「今日一日、青島のしたいようにしよう」
青島は頭が真っ白になった気がした。
―俺って、愛されてるねぇ…いやいや、喜んでる場合じゃないだろう。
―室井さん、すごい職権乱用…キャリアっていいなぁ。って、だから、そうじゃなくて。
―どうするよ、おいおいおいおいおい…。
混乱しているため一言も発しない青島をどう思ったのか、室井が抱きしめてくれる。
「酷いことをしてすまない。覚えていないなんて言い訳にもならないが、君を傷つけるつもりなんて」
「む、むろいさん」
優しく髪を梳いてくれる室井に、青島は慌てて声をあげる。
さっさと誤解を解かないとまずいと思ったのだ。
休暇までとらせて室井に尽くさせたりでもして、実は何も無かったなんてことがバレでもしたら…。
軽く青ざめた青島が何か言おうとすると、室井は優しくその口を塞いでしまった。
優しい触れるだけのキスが、心地よい。
なんてことを考えている隙は、今の青島にはないのだ。
慌てて離れようとするが、もちろん室井は離れてはくれない。
「身体辛いか?」
「い、いや、あの、室井さん」
「まだ寝てたかったら、寝ててもいいんだぞ?」
「ちょっと話を…」
「朝飯を作ろう。ああ、まずは買い物だな」
動揺が激しすぎるのか、全く人の話を聞かない室井。
かなり焦っているらしい。
かなり焦っているのは青島も一緒である。
「むろっ」
呼び止めようと下青島に掠め取るようなキスをしてからさっさと着替えを済ませて、室井は出て行ってしまった。
取り残された青島はしばらくベッドの上で呆然としていたが、心を決める。
「……夕べはあんなことやこんなことがあったということにしておこう」
多少心苦しい決断になってしまったが、ここまで来たら致し方ない。
今更何もありませんでしたなどとは、とても言えない。
恐ろしくて、言えない。
精々身体が辛そうにしておこう…と思いながら、青島は布団を被った。
買い物に行く間に冷静になった室井が、青島の態度を不自然に思ったのは言うまでもなく。
それから1時間もしないで、青島は室井に本当にあんなことやこんなことをされてしまうのだが、自業自得だろう。
END
2004.9.27
あとがき
あ、あら?何故か青島君が痛い目見てますね(^^;
おろおろする室井さんを書きたかっただけなんですけど…。
でも、おろおろはしてましたよね?
おろおろ、っていうか…頭悪そうなくらい動揺してらしたみたいですけど(笑)
どなたか「あんなことやこんなことをされてしまう青島君」を書いてくださいませんか?(おい)
※追記(2004.10.11)
本当にうらんさまが続きを書いてくださいました!
続きとはもちろん「あんなことやこんなこと」です(笑)
UNDERにアップさせて頂きました〜v
うらんさま、有り難う御座いました!
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