■ 言い忘れてた


ケンカはあまりしないほうだ。
だけど、すごくくだらないケンカをすることがある。
滅多に無いが極たまに、子供みたいな理由で子供みたいなケンカをする。
どっちが悪いとか、悪くないとかのレベルじゃない。
意地の張り合いをしているだけだ。


今がまさにそうだと、青島は思う。
室井と睨みあったまま考えてみるが、ことの発端がなんだったかは最早分からない。
目を逸らしたら負けだとばかりに、二人とも視線を逸らさない。
子供のケンカを通り越して、動物のケンカである。
「どうしてそうなんだ」
「室井さんこそ」
「俺は悪くない」
「俺だって悪くない」
じゃあ、誰が悪いんだ。
と突っ込んでくれる人もいないので、言い争いは平行線を辿る。
「室井さんのバカ」
「バカと言う方がバカなんだぞ」
「どこの小学生ですか」
「君のレベルに合わせてるんだ」
「違います。俺が室井さんのレベルに合わせてるんだ」
二人とも小学生のようだが、それにはお互い触れない。
気付いていたって触れない。


折角の休日。
室井が青島の家に泊まりに来てくれたというのに、どうしてこんなにくだらない揉め事を起こしているのか。
出来れば仲良く過ごしたい。
二人ともそう思っている。
思っているが、中々折れられない。


黙って睨み合っていたが、室井がふいに視線を逸らして立ち上がる。
青島は勝った!とは思わずに、室井が帰ってしまうのではないかと不安に思った。
不安になるくらいなら、変な意地を張らなければ良いのだが。
不安を顔に出さないように努力している青島を室井が見下ろしてくる。
「……寝る」
そう言うと、青島の寝室に入っていく。
青島は帰られなくて良かったと一瞬ほっとしたが、すぐに慌てる。
「ちょっと、俺のベッドで寝ないでくださいよ。俺の寝るとこないじゃないですか」
帰られたら困るくせに、変な意地を張り続ける青島。
自分でも馬鹿なことを言ったと思うが、もう引けないのだ。
どうしようもないケンカを続けようとする青島をちらりと一瞥して、室井はドアを閉めた。
「室井さん!」
声をかけつつ、やっぱりほっとしてしまう。
こんなときに帰られるのなんか、絶対に嫌だったからだ。
複雑な思いでドアを見つめていた青島は、再びドアが開いてビックリする。
中から顔を出した室井が、青島を見つめて言った。
「言い忘れた」
「な、なんですか。ケンカしたりないって言うんですか」
ちょっと身構えた青島に、室井は無表情に続けた。
「好きだぞ」
それだけ言うと、再びドアを閉めてしまった。


青島は絶句してそのドアを見つめる。
徐々に赤面してくる。
「こここここここの卑怯者!」


悩んだ挙句青島が寝室のドアを開けたのは、その5分後。
その先は、秘密。










END

2004.5.26

あとがき


中年男性が子供のようなケンカをしている姿を想像すると、
激しく萌えます(病)

室井さんの方が、ちょっとだけ大人。
4つの歳の差くらい(笑)



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