44.「世界の終わりを見た」












宿舎に帰る途中のスーパーの前で、新城は足を止めた。

明日の朝食になるようなものが何もないことを、ふと思い出したのだ。

外食がほとんどの新城だが、独身の一人暮らしのため、朝食くらいは自分で用意する。

食パンくらい買って帰るかと、ふらりとスーパーに立ち寄った。

滅多に来ることの無いスーパーなので、どこに何があるのか良く分からずにうろうろしていると、

ふいに妙なモノが視界に入って足を止めた。

正確にはモノじゃなくて人なのだが。

新城の視線の5メートル先には、何かの試食コーナーがあった。

そこに、スーパーには不釣合いな黒いコートの先輩警察官僚と、緑のコートの暴走所轄刑事の姿が

あった。

新城は唖然とする。

室井がここにいるのはおかしくない。

新城と同じく宿舎住まいなのだ。

近くのスーパーに買い物に来ていたって、何らおかしなことはない。

この近所に住んでいるとは思えないが、このスーパーに青島がいることも、まあいいとしよう。

気になるのは、何故室井と青島が一緒にスーパーで買い物をしているのかということだ。

二人が仲が良いことは、いい加減新城も良く分かっている。

新城にとってみれば、捜査がやりにくくなるほどあの二人は仲が良い。

捜査に対する考え方が一緒なのだという。

腹立たしいことに。

しかし一緒に買い物をしているということは、夕飯を共にしようということなのだろうから、個人

的にも仲が良いということになる。

そこまで二人が親密だったとは新城は知らなかった。

呆然と二人を見ていると、室井が青島に試食品を手渡してやっている。

受け取った青島がそれを口にいれて、笑った。

青島が何かを言うと、室井は苦笑してその製品を青島が押しているカートに入れた。

新城は呆然を通り越して、魂の抜かれたような顔でそれを見ていた。

―なんだ、あれは。あれが、上司と部下の姿か?それよりよっぽど・・・。

「新婚夫婦じゃないか」

思わず呟いて、新城は慌てて首を振った。

なんて恐ろしいことを考えているんだ私は・・・と、激しく後悔する。

あれが新婚夫婦に見えるなど、自分の目はどうかしているのだ。

そう。

そんなものに見えるはずがない。

ありえない。

そう言い聞かせながら、ちらりと遠ざかる二人の姿を見やる。

仲睦まじく買い物をする様を見送って。

新城は買い物をするのを諦めた。

何故だか、顔を合わせたらいけない気がしたのだ。

あの二人が仲が良いことは再三言うが良く分かっている。

だが、いい加減上司と部下という枠から激しくはみ出しているように見えるのは気のせいか。

「・・・・・・・・・」

気のせいだ。

そんなことは、ありえない。

またもしつこく自分に言い聞かせながら、そそくさとスーパーを出る。

世の中には触れてはいけないことは山ほどある。

知らなくていいことは知らないままでいたほうがいいのだ。

それが、上手に生きるコツというものだ。




「新城?」

スーパーから出てくる新城を見つけて、一倉は声をかけた。

その顔があまりにも思いつめたような表情だったから、少し驚く。

「何だ、世界の終わりを見たような顔して」

「・・・・・・似たようなもんです」

「は?」

「・・・失礼します」

軽く会釈をして通り過ぎていく新城。

一倉はその後姿とスーパーを見比べて、首を捻る。

一体、スーパーの中に何があるというのか。

夫人から買い物を頼まれていたので回れ右をするわけにもいかず、一倉は首を傾げたままスーパー

に入っていった。




出てきた一倉が、新城と同じ顔をしていたことは言うまでもない。























END
(2004.11.7)


パンドラの箱を開けちゃった気分の新城さん・・・。
時期的にはいつなんでしょうかねぇ・・・(お前が聞くな)

室青と絡んでませんが、新城さん(&一倉さん)の受難話でしょうか。
きっとまた書きます(笑)