42.「勝手に殺すな」












「大体あんな面白みの無い奴のどこがいいんだ?俺の方が楽しませてやれるぞ」

一緒にいると最高に楽しいよ、室井さん。大体アンタの場合、楽しくなるのは自分だけだろ。

「室井さんだったら、私の方が出世していて期待出来るだろう。お前の力にもなれるはずだ」

放っておいてくれ。出世は大事だけど、それが全てじゃない。出世しか見えなくなった室井さんな

んて、室井さんじゃない。

「先輩!話下手な室井さんよりも僕のほうが絶対お買い得ですって!交渉は任せてください!なん

ていったって、 ネゴシエーターですからね!」

お前は他にセールスポイントはないのか。お生憎様。俺は口下手な室井さんが好きなんだ。






好き勝手なことをのたまうキャリア組みに、青島は酔いからではない頭痛を覚えた。

どういう経緯だったかもう既に定かではないが、一倉・新城・真下それから青島の4人で飲んでい

た席でのことだった。

酔っ払ったキャリア組みが、どういうわけだが青島に必死に自分を売り込んでくる。

それを青島は酔っ払いの戯言と片付けてしまったが、それは青島自身が酔っ払っている証拠だろう。

この三人が密かに青島にアプローチしていることに、アプローチされている本人全く気が付いてい

ない。

好き勝手に室井を虚仮下ろされて、そのことだけに憤慨する。

「ちょっと、室井さんの悪口言うの止めてくださいよ」

青島が意義を申し立てると、一倉がニヤリと笑う。

「そんなにあいつが好きなのか?」

「何がいいんだ、そんなに」

「そうですよ!・・・あ、もしかして、上手いんですか?」

「何?それなら、俺と試してみないか?もっと良くしてやるぞ」

「な、何をっ!・・・・・・それなら、俺だって」

「いやいや、若い分、僕の方が!」

話がドンドン下世話な方向に向かっていって、青島はあからさまに顔を顰めた。

「何、阿呆なこと言ってるんですか。大体、それ、セクハラ」

警察官のすることじゃないと指摘するが、三人とも青島の話など聞いちゃいない。

「バカ、若けりゃいいってもんじゃないぞ」

「そうだ。技術がいる」

「交渉術なら負けません!」

「ああ、まあ、言葉っていうのも大事だがな。口先だけでテクニック無かったら笑われるぞ」

「若い分、経験値は低そうだが?」

「し、失礼な!」

この頭の痛い会話の中心に自分がいるのかと思うと、頭が割れそうに痛い。

青島はとうとう我慢が出来ずに席を立つ。

「いい加減にしてください。俺、先帰りますからね」

室井の悪口を聞かされた挙句のセクハラに、いくら酒の席とはいえ、もう我慢の限界である。

「あ、青島」

席を離れようとした青島に、一倉が声を掛けてきた。

青島は仕方が無いから足を止める。

「何すか?」

「未亡人になったら、いつでも来いよ?」

待ってるから、などとにこやかに言った一倉に、青島は一瞬絶句した。

それから、眉間に室井バリの皺を寄せる。

「室井さんを勝手に殺さないでください!」

怒鳴ると、今度こそとっとと店を出た。

「何考えてるんだ!あの人たちは!」

ブツブツ言いながら、夜道をずんずん歩く。

すれ違う人に何事かと見られたが、気にしていられない。

憤慨したまま少し歩いて、ふと足を止める。

そして、胸ポケットから携帯を取り出す。

無性に室井に会いたくなった。

夜も遅いし迷惑かと思い少し悩んだが、結局リダイヤルする。





「あ、室井さん?すいません、夜分に・・・寝てました?」

「良かった・・・え?あ、いえ、別に何もないですよ?」

「違いますって、何も、無いです。ただ、声聞きたくなっただけ」

「え?・・・・・・すいません、ありがとうございます」

「室井さん、これから会いに行ってもいいですか?」

「すぐ、行きます」





さっきまでの不機嫌な青島はどこへやら。

携帯を切った青島は死ぬほど上機嫌だった。


























END
(2004.10.20)


総受け?なのかな?(おい)
一倉さんはきっと、青島君をからかって遊んでるだけじゃないでしょうか。
「未亡人」とか言ってますからね。
新城さんと真下君はマジくさいな・・・(笑)