■ ここにいさせて


玄関のドアを開けた室井は、驚いた。
いきなり青島が飛び出して来たからだ。
しかもしっかりと室井に抱きついてくる。
「あ、青島?」
目を白黒させつつ、とりあえず青島の背中を支えてドアを閉める。
「どうかしたのか?」
今日は会う約束は無かった。
例え会う約束があったとしても、会ったそうそうハグをするなんて情熱的なタイプではない。
少なくても今までには無いことだった。
酔っ払っているのかと思ったが酒臭くはない。
何かあったかな、と思いその背を軽く摩ってやる。
「青島?」
優しく尋ねると、青島はようやく顔を上げた。
室井は軽く息を飲む。
青島の今にも泣き出しそうな表情に、再度驚いた。
「青島?何かあったのか?」
「室井さん」
「どうした?」
唇を震わせた青島が、また室井にしがみついてくる。
「俺じゃ、もうだめだってことですか?」
「!?」
いきなり言われても、室井にはなんのことだか分からない。
駄目なわけがないだろうと混乱する頭の片隅で思いつつ、青島の背中を抱きしめる。
「青島?一体」
「俺のわがままなのは分かってます。俺じゃ室井さんの役に立てないってことも。でも」
「待て、何の話を」
「でも嫌なんだ!」
「な、何が!」
「アンタが結婚するなんて!」
「!」
痛々しいまでの叫び声に、室井はようやく青島が何の話をしているのか悟った。
青島は室井にしがみついたまま、小さな声で言った。
「……ここにいさせてください」
呆然とそれを聞いていた室井は、次第に表情が緩むのを抑えられない。
幸い青島は室井の肩に顔を埋めているので、それを見咎められることは無かった。
ぎゅっとしがみついてくる青島がどうしようもなく愛しくて、室井は微笑んだ。
「青島」
「室井さんが見合いしたって聞いて、俺」
「その場で断ってきた」
一瞬の間の後、青島が弾かれたように顔をあげた。
確かに見合い話があった。
何度も刑事局長から頼まれていたのだ。
「あんまりしつこいから見合いを受けて、その場でお断りしてきた」
そんな失礼なことをしたんだから二度と声は掛からないだろうと他人事のように言うと、呆けている青島を見て苦笑した。
「…室井さん、結婚しないの?」
「生憎だが、俺は君じゃないと駄目らしいんだが」
「お、俺の勘違い?」
「そうなるな」
短い沈黙の後、青島は音を立てる勢いで赤面した。
「失礼しましたっ」
室井から離れると慌てて逃げ出そうとする青島の腕を掴むと、今度は室井が青島を背後から抱きしめた。
「なんで逃げる?」
「い、いや、だって」
赤くなっている耳元に、室井は唇を寄せた。
「青島」
耳元で囁くと、逃げ出そうとしていた青島が大人しくなる。
それでも、こちらを振り返ろうとはしない。
背を向けたまま俯いているから、抱きしめていても表情が見えない。
「…最悪だ」
「何で?」
「こんな泣いて縋るようなマネ、絶対しないつもりだったのに」
別れる時は笑顔でって決めてたのに。
小さく呟かれて、室井は青島をキツク抱きしめた。
いつか訪れるかもしれない別れの瞬間が来たら、その時は笑って身を引くつもりでいたのだろう。
室井のために。約束のために。
それが、実際に―誤解ではあったが、現実に起こったら、その通りにはいかないことがはっきりしてしまった。
それが「最悪」なのだろう。
「俺は安心した」
素直に言うと、肩越しに少しだけ青島が振り返った。
「君にあっさり捨てられたら、俺こそきっと泣いて縋る」
抱きしめている室井の手にそっと触れてくる。
「……俺きっと、室井さんが本当に結婚する時にも、同じことする」
青島が辛そうに言うから、室井は思わず微笑んだ。
それだけ青島が自分を思ってくれているという証拠だ。
室井と別れたくないと思ってしまう自分を嫌悪している青島には申し訳ないが、こんなに嬉しいことは無い。
室井の表情を見て、青島は膨れっ面を浮かべた。
「何、嬉しそうな顔してんですか。人が悩んでるっつーのに…」
青島がブツブツと零すが、室井は気にしない。
「嬉しいんだから、仕方が無いだろう」
「喜んでる場合じゃないですって、室井さん。俺、アンタが婚約でもしたら破談にするくらいのことはやらかすかもしれませんよ?」
「それは困るな」
そう言うと青島の顔が強張った。
「俺が婚約するとしたら、相手は君くらいしかいないから」
そう言うと、回した手で青島の首を引き寄せて、唇を重ねた。
触れた瞬間は硬直していた青島も、舌で唇を割るとすぐに応じてくれる。
キスが深くなると、青島は一旦顎を引いて身体を離した。
向きを変えてから室井の首に両腕を回すと、再び唇を重ねてくる。
青島の背中を玄関に押し付けると、室井は夢中でその唇を貪った。
「…っ」
「…誤解させてすまない」
キスの合間に小さく囁くと、青島はぼうっとした顔で軽く首を振った。
「いや…俺こそ、早とちりですいません…」
「俺は全然構わないが」
「………だから、嬉しそうな顔しないでくださいってば」
ぶつぶつ言いながら目を瞑った青島が、再び顔を寄せてくる。
近づいてくる青島の唇を待ちながら、室井は優しく微笑んだ。










END

2004.12.12

あとがき


「決意」に続いて、見合話です。
今回は軽いノリで。
本当はもっとギャグっぽくするつもりだったのですが…失敗です(笑)
「俺を捨てて結婚なんてしないでよ!」と縋る青島君。
有り得ないとは思いますが、たまにはこういうことがあってもいいんじゃないかと〜。

室井さん、刑事局長に苛められるんじゃないでしょうか。
それだけ、青島君を愛しているということで!ね!(何)
…無理があるのはいつものここと、目を瞑ってやってください(^^;



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