39.「さて、と」












青島は玄関で靴を履こうとして、靴紐がほどけていることに気がついた。

「あ、先、出ててください」

一足先に靴を履いて玄関で待っていてくれた室井に声をかけた。

昨夜青島の自宅に泊まった室井と、今日は一緒に出勤するのだ。

青島は廊下に腰を下ろして、靴紐に手を掛けた。

結び直してみて、青島は首を傾げる。

「あれ?」

蝶々結びが縦になってしまっている。

革靴の紐がこれでは、格好が悪い。

一旦解いて縛りなおすが再び縦になってしまい、青島は渋面になる。

頭上で室井が吹き出したから、尚更だ。

「・・・室井さん」

「すまない」

謝ってはくれたものの、笑いを引っ込めてくれる気はないらしい。

室井はクスクス笑いながら、青島の足元にしゃがみこんだ。

「貸せ」

変わりに縛ってくれるつもりらしく、手を差し出される。

が、青島は慌てて首を横に振った。

「いっ、いいですよ!自分でやります、子供じゃあるまいし・・・」

「遅刻するぞ?」

「うっ・・・」

室井の言う通りだし申し出は有難いのだが、非常に照れくさい。

青島が渋っていると、室井が追い討ちをかける。

「置いていくぞ?」

「・・・・・・・・・お願いします」

仕方なく、青島は室井に任せることにした。

折角駅までは一緒に行けるのに、置いていかれるのは嫌だったから。

室井は苦笑しながら、青島の靴紐に手を伸ばした。

器用な指先が、綺麗な蝶々結びを作る。

「ほら」

あっさりと出来上がった綺麗な蝶々結びを見て、青島は物凄く子供染みているが面白くなかった。

「青島?」

反応がない青島を、室井が訝しげに覗きこんでくる。

青島はその顔を両手で掴んで引き寄せた。

何の防御も無い室井はあっさりと青島の方に傾いた。

慌てる室井に構わず、青島はその唇を自分のそれで塞いだ。

朝っぱらから玄関で交わすにしては濃厚な口付けを室井に贈る。




「お礼です」

唇を離して、ニッコリ笑う青島。

お礼というよりは、ちょっと悔しかったから驚かせてやりたかっただけだ。

目を剥いている室井が見れて、目的は果たしたといえる。

手助けをしたのに仕返しをされたのでは、室井も割に合わないだろうが。

「さて、と。行きますか」

今度は青島が室井を促す。

室井が先に玄関を出てくれないと外に出れないのだ。

だが、室井は動かない。

「室井さん?」

呆けている室井を今度は青島が覗き込んだ。

すると、ガシッと両腕を捉まれて、青島が目を剥く番だった。

「む、室井さん?」

「・・・遅刻するぞ」

それは、忠告ではなくて宣言だ。

「は?」

訳が分からないでいる青島に構わず、室井は青島の靴を脱がしてしまう。

そして、ずるずると青島を引き摺って室内に戻る。

「ちょ、ちょっと!室井さん!マジで、遅刻しますって!」

目を白黒させて叫ぶ青島を一瞥する室井。

「責任は取ってもらうからな」

「は、はい?」






つまらない意地で、朝っぱらから室井のスイッチを押してしまったらしい青島。

遅刻どころか、欠勤だったそうな。
























END
(2004.6.13)


青島君、お子様になってしまいました。
靴紐が縛れないだけじゃなくて、妙にいじっぱりです。
よほど悔しかった模様です。
・・・その後エライ目にあったはずですけどね(笑)

靴紐、縦に結んじゃうことないですか?
蝶々結びを綺麗に結ぶって、結構難しいと思うのですか・・・。