「あ、先、出ててください」
一足先に靴を履いて玄関で待っていてくれた室井に声をかけた。
昨夜青島の自宅に泊まった室井と、今日は一緒に出勤するのだ。
青島は廊下に腰を下ろして、靴紐に手を掛けた。
結び直してみて、青島は首を傾げる。
「あれ?」
蝶々結びが縦になってしまっている。
革靴の紐がこれでは、格好が悪い。
一旦解いて縛りなおすが再び縦になってしまい、青島は渋面になる。
頭上で室井が吹き出したから、尚更だ。
「・・・室井さん」
「すまない」
謝ってはくれたものの、笑いを引っ込めてくれる気はないらしい。
室井はクスクス笑いながら、青島の足元にしゃがみこんだ。
「貸せ」
変わりに縛ってくれるつもりらしく、手を差し出される。
が、青島は慌てて首を横に振った。
「いっ、いいですよ!自分でやります、子供じゃあるまいし・・・」
「遅刻するぞ?」
「うっ・・・」
室井の言う通りだし申し出は有難いのだが、非常に照れくさい。
青島が渋っていると、室井が追い討ちをかける。
「置いていくぞ?」
「・・・・・・・・・お願いします」
仕方なく、青島は室井に任せることにした。
折角駅までは一緒に行けるのに、置いていかれるのは嫌だったから。
室井は苦笑しながら、青島の靴紐に手を伸ばした。
器用な指先が、綺麗な蝶々結びを作る。
「ほら」
あっさりと出来上がった綺麗な蝶々結びを見て、青島は物凄く子供染みているが面白くなかった。
「青島?」
反応がない青島を、室井が訝しげに覗きこんでくる。
青島はその顔を両手で掴んで引き寄せた。
何の防御も無い室井はあっさりと青島の方に傾いた。
慌てる室井に構わず、青島はその唇を自分のそれで塞いだ。
朝っぱらから玄関で交わすにしては濃厚な口付けを室井に贈る。
「お礼です」
唇を離して、ニッコリ笑う青島。
お礼というよりは、ちょっと悔しかったから驚かせてやりたかっただけだ。
目を剥いている室井が見れて、目的は果たしたといえる。
手助けをしたのに仕返しをされたのでは、室井も割に合わないだろうが。
「さて、と。行きますか」
今度は青島が室井を促す。
室井が先に玄関を出てくれないと外に出れないのだ。
だが、室井は動かない。
「室井さん?」
呆けている室井を今度は青島が覗き込んだ。
すると、ガシッと両腕を捉まれて、青島が目を剥く番だった。
「む、室井さん?」
「・・・遅刻するぞ」
それは、忠告ではなくて宣言だ。
「は?」
訳が分からないでいる青島に構わず、室井は青島の靴を脱がしてしまう。
そして、ずるずると青島を引き摺って室内に戻る。
「ちょ、ちょっと!室井さん!マジで、遅刻しますって!」
目を白黒させて叫ぶ青島を一瞥する室井。
「責任は取ってもらうからな」
「は、はい?」
つまらない意地で、朝っぱらから室井のスイッチを押してしまったらしい青島。
遅刻どころか、欠勤だったそうな。
END
(2004.6.13)
青島君、お子様になってしまいました。
靴紐が縛れないだけじゃなくて、妙にいじっぱりです。
よほど悔しかった模様です。
・・・その後エライ目にあったはずですけどね(笑)
靴紐、縦に結んじゃうことないですか?
蝶々結びを綺麗に結ぶって、結構難しいと思うのですか・・・。