■ 眠い……
疲れているのも良く分かる。
出来るなら、寝かせておいてやりたい。
だけど、二人っきりで会うのは約一月ぶりなのだ。
それも折角の休日。
ベッドで死んだように眠る室井を見ながら、青島は溜息を吐いた。
約束の10時に室井の自宅を訪れたのだが、インターホンを押したところで室井は出てこない。
いないはずはないと思い合鍵で侵入すると、やはり室井はいた。
寝室に。
珍しいことに10時を回っても起きられなかったようである。
余程疲れているのだろうと思い、青島はそのまま室井を寝かせておいてやることにした。
それから2時間経った現在。
12時を回っても起きる気配のない室井に、さすがに痺れを切らしたのだ。
申し訳ないし可哀想だが、室井に起きてもらわないと自分が可哀想である。
会えなかった分だけ、青島がどれだけ室井に会いたかったかなど言うまでもない。
「室井さん」
遠慮がちに声をかける。
泥のように眠った室井には、そんな声が聞こえるはずもない。
青島は仕方なく室井を揺り起こす。
「起きてください。12時過ぎましたよ」
揺らしながら声をかける。
が、青島の手を室井は煩わしげに払った。
青島は少しだけ傷つきながら、寝ぼけている人の態度に傷ついても仕方がないと自分を慰める。
そして、再度チャレンジする。
先ほどより大きく揺すると、さすがに室井も目を開けた。
起きたかなと思い、その顔を覗き込むと視線が合う。
恐ろしく寝ぼけた瞳と。
「室井さん」
「…………あおしま?」
「そうですよ。起きてくださいよ」
「…………そうか」
「室井さん?12時過ぎましたってば」
「…………会いたかった」
…………。
だから、寝ぼけている人の発言に喜んでも仕方がない。
青島は溜息を吐いた。
「室井さんってば」
「……」
「起きてくださいよ!」
再び瞼を落とした室井に青島が大きな声を上げると、室井は顰め面をして布団を深く被ってしまった。
「…………眠い」
それだけ言うと、グーグーと寝息を立て始める。
さすがの青島も、ムカッと来る。
青島だってここ数日暇だったわけではない。
室井ほどじゃないかもしれないが、青島なりに仕事を必死で片付けて来たのだ。
今日の約束のために。
それなのに会いに来てみれば、当の室井はご覧の有様である。
青島が腹を立てても不思議はないだろう。
「室井さんのバカ」
青島は小さく呟いて、寝室を後にした。
室井は目を覚まして、一瞬「何だ。まだ朝方か」と思った。
部屋が薄明るかったからだ。
随分寝た気がするが、それだけ深い眠りだったのだろうか。
などと考えて、そんなわけがないと思いなおす。
寝たのが朝だったのだから、朝方のわけがない。
そして、時計を見た。
もうすぐ5時になるところだ。
室井はぎょっとする。
薄明るいのではなくて、薄暗くなってきているのだ。
「寝すぎたのか…」
自分でもびっくりするほど寝ていたらしい。
折角の休日を無駄にしたな。
ベッドから降りながらそう思って、室井はピタッと動きを止めた。
「青島!」
ようやく思い出した、青島との約束。
10時に室井の自宅で会うことになっていたのだ。
室井は慌ててベッドから降りると、リビングに向かった。
だが、リビングに青島の姿はない。
青島が来ていないはずはない。
用事が出来たのなら断りの連絡くらい寄こすだろうが、携帯に着信履歴も残っていない。
見ると、リビングのテーブルの上に飲みかけのコーヒーカップがあった。
青島がいた証拠である。
「帰っちゃったのか…」
本人がいた形跡があるのに、本人の姿はない。
いつまで経っても起きない室井に、怒って帰ってしまったのだろうと思った。
室井は激しく後悔した。
ここ数日殺人的に忙しかったのだが、何とかもぎ取った休日だった。
今日のオフのために、3日間は貫徹に近かった。
何とか今朝までかかって仕事を終えたのは、青島と会うためだけだったのに。
それなのに。
「最低だな」
室井は寝すぎでだるい身体をソファーに投げ出し、額に手を当てた。
寝過ごしたどころの騒ぎじゃない。
恐らく青島は起こしてくれただろうし、自分が起きるのを待っていてもくれただろう。
青島だって暇なわけがない。
時間を作って自分に会いに来てくれたのに。
一月も顔を合わせなかった挙句、久しぶりの逢瀬がこれでは捨てられたって文句も言えない。
そう思い立って、室井は身体を起こした。
青島に謝らなければ、と思ったのだ。
とりあえず電話で掴まえて、謝って、それから会いに行こう。
そう決めて携帯を手に取る。
と、玄関のドアが開く音がして、室井は手にしたばかりの携帯を放り出した。
急いで玄関に向かうと、そこには会いたかった人。
「青島…」
「あ、やっと起きた」
目を丸くした青島が呆れたように声を上げた。
両手には買い物袋。
「帰って来てもまだ寝てたら、ベッドから蹴り落としてでも起こそうと思ってました」
室井さんに怪我をさせずにすんで良かったです。
と、物騒なんだか、愛があるのだか分からない台詞を吐く。
靴を脱ぐために買い物袋を床に置いた青島に、室井はいきなり抱きついた。
「わっ!ちょっと…」
「すまない」
「室井さん?」
室井はもう一度謝罪した。
怒って帰られても仕方がない状況だった。
間違っても故意ではないが、約束を破り夕方まで寝こけて、折角会いに来てくれた青島を放り出してしまったのだから。
顔を合わせた早々落ち込んでいる室井の背中を、青島はぽんっと叩いた。
「そりゃあ、ね。俺だって、ちょっとは腹立ててましたけどね」
「すまない」
「いいから、話聞いてくださいよ」
「すまない」
他の言葉を忘れてしまったかのような室井に、青島は苦笑した。
「もう、いいですってば……本当は帰ろうと思ったんですけどね」
やはり怒っていないわけじゃなかったのだろう。
青島がそう言うと、室井は抱きしめる腕に力を込めた。
「帰ろうと思って、煙草の吸殻を処分しようとして台所に立ったら、珍しく散らかってて。ついでだから片付けようと思って、茶碗洗って片付けたら、今度は洗ってない洗濯物が溜まっているのが視界に入ったんです」
確かにここのところ忙しく、台所はもちろん洗濯すらまともに出来ない状態だった。
呆れられたかなと不安に思い青島の顔をちらりと覗き見ると、青島は楽しげに笑っていた。
「気になったから、洗濯して干し始めたら、何だか気が晴れちゃって」
「青島?」
「ああ、こんなに忙しいのに、俺に会おうとしてくれたんだなぁって。それだけで満足しちゃったんですね、俺」
安上がりだなぁと青島が笑いながらぼやく。
室井は目を見開いた。
思わずじっと青島を見つめると、青島は照れたように笑った。
「あ、だから、怒ってないわけじゃないんですよ?やっぱり寂しかったし、会いたかったし、声聞きたかったし」
「青島…」
「室井さんは?」
半ば感動して言葉を詰まらせていた室井に、青島が覗き込むようにしながら尋ねてくる。
その瞳に誘われるように、室井は素直に口を開いた。
「俺も会いたかった。声を聞きたかったし、抱きしめたかった」
そういうと、腕の中の恋人は嬉しそうに笑った。
「それなら、許しましょう!」
END
2004.9.8
あとがき
室井さんが青島君に甘いように、青島君も室井さんに甘いんじゃないかと。
そして、たまには青島君が室井さんの世話を焼いてくれると萌えるなぁっと(笑)
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