青島の小さな声を聞いて、室井は新聞から顔を上げた。
見ると青島が舌を出している。
手には湯気の上がったマグカップ。
「火傷したのか」
「あい」
口を閉じずに返事をするものだから、子供みたいな発音になる。
室井は苦笑した。
視線の先では、青島が犬のように舌を出したまま情けない表情を浮かべている。
「慌てて飲むからだ。・・・どれ」
近づいて、青島の顎を掴む。
舌先を見ると赤くはなっているが、皮が剥けるほど酷くはなさそうだ。
「氷でも―・・・」
持ってきてやろうかと言いかけて、言葉を飲み込む。
青島が不思議そうに室井を見て、首を傾げた。
赤くなった舌を出したまま、きょとんと見上げてくる。
なんというか。
そう無防備に見つめないで欲しい。
室井は顎を掴んでいた手はそのままに、空いた手で青島が持っていたマグカップを取り上げてテー
ブルに置いた。
「室井さん?」
「舌、出せ。治療してやる」
「え?あ、はい」
だから、そう無防備に言うことを聞くんじゃない。
室井は心の中で苦笑しながら、自分の舌で青島の舌に触れた。
ぎょっとしている青島を見つめたまま、目を細めて青島の舌を舐める。
なるべく痛まないようにそっと。
ようやくキスとは違う触れ合い方を認識したらしい青島が赤くなる。
何度か繰り返して離れると、口を押さえた青島に睨まれる。
「・・・何が治療ですか」
「治療だ。唾液による治療は尤も原始的な治療方法だと思うが?」
なんて、しらっと返す。
オヤジなのは室井自身百も承知で、開き直った方が勝ちなのである。
青島と付き合うようになってから、室井はあまり自分の欲望を隠さない。
仕事では役職柄、私生活では生真面目な性格から、わりと何でも我慢してしまうタイプだが、そう
しなくてもいい場所があるということを、青島から教えてもらった。
「だったら、俺の唾液でいいじゃないっすか」
照れくさいのか不服を申し立ててくる青島に、室井は苦笑した。
「俺の方が効果的だ」
「なんで」
「愛がこもってるから」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
嘘臭いと思ったのか、睨まれる。
普段滅多に愛なんて言葉を口にしないから、からかっていると思ったのかもしれない。
室井は至極真面目に言ったのだが。
どう伝えようか考えているうち、青島がまたベッと舌を出した。
睨まれていたのであかんべをされているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
薄っすらと頬が赤い。
「青島?」
「まだ、痛い」
室井が目を丸くすると、青島は目だけでちょっと笑った。
「治してくれるんでしょ?」
そして、目をつぶる青島。
室井は微笑んで、再び顔を寄せた。
END
(2004.8.10)
えーと・・・。
そろそろ言い訳が浮かびません・・・(^^;